第三章 1

第3章 1




速攻で私が返した言葉にがくっとへたり込んだアルフレッドは、

「あのさぁ、断られるのは予測してたけどっ!むしろその可能性のがイエスよりずっと高いのもわかってたけどっ!少し、いや瞬きひとつくらい悩んでも良くないっ?!なんだって一瞬たりとも悩まないわけっ!?」

「え?だって」

元々付き合ってたわけでも、長年の幼馴染でもない。

第一印象で意気投合したわけでもないし、その後仲良くなった覚えもない。

なのになんでいきなり結婚なんて単語が飛び出すのか理解出来ない。

ついでにいえば少し考えてから断る方が更に失礼なのではなかろうか。


__と、そのまま伝えると王子様は更に膝を抱え込んでうずくまった。

おやつ抜きと言われた子供のようだ、というのは流石に失礼か。

「まあいいや」

突然立ち上がったアルフレッドは恭しく私の手を取った。

「元より一度で受け入れてもらえるとは思ってない。何度でもトライさせてもらうから。これからもよろしくね?アリスちゃん」

どこか吹っ切ったように言われ、プロポーズって何度もトライするようなものだったっけ、と頭の中を?マークが飛び交ったのが昨日のこと。


無事寮に帰してもらえた私は、ジュリアに昨夜の出来事を報告していた。

「あンの、色ボケ王子っ!」

呟いたジュリアの声が低すぎて聞き取れず、

「ジュリア?」

訊き返すと、

「まあ、いいわ。断ったのよね?貴女にその気がないって事アルフレッド殿下にはよーー っく伝わってるはずよね?」

「う、うん」

たぶん。

何度もトライするとも言ってたけど。

「ならいいわ」

ジュリアがそれ以上の追求は避けてくれたのでこの話はここまでになった。




ジュリアと別れて部屋でやはりう〜んと唸る。

ランチの誘いじゃあるまいしまさか毎日来る気じゃないよね?

前みたいに〝遠見〟発動で避けるべき?

けど、聖竜の事もあるからなぁ。

今日一日は休みだが、明日にはすぐ授業も生徒会もある。

憂鬱だが、(そういえばジャヴァウォッキーがドラゴンフラワーを摘みに来ていいって言ってたっけ。なら、クッキー作らないと。あ どうせならドラゴンフラワーの花びら練り込んだ生地で作れないかな?お城にある分わけてもらえないか聞いてみようそうしよう。で、何かこの事に触れられそうになったらこの方向に話題逸らそう)


そう決心して迎えた翌日。

生徒会室にはいつもの面子が揃って……ん?

「お疲れ様。アリスちゃん待ってたよ〜」

ふにゃりとした笑みで近付いてきたアルフレッドに型通りの挨拶を返し、優雅にお茶を飲む黒髪の貴公子に目をやる。

「やあ。一昨日はお疲れ様メイデン嬢。久しぶりだねバーネット嬢。」

そこまで久しぶりではないはずだが慣用句と受け取って、

「お久しぶりです、レイド様」

とジュリアが返し、

「お疲れ様です?レイド様」

私も続く。

「いや、一番お疲れ様なのは君だろう。気を使わせて済まない。君にちょっと話があってね。あの時はアルフレッドに遠慮して言えなかったから」

そういえばあの時レイド様が何か言おうとしてたのをアルフレッドが遮ってたっけ。

私とジュリアが席に着くと、

「ねぇメイデン嬢。私の妹にならないかい?」

「は?」

「これは父レイド公の意向なんだ。もちろん王の許可も得ている。レイド公爵令嬢になる気はないかい?」

要するに養女にきませんかって誘いか。

「ありません。私の父はジャック・メイデン只一人です。」

「やっぱりね。君はそういうだろうと思っていたよ。それじゃ父にはそう報告しておこう。これがあの時私がいおうとしてた事。それからこれは学園に行くなら君に渡して欲しいと頼まれたものだ」

そうして渡されたのは可愛らしいデザインの缶。

「あのレシピに沿って茶葉にしたものだ。それから、」

「はい、これ。」

またもやアルフォンスをぶった切ってアルフレッドが差し出したのはドラゴンフラワーの花束。

ご丁寧にドラゴンフラワーの周囲に薔薇やかすみ草をあしらって豪華な花束に仕立てられていた。

「………」

どう反応して良いかわからず私が固まると、

「アルフレッド殿下、プロポーズは はっきりきっぱり断られたのでは?」

とジュリアが斬り込んだ。

「痛いとこつくなぁ……もう君たち二人揃って王宮に就職しない?」

「「謹んで辞退させていただきます。」」

「あ、そう。残念。でもこれはそんなんじゃないよ、王家の意向」

「王家の?」

私は訝しげに呟きながらあの後の記憶を探る。






アルフレッドの求婚を断ったあと、私は王宮の貴賓室でおそらく貴人用のものであろう豪華な軽食と菓子、それにフレッシュジュースやらハーブティーやらで丁重にもてなされながら詳しい経緯を報告していた。

その際に聖王妃が残したメモの事も報告した。

「それは、」

王太子が言いかけるのに被せるように、

「それ、書き写させてもらう事は可能かなあ?」

とアルフレッドが言うと、

「アルフレッド!勝手なことを!」

兄王子の怒りに弟王子はしらっとした目を向け、

「アッシュこそ何言ってんの?まさか写しを取るのは許すから現物置いてけなんて上から目線なこと言う気じゃないよね?」

「っ!」

「聞いてたよね?聖竜が彼女に〝茶の調合を頼む〟って言ってたの。取り上げる権利なんてあると思ってんの?」

「これはセイラ妃殿下の遺品だ」

「彼女がいなかったら存在すら知らなかった、ね。そもそもメッセージを受け取った彼女が動いてくれなきゃこの城だって今頃瓦礫の山になってたかも」

「っそれは!」

「あのねぇ、冷静に考えてみて?メッセージを受け取ったからって彼女が命がけで戦わなきゃいけないなんて決まりはないの。あの時彼女は知らんふりで出て行く事だってしようと思えば出来たの。生まれた時からこの城で育ってる僕達ならともかく彼女はこの城に特別な愛着なんてないんだからさ」

「それは彼女がこの国の由緒正しい貴族だからだろう?」

「ノブレス・オブリージュね。それも間違いじゃない。けど、それなら僕達の方がずっと重いとは思わない?」

「何が言いたい?」

「上にいる人間ほど重く受け止めるべき言葉って事だよ。何か間違ってる?」

「………」

「なのになんで躊躇いなく行動に移したかって言えば答えは簡単、彼女は周りの人間を大切にしているから。自分の危機は自分で何とかしようとして周囲に頼らないのに、周りの危機も自分で何とかしようとする性分だからだよ。僕達はそれに助けられただけなんだ。〝加護を当たり前と思うな〟聖王妃が代々子々孫々に残した言葉だよね?」

「っだが、彼女はお前の求婚を断ったろう!まさかもう忘れたのかっ?!」


(え、ここでそっちに行くの?)


「あのねえ?アレは俺が断られるのは百も承知で言っときたかっただけなの!想いを伝えときたかっただけなの!彼女に問題がある訳じゃないの!!そもそもっ、」

頬をやや紅潮させたアルフレッドは畳み掛ける。

「ドラゴンフラワーあの花もこのメモも、だよ?僕達にじゃない、彼女にだ!教えてもらった所で名前を聞き取る事すら出来ない僕らにそんな資格あると思ってんの?!」

「…っ…っ…」

アッシュバルトは口をパクパクさせていたがやがてがっくりと息を吐いた。

「ないな……」

「うんそう。こんな事言われなくても気が付いて?」

「すまない、見苦しいところを見せた。……改めて、それの写しを取らせて貰っても良いだろうか」

「……はい、どうぞ」

その後書記官らしき人が現れて、私の目の前でメモを書き取り、写しを取るとそのままあのメモは私の手に戻された。

何故かアッシュバルトが縋るような目を向けていて妙に居心地が悪かった。

あの時、ドラゴンフラワーの話なんか出なかったけど、手の中の花束はあの時持ち帰った分の三分の一くらいか。

三分の一はお茶にして、後の三分の二は花のまま折半、茶葉にしたものも私に分けて仲良く折半しましたよ、て感じかな?



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