第1話 キャラメイク
『Fantasy War Onlineの世界へようこそ。チュートリアルは受けますか?』
そんな無機質なアナウンスが、真っ白の空間に響き渡った。
今の時代、こういった細部でも専用の人工知能を持ったキャラクターなんかが豪勢な装飾が施された部屋で担当していることも多いものだ。しかし、FWOではそんなものは不要とでも言いたいのか、天下のVOGMAが運営しているとは思えないほど簡素で冷たさを感じる作りとなっていた。
「チュートリアルかあ……こういうのって過度に説明されたりして面倒なんだよね……」
なんてことを言ってもそれに応えてくれるようなAIはどこにもおらず、私の呟きは虚しく響いただけだった。
私は少しばかり眉をひそめて、NOを選択する。
『それでは、種族を選んでください』
種族というと、たしかFWOでは七種類用意されていたはずだ。
それは、フェアリー・ヴァンパイア・ドラゴニュート・天使・悪魔・サイボーグ・獣人の七種類。なんでも人間という選択肢はないのだが、存在しないというわけではないらしい。基本的には全ての種族が敵同士なのだが、プレイヤーではないNPCの敵種族として人間がいるそうだ。
さて、この種族なのだが、実はまだ何にしようかは決めていない。FWOではアバターがランダムに生成されるらしいので、実際にこの目で特徴を見てから決めようと思っていたのだ。
そもそもFWOのゲームとしての目的は、各地を戦争で奪い合って世界征服をするというものだ。なので、プレイヤーの少ない種族を選んでしまうとそれだけゲーム内でも肩身が狭くなってしまう。
しかし、私は一応各種族の情勢なんかもある程度把握しているのだが、それで決めようとは思っていなかった。一応まだそこまで決定的な格差も生まれていないし、強い種族という理由で選んだ末に衰退してしまったら、それこそやる気が削がれてしまうからだ。
…………などと言っても、正直避けたいなと思っている種族はある。
それは、フェアリーだ。なんでもフェアリーはそこから更にサラマンダー・ウンディーネ・シルフ・ノームの四種に別れているそうなのだが、これらはそれぞれ火・水・風・地に特化している種族らしく、相性という意味では極端なものが生じている。例えば火属性に特化しているサラマンダーは水属性に特化しているウンディーネと地属性に特化しているノームにとてつもなく不利となっている。しかも同じ種族なので領土は同じであり、個人という視点から見れば、サラマンダーのプレイヤーはウンディーネとノームのプレイヤーからしたら格好の餌というわけだ。
そんな理由から、フェアリー勢はかなり殺伐としていて新規ユーザーも少ないのだとか。まあどこからどこまでが本当かはわからないのだが…………
「んー…………やばいなー。シルフ可愛いなー」
おっと、早速決意が揺れそうになっている。
…………決意って、どっちの?
「いや、うーん…………しかし…………」
たった一人の真っ白な空間でうんうんと唸り声を上げる私。何を隠そう、このシルフという種族、サラマンダーに対してはほとんど無力で、ウンディーネとノームに関しても五分五分かそれ以下といったバランスらしいのだ。もちろんその分魅力的な点もあるのだが、どうしてもそこが引っかかってしまう。
しかし、他の種族を見てみてもどうにもパッとしないのだ。自分でアバターを作れれば色々考えることもできるが、FWOでは一目で種族を見分けられるようにと自分で決めることはできなくなっている。
十秒ほど唸り続けた後、私はまだ迷う思いもあったが、やはり自分の気持ちが一番だとシルフの画面でその指を伸ばした。
『シルフが選択されました。次に、ユーザーネームを入力してください』
「ユザネねー……」
今までプレイしてきたゲームでは、宇野咲という私の本名をもじったうさぎという名前でプレイしていた。しかし、同一ネーム不可のMMOで既にリリースから一か月も経っているとなると、そんな名前既に使われてしまっているだろう。とはいえ、やはりせっかくなら昔のゲーム仲間と巡り合うというゲーマーの夢のためにもそれに似通った名前にしたい。
…………そういえば、うさ公なんて呼んできた人がいたっけ。あれはロールプレイも混ざってたと思うけど。
『うさ公様ですね。それでは、フェアリー領のランダムな街に転送します。ご武運を祈ります』
本当に祈ってるの?と聞き返したくなるほど無機質な声に応援された私は、瞼を閉じてそのランダムな街とやらに転送されるのを待つのだった。
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