第10話 条件
「地耐性防具…………ですか?」
私が出した条件を聞いたトキリは、オウム返しでそう答えた。
「うん。フェアリーとドラゴニュートの件は知ってるよね?」
「もちろんです!それも動画撮りに参加しようかなって思ってますから!」
「あー、そうなんだ」
そのあたりはあまり考えていなかったが、たしかに戦争をする二つの種族以外でも、防衛側としてなら戦争に参加することができる。そのシステムでゲーム動画を投稿している人や配信者、賑やかし目的といった人がフェアリー側で参戦してくれるというパターンはあるかもしれない。まあ、そのような人たちがどこまで防衛自体に参加してくれるかは不明だが。
「私たちがここに来たのはそれが目的でね。フェアリー領じゃ今色々ゴタゴタしてるから、こっちで地耐性防具とか風属性武器とかを狙いに来たってわけ」
「ほうほう…………しかし、あと二日で装備狙いとはなかなか厳しいのでは?」
「ま、そうなんだよね」
トキリの言う通り、装備品というのは滅多にドロップすることがない。だからこそ私たちがまだ手を出せないほどの価格で取引がされているのだが、二日で装備ドロップを狙うというのはかなりの廃人プレイをしなければ至難の業だった。
「とはいえ、私もニアも暇じゃないからそこまで時間も取れないんだよね。だからここまで来たのは、最悪装備が手に入らなくてもここまでの転移登録ができればまあ時間の無駄にはならないかなって」
「そうだったんですねぇ」
うんうんと頷くトキリ。
一方でニアにもこの考えを話したのは初めてだったのだが、特に反応も示さずにひたすらスイーツを口に運んでいた。
「それで、どう?」
「むむ…………そうですね、持っていることには持っていますが」
「ほんと!?」
正直ダメ元だったので、トキリの言葉に思わず叫んでしまう。
ところがそんな私とは裏腹に、トキリは渋い顔をした。
「いや、しかし、装備はさすがに…………」
たしかにそれはそうかもしれない。
突発的な思い付きで私たちに声を掛けてきたトキリに、装備を出せというのは言い過ぎというやつだろう。少なくとも今はリリース一か月ということもあり、レアドロップ品である装備は全体的に高価な代物だ。
「それじゃ、一回とは言わずにその装備の対価と等しいなってトキリが思えるまで協力するよ」
「むむ…………」
「ほら、こっちはリアルJSだよ?」
「ほへ?」
交渉材料として、頭を撫でながらニアを差し出す。
当のニアはというと、スイーツを頬張りながら私とトキリの顔を交互に見回していた。
「しかし、装備となると…………」
「装備なんてまた手に入るって。トキリに今必要なのは何?」
「それは、人気ですが…………」
「私たちには今装備が必要なの。ほら、WinWinでしょ?」
大丈夫大丈夫。私たちが人気出るとは一言も言ってないし。装備さえ手に入れば…………って、別に詐欺するつもりじゃないけど。
そんな私の口車に悩む素振りを見せたトキリは、生唾を一つ呑み込むと、意を決したような表情を見せた。
「わかりました!私も実況者の端くれですからね!面白そうなことには投資してみせますとも!」
その宣言に、小さく握りこぶしを作る私。
装備一つ分なんて、せいぜい数回協力知れば解放してくれるだろう。伸びればすぐに回収できるはずだし、伸びなければそれこそやっている意味がないからだ。それに対して装備というのは、FWOのダメージ計算の仕様上防御力や耐性が倍になればダメージはほとんど半分に抑えられるのだ。そこまで単純な式ではないようで完全に半分というわけではないが、これはつまり低いステータスは防具やアクセサリー、オーブで補うかどうかでかなりの差が出るということになる。今の私たちにとって、地耐性が上がる装備というのは持っているか持っていないかでかなりの差が出るものなのだ。
「それでは早速装備の方を送りましょう!」
「うん、ありがとう。一旦私の方に───」
渡して貰える?と言おうとしたその時。私の視界に、一つのウィンドウが表示された。
『【スチルアーマー】
【スチルアーム】
【風珠】
がトキリから送られてきました』
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