第一章 フェアリー内乱編
プロローグ
ゲームと現実との境目は、いったいどこにあるのだろうか。
VRゲームが流行している昨今、この手の話題は尽きることがない。たしかにヴァーチャルワールドはその他の通り仮想のもので、現実だと豪語することは不可能だ。だが、一概に現実ではないと断言することもまた不可能だろう。なぜなら、我々が仮想世界で過ごす時間は紛れもなく現実の時間と同等のものなのだから。
しかし、この手の話題には決まってこう言う文句が唱えられる。
「ゲームなんて所詮遊びだ。終わってしまえば何も残らない」
そんなことはない。と、ゲームをプレイする者たちは反論するだろう。だが、その反論が受け入れられることはない。そう唱える人にとってはゲームなど無価値なものであり、ゲームをプレイする人がゲームから得ているそれに、価値を感じていないのだから。
要は、これは水掛け論ということだ。…………いや、だった。そう、あのゲームが登場するまでは。
そのゲームの名は、『Fantasy War Online』。巨大企業VOGMAが運営する、「ゲーム内通貨で現実の商品を購入することができる」という、まさに前者の文句を黙らせるに値することをやってのけたゲームだ。
もちろんこのシステムは大きな話題となり国も黙っていられないほどの波紋を呼んだが、結局はほとんど規制されることはなかった。今の時代ゲームを仕事にしている人も多くいるし、仮想世界で仕事をしている人も多い。得られるものも、直接的な金銭というわけでもない。ユーザー側が気にすることと言えばせいぜいちょっとした年齢制限が課されたくらいで、税金の問題なんかもVOGMA側が仮想税をあーだこーだとかで解決したらしく、グレーだったその商法は公に認められたと言っても過言ではなかったのだ。
そんなFWOがリリースされてから約一か月。時期としては、四月と五月の境目…………つまりは、ゴールデンウィークというやつだった。
東京にある第一志望の高校に無事入学が決まったと同時に一人暮らしを始めた私の元に、VirtualStationⅢ(通称VSⅢ)がようやく実家から送られてきたのだ。私は引っ越しの荷物と一緒に送る予定だったのだが、一人暮らしに慣れるまではダメだと親に言われてしまったのもで、今まで渋々我慢してきた。当時は親と怒鳴り合いになるほど喧嘩したが、今となってはそれも過去の思い出だ。
あの頃やっていたゲームの仲間たちは元気にしているだろうか。突然いなくなってごめんね。と伝えたい気持ちもあるが、まあネット上の関係なんてそんなものだろう。ずっとやっていたゲームを約一か月放置してから再開する、なんて気にもなれない私は、VSⅢが届いたら今何かと話題のFWOをやろうと心に決めていたのだ。むしろあのゲームを続けるかそちらに移ろうか悩んでいた私にとって、このゲームお預け期間はいい踏ん切りをつける機会だったのかもしれない。
そんなことを思いながら、私は約一か月ぶりの仮想世界へとダイブするのだった。
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