第9話 残念系お姉さん



「さあさあ、お好きなものを頼んでください!」


 エンジェルカフェは、何の変哲もない天使族のNPCがやっている普通のカフェだった。まあ普通とは言ってもエンジェル要素は無理やり取り入れているようで、エンジェルスイーツやらエンジェルドリンクといった謎のメニューがあったりもするが。


「それじゃあ私は、オレンジジュースとアップルパイ…………と、エンジェルスイーツを一つずつで」

「あ、それ頼むんだ」

「せっかくですし。うささんは頼まないんですか?」

「んー、私はレモンティーのアイスでいいかな」

「では私がエンジェルドリンクを頼みましょう!」


 …………なぜ?

 という視線をトキリに送ってみたが、反応なし。ニアも気にしていないようだし、そういうノリかなにかなのだろう。

 というか、おすすめのカフェならおすすめのメニューも教えてよ。


「それで、早速本題なのですが…………と、その前にお二人のお名前をお伺いしても?」

「私はうさ公」

「ニアです」

「うさ公さんとニアさんですね。えーっと、改めまして私トキリという者なのですが、実は動画投稿をしているものでして…………」


 動画投稿。この流れでいえば、おそらくはこのFWOのプレイ動画を登校しているのだろう。うちの領主のミナモと同じ、ゲーム実況者というやつだ。


「まあそうは言っても、胸張って実況者だなんて言えるほど伸びているわけではなくてですね。あ、基本的には攻略動画を投稿しているのですが、これがFWOだと種族の問題で私の場合需要が天使族を選んだ人にしかなかったりとか、そんな感じで…………って、そんなことどうでもいいですよね。あのー、それでお二人に声を掛けたのはですね、ちょっと私の動画のネタに…………あーいえ、何と言いますか…………動画に協力を…………」

「…………」


 話が下手すぎる…………動画伸びてないのそのせいでしょ。

 なんていうのは置いておいて、動画のネタね。まあ他種族の領地にやってくる人なんて珍しいし、今じゃドラゴニュートとフェアリーの話は界隈を盛り上がらせているからネタとしては十分ということだろう。しかし、いきなりそんなことを言われても正直困った反応をすることしかできない。

 そんな私たちの戸惑いを、ニアが代表して聞いてくれた。


「協力って、何をするんですか?」

「何を…………そのー、まだ具体的なことは…………」

「私たちに何かメリットはあるんですか?」

「メリット…………えーっと、何かお礼を…………」

「何かって…………まだ何も考えてなかったってことですか?」

「えと、その…………はい」


 トキリの返事を聞いて、ニアがため息を漏らしながらアップルパイを口に運ぶ。


「まっらく。ほういうのははひにはんらへ%&$@¥…………」

「……ニア、行儀悪いよ」

「───んっ。そういうのは先に考えてから行動してください。お話になりませんから」

「そ、そうですよね…………」


 何をそんなに焦っているのやら、ニアはグチグチと文句を言いながら次々とアップルパイを口に運んでいた。

 そんなニアの行動に、むしろトキリ側が困惑する事態になってしまう。いや、私は二重で困惑させられているのだけれど。


「だいたい最初っからそうでしたからね?美男美女だなんて、ここじゃ誉め言葉になりませんから。とりあえず何か褒めとけばいいやっていう下心がまるわかりです」

「はい…………」

「そんなんだから…………ろうふぁのほうもろひて&#¥$;*」

「ニア」

「───んっ。とにかく、私たち時間がないのでこの話は───」

「あーちょっと待った」


 ニアがそのままの勢いで断ろうとしたところを、慌てて止める。

 たしかにニアの言う通り、この人は後先考えてないし、話の要点はまとまっていないし、動画も伸びていないし、なんか残念だ。しかし、私たちにとっては益な人である可能性があることも否めない。


「動画に協力するの、ニアは嫌じゃない?」

「嫌ではないですけど…………」

「おっけー。それじゃあ、動画に協力してもいいですよ。もちろん無茶な要求は飲めませんけど」

「えっ…………いいんですか!?」


 バンッ!と音を立てて身を乗り出すトキリ。


「え、ええ。条件次第ですけど…………」

「条件ですか!?なんでも仰ってください!」


 やたらとうるさいトキリに内心で引き攣った笑みを浮かべながら、私はその条件というのを伝えるのだった。

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