第三章 6

アリスティアは一瞬固まるが、金色金目の精悍な青年はしかし洗練された動きをそのままに悪戯が成功した少年のような笑みを浮かべた。

メインの攻略対象王子みたいだな、と思いつつ一瞬の事だし特に不快でもなかったのでそのまま別れ、ジュリアの元へ向かうと何やらどす黒いオーラを纏ったアルフレッドが立ちはだかった。

「アリスちゃ、えっ!」

それを、背後から王太子が羽交い締めにして、

「バーネット嬢!」

と目で合図をした。

「はい。いきましょう、アリス。続けて踊って喉が渇いたでしょう?」

「うん?でも、」

ジュリアの背後でバタバタと捕まった蝉のように暴れているアルフレッドが少し気になって目をやるも、

「あ〝〜弟はちょっと具合が悪いようだ、気にせずいってきてくれ」

「あ、はい」


軽食コーナーには簡単な食事からデザートまで軽くつまめる物で纏めながらも見た目も味も美味しく、種類も豊富なものが並んでいる。

早速ジュリアと好きな物を手に取りソファにかけて話し始める。

「随分話が弾んでたみたいだけど、何話してたの?」

「んーとね?トラメキアの建国時の初代皇妃って聖竜の加護のある女性ひとだったんだって」

私はローストビーフのサンドイッチをぱくつきながら答える。

うん、美味しい。

因みにこのエリア、軽く紗がかかっていてソファに掛けてる人の首から上辺りは広間から見えないようになっている。

つまり、その人がここにいる事はわかっても食べてる姿はみえないという気のきいたコーナー作りとなっているのだ。

これなら気にせず食べられる。

尤もこんなパーティーで思いっきり食べる人は滅多にいないけど。

私も食べはするが、がっついてるつもりはない。

パーティーってそもそも疲れる行事だから、補給チャージは大事なのだ。

「そうなの?聞いたけどことないけど……」

「うん、私もない。この国の王族からも聞いた事ないし。でも、それをトラメキアに知らせたのはセイラ妃殿下だって」

「え?……それじゃ……」

わざわざ黙ってた?


なんで??

__またしても王室の秘密主義か。

ジュリアと二人で顔を見合わせ、どちらかともなく溜め息をついた。






「別にわざと黙ってたわけじゃないよ?」

パーティーが終わり、ジュリアと別れて生徒会専用の休憩室に行くなりアルフレッドが教えてくれる。

「トラメキアとセイラ妃殿下との経緯いきさつは決して良いものじゃないから外部に洩らさないようにしてるんだ。同盟に差し支えるからね」

成る程。

「この件についての詳細は王家や一部の公家にしか伝わってない。だから内密に。いいね?」

王太子の言葉に私は首肯する。

「まず、奴はなんて言ってた?」

「えぇと__、」

私はリュシオンが当時の皇太子もセイラ妃殿下と同じく魔法学園にいた事、また初代のトラメキア皇妃が聖竜の加護持ちだったとトラメキアに教えたのが当のセイラ妃殿下だった、と言っていた旨を話す。


縁がどうこうは言わない。


「あいつ、ぬけぬけと……!」

「全くだな」

キレ気味のアルフレッドを今度は王太子も止めない。

どころか同調している。

今この部屋にいるのは双子の王子とギルバートだけだ。

ギルバートは公家ではないが祖母がトラメキアの皇室繋がりだからだろう。

「……確かに都合の良い事だけを告げている感じがしますね」

「そんな事わかりきってる!いーい?アリスちゃん、言っとくけどトラメキアは当時どちらかといえば敵だったんだよ?」


え?


そうなの??


「もちろん表立ってではないよ?皇太子が留学してたくらいだし。でもね?奴は、トラメキアはセイラ妃殿下の力を知って我が物にしようと画策したんだ」

「画策するだけでなく被害も甚大だった。何しろ数多のドラゴンがいきなり城下に襲いかかってきたのだからな」

アルフレッドの不穏な発言に兄王子が更に不穏な発言を被せる。


え、


それって……あの時みたいな?


「うん。騒ぎとしては君が聖竜の力を借りて収めたのと変わりないと思う。ただ、今回のドラゴンはどちらかといえば自然災害だけど当時はトラメキアを主導とする幾つかの国の謀略だったんだ。当時は大勢いたドラゴンマスター、彼等はドラゴンを思い通りの場所に誘導する事が出来た。その力でドラゴンをこの国に放ったんだ」

「それって、」

もう宣戦布告なんじゃ?


あれ?でもならなんで今は同盟結んでるんだ?


「時の皇帝がセイラ妃殿下に忠誠を誓ったからだよ。皇太子と二人で招待されてもいないのにお二人の婚礼に駆けつけてね、頭を垂れて赦しを乞うた。当時最強を誇ったドラゴン帝国の皇帝と皇太子に各国からの招待客の前でそこまでパフォーマンスされれば、形だけでも態度を軟化せざるを得ない。被害も甚大だった事からすぐには許されなかったけど、レオン陛下が即位され、トラメキアも当時の皇太子が即位する頃には国交も徐々に回復して、やがて同盟にも加入を許された。両国の王女と皇子の婚姻を機にね」


え、それってまさか政略結婚……?


「政略結婚じゃないよ?留学してきたトラメキアの皇子とセイラ妃殿下の娘である王女殿下はちゃんと恋愛結婚だったって聞いてる。じゃなきゃお二人が認めるわけがない」


__だよねぇ。

セイラ妃殿下、そういうの嫌いそう。


「まあ、それでも歴史からドラゴンが姿を消して行くと同時にトラメキアは弱体化せざるを得ない。ドラゴンと共に発展してきた国なのだから。そしてそのきっかけを作ったのは紛れもなくセイラ妃殿下だ。同盟を維持しなきゃいけないのはあっちの方だから、せっせと皇子皇女を増やしてはこちらに送りこもうとしてる」

成る程。


て、


え?


あの国に皇子皇女が多いのってこの国のせいなの?

眉を顰めた私に、

「昔はもっと酷かったと聞いている」

ギルバートの捕捉が入った。


昔のトラメキアは花嫁拐いの国だったと。

相手が誰であろうとドラゴンを駆って連れ去っては後宮に放り込んでしまう国だったと。

「………」

黙りこんでしまった私に、

「もちろん祖父と祖母の婚姻は不幸なものではなかったと記憶しているし、今はそんな野蛮な真似は通らない。だが、」

逡巡するギルバートに被せるように

「「相手がアリスちゃんなら、

     君なら、

向こうは手段を選ばないかも知れない

           だろうな 」」

双子の声がユニゾった。


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