第三章 3
だが、厳密には私は加護を受けてるわけではない。
「それはそう、なんだけど……
アルフレッドが諦めたように息をつく。
「実際に聖竜を呼び出し、あの数のドラゴンを殲滅してみせた。その時点で君はもう聖竜の守護を受けた娘だと認識されている」
仏頂面で王太子が言い、
「実際あの封印が反応したのは君だけだし?」
とアルフレッドが続ける。
「高位貴族ほどこのルールは徹底されてるはずだが、何しろセイラ妃殿下がお隠れになられてから長い。同盟を結んだ国々の中でも痴れ者は沸いてくるだろう」
アルフォンスが諭すように言い、
「要するに君は国を挙げて保護すべき人物だという事だ」
王太子が面白くなさそうに締めた。
いや、保護してくれなんて頼んでないし……珍獣か私は。
「まあ、そういう訳だから出来れば城に滞在して欲しいけど君は嫌だろうから、」
よくおわかりで。
「付けた
「養女が無理なら行儀見習いとして城に住まわせたらどうだ?」
言い出したアッシュバルトに、
「ンなの頼んだって来てくれるワケないでしょ?イヤな思い出カムバックさせてどうすんの」
目を半眼にして言う弟に、
「だがっ!お前も彼女と一緒になりたいのだろう?!なら少しでも共に過ごす時間をだなっ!」
「それは向こうもこっちに好意を持ってた時のみ有効な手段だよ」
「……だからといって……、流石にあの話は撤回しろ」
「ヤだよ。もう決めたって言ったでしょ?」
「アルフレッドッ!」
「ここにきてそんな中途半端な真似が通用するとでも思ってんの?」
「お前が生半可な気持ちでない事はわかってる!だが!」
「だがも何もないよ。入学前とは事情が違う、悪いけどこの件に関して兄上に指示権はないよ」
「確かに最初失敗したのは私のせいだが……」
「乗った僕も同罪だからそれは責めてないよ。けど、間違ってたとは思う」
「それは言い過ぎだ!彼女の処遇については皆で何回も話し合って……!」
「それがそもそもの間違いだよ。義姉上の話に沿って該当する令嬢を見つけた。そして彼女について綿密な調査をさせた。けどそれは、他人が他人を観察した記録に過ぎなかったんだよ。ねぇ?あの娘はほんとにあの調査書通りの娘だった?自分をヒロインだと、世界の中心だと考えるような娘だった?」
「っ、それは、」
「……僕たちには準備期間が沢山あったよね?生まれた時から高位貴族や王族で、身分だけじゃなく、資金もツテも情報も。なのになんであの娘との出会いを間違えたの?」
「………………」
「だから、やれる事は全部やる__邪魔しないでね?」
にっこり笑った顔は反論を許さない迫力を湛えていた。
「とにかくこの事に関しては僕は単独で動くからフォローもいらないよ、じゃ」
不敵に清々しい笑みでアルフレッドが出て行くと、
「アッシュ様……」
「君のせいではないよミリィ、私のせいだ。だが、彼女がアルフレッドを受け入れてくれれば良いがもし……」
そうでない場合は。
「哀しい事に、なりますわね……」
ミリディアナが沈痛な面持ちで続けた。
聖王妃が聖竜の祝福を受けたのはごく幼い頃であったが、当初はその記憶を封じられており、学園に入って一年目にドラゴンの襲撃を受けた際覚醒したと伝わっている。
その際は既にレオン陛下との婚約は確定していたというから特に問題なかった(酷い誤解だが)のだろう___レオン陛下が羨ましい。
自分には、弟の為に打つ手がない。
結果次第だが、もしかしたらその弟の信頼さえ失ってしまうかもしれない。
「で、どうするの?冬のパーティーは」
「いつも通りバックれるつもりだったけど」
「流石にそれはマズくない?」
「マズいかしら?確かに釘は刺されたけど私はこの国の魔法省を希望している訳ではないし」
翌日の昼休み、ジュリアと二人で食事をとりながら言い合う。
王宮側の私に対する評価なぞどうでも良いのだと。
「そりゃそうなんだろうけど」
こういった行事にアリスと一度もまともに一緒に参加出来てないジュリアも心中複雑なのだ。
勿論、王子達に近付きたくない親友の気持ちもわかるのだが……冬の祝祭が終わればあとは卒業式だけだ。
こうしていられる時間も残り少ない。
そんなジュリアの胸中が表情からわかってしまい、
「……もう少し考えてみる」
とだけ答えた。
だが、そんな私の胸中を見透かすかのように王室御用達職人が「ドレスの採寸に伺いました。」と寮までやってきた。
ちょっと待て。
なんで王族の婚約者でも血縁者でもない私のとこに王室がドレス職人寄越すんだおかしいだろ。
そう思いはしたが、
「王妃様からの勅命」
を携えた使者を追い返すなんて真似は誰にも出来る筈がなく。
「デザインのご希望はありますか?」
大人しく採寸を受けながら訊ねられた私は、
「あ」
どうせなら、ジュリアとお揃いにしてしまったらどうだろう?
(色違いとか……デザインも完全に同じでなくても良いから似た感じにして。卒業前の思い出にもなるし)
私は急いで〝伝魔法〟を送りジュリアに寮まで来てもらって巻き込んだ。
これなら王子の手回しでドレスを贈られたとか勘繰られなくてすむ……かもしれな
い。
そう、卒業。
先だっての私への褒美として父メイデン男爵は学園卒業を待って伯爵位を賜る事となった。
それに伴う根回しなども私の卒業までにすませておくそうだ。
褒美ならば自分を育んでくれた領民と父に、と言ったアリスティアの願いを最大限汲み取った形ではあるのだがいかんせん「何か欲しいものはないのか」と王室側としてはどうしても私個人にも何か贈らないといけないと思ってるらしい。
まあ、私がいないとドラゴンフラワーが手に入らないのだから仕方ないといえば仕方ないのだが、領地にも学園にも目に付く護衛隊の駐屯、さらに私個人には王室から隠密が付けられている。
正直鬱陶しい。
しかし今回の事で彼等が転生者、という可能性は私の中では崩れてきていた。
原因はあのメッセージだ。
前世日本人があの中にいるのなら、どうして今まであのクリスタルは反応しなかったのか?
導き出される答えとしては〝やはりあの中に前世日本人の転生者はいない〟という事になる。
あのゲームに〝ヒロインが過去からのメッセージを受け取って覚醒する〟なんてイベントはなかったし、聖王妃なんて言葉も一切出ては来なかった筈だから、あれは私がヒロインだから発動したいうより、日本語を読める転生者がいなかったと考える方が自然だ。
だとしたら、考えられるのは“過去に転生者の事例がありその情報を共有している“、若しくは“彼等の身近に私が知らないだけで情報提供をしている転生者がいる“という所だろうか?
その情報提供者が私がヒロインであり、かつ希少魔法を使える可能性があり、悪役令嬢であるミリディアナ様を陥れる可能性があると彼らに教えた。
その情報に沿って彼等が行動していたのなら、今迄の態度に説明がつくのだ。
最初の〝いい気になるなよ〟的な行儀見習いから始まって、学園では何かある度に妙に私に絡んでくるというか、アテにしているというか?
“どうにか出来るだろ
でもミリディアナ様には異常に過保護なとことか鑑みるに私がミリディアナ様の立場を脅かすんじゃないかと心配してもいる。
私にはそんなつもりはないが
だとしたら、第二王子妃として囲うのが一番スマートだと考える。
アルフレッドからの好意を感じないわけではないが、そういった思惑も感じとってしまうし、何より嫌いではないがじゃあ恋愛とか結婚とかしたいかと言われると……ピンとは来ないのだ。
だから、私の卒業後は他国に留学の予定である。
もちろん定期報告と何かあれば戻って力を貸す事に異存はない。
__という私の考えを話すと、
「貴女らしいわ」
とジュリアは苦笑してくれた。
移動手段としてはノエルがドラゴン程ではないが空馬車よりずっと早く飛べるので問題はないし、移動魔法陣の設置もする。
家族やジュリアに何かあった時に駆け付けられないのは不味いから。
私の中ではそんな感じに固まってきていたので一度くらいパーティーに出ても最早好感度云々を気にする必要はないか、と大人しく冬のパーティーへは参加する事にした。
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