第8話 シモンの街
それから無事にシモンの街までたどり着いた私たちは、好奇の視線に晒されていた。
しかし、それも仕方ないことだろう。実際私たちもフェアリー領でフェアリー以外の種族を見たことなど指で数えられるほどしかないし、現状それほど珍しいことなのだ。
実際システム的に考えても、今私たちの周りにいる天使族の人たちはあらゆる攻撃を無効化する無敵状態なのに対し、フェアリー族の私たちはフィールドにいる時と同じ通常の状態なのだ。人道的な観点を抜いてみれば、今彼らが私たちを襲わない理由はない。
とはいえ無敵といってもダメージと異常状態を無効にするだけなので、もし襲われても一目散に街の外まで逃げればそう簡単にキルされることはないだろう。それに、むしろこの日本サーバーでは、そういった行為をすると悪名的な意味で顔が広まってしまう。なので、普通の人なら襲ってこないだろう。…………その普通から外れる人がMMOという場所に多くいることも、また事実だが。
「それで、どうする?とりあえず転移登録は済んだわけだけど」
「私は休憩したいです。正直もう疲れました」
「まあそうだよね。私も疲れたし、どこか適当なお店に…………」
「ちょ、ちょっとそこのお二人さん!」
適当なお店に入ろうか。なんてニアに言おうとした私の言葉を遮ってきたのは、この街によく馴染む天使の羽を生やした金髪の女性だった。…………って、天使族はみんな金色に近い髪色か。
「あの、そのー、ちょーっとだけ、お時間を頂けないかなー…………なんて、へへへ」
「はあ…………」
押し売り…………なわけないか。ここMMOの世界だし。だとしたら、ナンパ…………もないか。私女だし。
「えーっと…………兄妹さんですかねっ!美男美女…………はおかしいか。美男と美女候補で!」
そんなそんな、美女候補だなんて…………ねっ!
「ふふ…………」
「笑うな」
「?」
失笑するニアと、そんなニアを小突く私。そしてとぼけた顔のこの女性。
実を言うと、こんなふうに間違えられるのはもう五回目くらいなのだ。まだ四日目なのに。
「うささんってなんか仕草とかオーラが男っぽいんですよ。特に立ち姿!リアルでは男なんですか?」
「だから女だって何回言わせるの?」
「女…………うげっ、女の人ぉ!?」
「何か?」
うげっとまで言われたのはさすがに初めてですよ、私。
「いえいえいえっ!むしろ!むしろいい!」
「はぁ?」
じゃあ何でうげっ、なの?
なんて、面倒だし聞かないけど。むしろいい理由もね。
「おっと申し遅れました。私トキリという者なのですが、ご存知…………ないですよね」
「うん」
「はい」
「うう…………」
自ら言っておいて傷つくトキリ。この人は何がしたいのだろうか。
「えーっと、私実はですね…………っと、詳しい話は落ち着けるところで続けましょうか!私が奢りますので!」
「あ、そう?それじゃあご馳走になります」
「ありがとうございまーす」
妙にペコペコした態度のトキリと、そんな様子を見てナメていいと判断したのか、普段の畏まった口調を少し崩すニア。そんな二人の背中を追いながら、私はトキリのおすすめというエンジェルカフェまでやってきたのだった。
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