第6話 状況
「うささん、おはようございます」
「あーやっと来た。おはよ、こっち座って座って」
翌日の午後二時ごろ。今か今かとニアのログインを待っていた私の元に、ようやくニアがその姿を現した。
「なんですか?そんなに私に会いたかったんですか?」
「いや、まーそうっちゃそうだけど…………その様子だとまだ知らないの?」
「?」
私の言葉に、ニアが小首を傾げる。
SNSやネット掲示板ではかなり話題となっていたのだが、それでも知らないということはその手のツールを使っていないのだろうか。そういえば彼女、実際に話さないと面白くないとか言っていたか。
「えーっと、昨日の夜十一時くらいかな。私たちが出会ったとこの地区がドラゴニュートから宣戦布告されたんだよね」
「宣戦布告…………」
その言葉を聞くとようやくニアも事態を把握したようで、私が促した席へと腰をつけて頬へと手を伸ばした。
「随分と動きが早いですね。まだ街の方にもあまり手を付けてないって話でしたのに」
「うん。色々噂はされてるけど…………それは一旦置いといて、領主のミナモさんが五月五日の十五時にこの戦争を受けるってことで受理したらしいんだよね」
「ゴールデンウィーク最終日ですか」
なぜこの時間に受けたのかは、私が知る由はない。ただ夕方前ならニアも都合がつくだろうし、こちらとしてはありがたい話だった。
「その時間なら参加できますね。相手はドラゴニュートでしたっけ?」
「そうそう。ただ…………」
「?」
少し言い淀んで黙り込む私に、ニアが再びコテンと首を傾げる。
…………可愛いな、それ。とか言ってる場合じゃなかった。
「そのー、やっぱりドラゴニュート対策の装備を揃えようって思うよね?」
「はい」
「まあそれで、他の人たちもそう考えたみたいでね…………」
「…………混んでてろくに狩りできないってことですか?」
「いや…………そこをPK集団に狩られてるっぽい」
「なるほど…………考えましたね」
私的にはもっと嫌そうな反応をするのかと思っていたが、意外にも淡白といえる反応だった。拒絶感を示すというよりは、感心するといった感じだ。
「それで今は目ぼしいボスやらモンスターが湧くとこにはPKが徘徊してて、ろくに狩りできる状態じゃないみたい」
「それじゃあ、装備を揃えるのは厳しいってことですか」
「いや…………それがそうでもないみたいなんだよね」
事実は小説より奇なりというべきか、この事件はそう単純な話でもなかった。
「なんでもPKたちもこれでプレイヤーが寄り付かなくなったらかえって不味いからってことで、そのモンスターのHPを削った状態で潜伏して、そこに現れたプレイヤーをキルしてるみたいなの」
FWOでのアイテムドロップは、ファーストヒットとラストヒット、そして最大ダメージの三つに判定がある。つまりラストヒットさえできればアイテムドロップのチャンスはあるわけで、むしろ戦闘が苦手なプレイヤーにとっては都合のいい獲得チャンスともいえるわけだ。
「それに、そこでPKたちにドロップしたと思われる装備が競売に結構出品されてて、むしろ入手って点だけで見れば楽になったっていえるくらいなんだけど…………」
「でも、始めたばかりの私たちじゃお金が足りないってことですか」
「そういうこと」
もちろんこれから金策するという手段もあるが、とても残り二日で揃えられるような金額ではない。それにFWOにはオーブという装備に追加効果を付けられるアイテムがあり、これがかなり性能を左右するほどの影響を及ぼすので、そちらも確保しなければならないのだ。
そんな私の話を聞いたニアは、唸るように小声を漏らす。
「ラスヒも貰ってPKも返り討ちにできれば…………うーん」
「多分厳しいよね。相手も手練れのPK集団だろうし。そこでなんだけど…………」
この状況で一番益となる行動。様々な選択肢の中から私が導き出したのは、至極単純なものだった。
「いっそ、他の領地まで狩りしに行ってみない?」
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