第5話 宣戦布告
それから三日ほどかけて、私たちはFWOのシステムと領主やその周辺に関する情報を集めて回った。
といってももちろんリアルの都合もあるので、四六時中というわけではない。ニアは基本的に午後しかこちらに潜れないらしく、夜も九時には落ちてしまう。私もゴールデンウィークとはいえ、連休明けの模試でいい成績を取らないとまた親にVSⅢを取り上げられてしまう。そのため、勉強もきちんとしておかなければならないのだ。なのでニアに合わせて午前中を勉強にあてて午後からはFWOをプレイしているのだが、さすがに九時就寝は早すぎる。というわけで、午後九時以降は一人でプレイしているのだ。
しかし、これがなんとも味気ない。そもそもFWOはPK推奨のゲームであり、レベルという概念もない。そのためフィールドにいるモンスターの数は少なく設定されていて、他にもモンスター狩りをしている人がいることを踏まえると、まず遭遇するのが一苦労となる。それこそ、プレイヤーと遭遇する方が簡単なくらいに。
一応モンスターと戦う方法としては他にもそういった街の施設があったりするが、こっちはこっちでとても一人でやるような難易度ではない。ソロでできることといえば、それこそ同じくソロで狩りをしている人をPKするか、街でダラダラ過ごすか…………
などと考えながら、新拠点に選んだイスカーナという比較的栄えた街をぶらぶらしていた午後十一時ごろ。街中には存在していないはずの大きな鐘の音が鳴り響くと、世界中に発信されるアナウンス───ワールドアナウンスが鳴り響いた。
『ドラゴニュート族が、フェアリー族が占領しているコプリーン地区に宣戦布告を行いました。フェアリー族の領主『ミナモ』様は、三日後の五月五日までに、受理、もしくは回避の選択を行ってください。繰り返します──────』
「宣戦布告…………!」
突然流れたそのアナウンスに、私はもちろん周囲のプレイヤーからもどよめきが起こった。
宣戦布告というのは、文字通りドラゴニュート族とコプリーン地区を賭けて争うということだ。受理するには、宣戦布告された領主が戦争の時刻を設定すること。回避するには、その地区に応じた戦争回避金を支払うことが必要となる。とはいえ、リリースから一か月の今、戦争回避金を支払ってしまえばその種族と決定的な差が生まれてしまう。今回は受理せざるを得ないだろう。
ちなみにその戦争回避金や、街のレベル上げに用いる資金はどこから出てくるのかという話だが、これは各種族に種族資金というものが用意されているらしく、その種族の街でプレイヤーがゴールドを消費すると一定の割合でこの種族資金に還元されるというシステムらしい。その反面プレイヤーが直接種族資金を増やすことはできないので、如何に街を盛り上げるかが種族資金を潤沢にすることに繋がる。
「でも、コプリーン地区かあ…………」
コプリーンの街から旅立ってわかったことだが、あそこはフェアリー領内で一番平和な街だと言っても差し支えなかった。あの街ほど様々な系統が入り混じっている街は他になく、もしコプリーンの街が奪われてしまえば、あそこで遊んでいるプレイヤーたちはかなり肩身が狭くなってしまうだろう。
無論私は参戦するつもりだが、領主のミナモがいつ戦争を受けるかという問題もある。ちなみにこのミナモというプレイヤーなのだが、本名は森口美菜というそうだ。とあるVRガンシューティングゲームの元プロで、今はVRゲーム実況者をしているのだとか。
そしてこのミナモはフェアリー内の対立をよりとしておらず、お互いに協力するように呼び掛けているらしい。だというのにフェアリー内の雰囲気が悪いのは、同種族狩りをしている連中の目標が原因だった。
彼らは、『傭兵システム』というものを当てにしている。この傭兵システムというのは、ある種族の領主に認められた最大十人までのプレイヤーは、元の種族に関わらずその種族として扱うことができるというシステムだ。つまり彼らは最初からフェアリーとしてプレイする気などさらさらなく、序盤にフェアリー狩りをすることで他プレイヤーよりもアドバンテージを稼ぎ、その強さで他種族に傭兵として雇われようという魂胆なのだ。だから領主として立候補もしていないし、領主投票もしていない。領主のミナモが何を言おうと知らんぷりというわけだ。
なんでもこのフェアリー狩り理論は、サービス開始前からかなり話題になっていたらしい。それでも開始前は、自分の種族を除いて六種族×十人のたった六十しかない枠を狙う奴なんてそうそういないだろうという笑い話だった。ところが蓋を開けてみれば、NPC領───つまり人間領が所謂中立域のようなみんなで仲良くしましょうといった雰囲気の場所だったために、最悪傭兵枠に入り込めなくても全然平気なのでは?という流れでその数を急増させたのだ。
そしてその流れのまま真面目に戦争をしたいプレイヤーは他種族に流れ、フェアリーのまま上位を走っている人たちは軒並み同種族狩り連中という構図になってしまったというわけである。
とにかく今はそんな情勢なので、領主のミナモは全力でコプリーンを護るだろうが、上位プレイヤーの多くは協力が見込めない。それもコプリーン地区は協力派のプレイヤーが多い街なので、同種族狩り連中のほとんどはコプリーンを拠点においておらず、そういった点でも尚更協力は考えられないだろう。というよりも、それこそがコプリーン地区を狙ってきた理由だと考えられる。
「なんて言っても、領主さんがいつ戦争を受けるか次第だし、軽く情報集めながら待つしかないかなー」
そう判断した私は、今日は早めに落ちて色々落ち着くであろう明日を待ってから情報を集めることにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます