第二章 7
その頃当のアリスティアは、
「ヤバいこれ爽快かも!」
と、いつぞやの誰かみたいなことを呟いていた。
魔法学園での生活(に伴う面倒な駆け引き)は知らず自分にストレスを与えていたらしい。
ドラゴン出現時、大地から感じる
一頭目覚めた後、連動するように次々と覚醒するドラゴン。
これらの事からアリスティアは一つの仮説を立てた。
もしかしてドラゴンを封印、或いは卵が孵化した場所というのは竜脈に沿っているのではなかろうか?
と。
前世日本でも陰陽道とかその手のストーリーにはでは良く出てきた龍脈、もしくは竜脈。
どちらにしろ大地のパワーを引き出す場所であり、そこを管理する一族がどうの、なんてのは良く聞いた話だ。
この世界は日本発の乙女ゲーム発祥(?)なだけあって全く違うようでいて、探せばそれなりに共通点が見つけられる場所だ。
だったらあってもおかしくはない。
だってドラゴン騎士団なんかがある世界なんだから。
そう思って聖竜に訊いてみればやはり、ドラゴンは地下の竜脈に沿って現れていた。
殲滅はアリ、だがボス(?)クラスは封印が望ましい、と言われたものの元々ボスクラスを倒す力なんか私にはない。
中級だって聖竜のバックアップやセイラ妃殿下の扇子があったって怪しい。
__だったら、片っ端から竜脈に
そう結論づけた後の私は早かった。
現れているドラゴンは三種。
火には水、水と氷にはたぶん土でいいはず。
なら、それをぶつけて増幅して、竜脈の中に叩き落としてしまえばいい。
最初は
効果に愕然としながらも火竜と氷雪竜が喧嘩してるところに水竜巻をぶつけ、
「
真っ二つに裂けるドラゴンを見て「あれ?オーバーキル?」と可愛らしく首を傾げるアリスティアに(遠くから魔法で)見ている側が慄いた。
と、兵から(密かに)各所報告された事をアリスティアは知らない。
報告された方も、バックアップの指示もへったくれもない。
「と、とにかく白い竜と共にいる少女の邪魔だけは絶対にするな。箝口令と被害者の救出、誘導に全力であたれ」としか言えなかった。
竜脈に沿ってドラゴンの出てきた割れ目から、火竜のもとには地下水を噴き上げ扇で水柱まで威力をあげる。
水竜は雷撃で感電させて氷雪竜の元へ落とし、そのまま氷雪竜ごと大地から伸びた木の根を絡みつかせ、再び地の底へ引き摺り落とす。
主にやったのはこの二つだけだったのだが、それで充分だった。
拡がった裂け目に、小さな起きたばかりのドラゴンは勝手に落ちていったし、見間違いかもしれないがこっちを見てるから向かってくるかと思いきや目が合うと勝手に裂け目に飛び込んでいくやつもいた。
(やっぱドラゴンでも聖竜は怖いのかな?)
多分違うが、あいにくここには彼女以外の人間はいないので、突っ込みも不在だった。
城の中ではもう(特に何もしていないが)疲れたようにぐったりと各所からもたらされる〝伝魔法〟を流しっぱなしにして机に突っ伏す面々がいた。
アルフォンス(彼は机に突っ伏すのでなく、泰然と椅子に座している)が混ざっている事を除けば概ねいつもの光景である。
沈黙に飽きたのか、アルフォンスが口を開く。
「つまりメイデン嬢が〝伝説の乙女〟であると王家は確信していたという事か?」
「い、いや、確信、 していたわけではないのだ。私達は〝その可能性がある〟という情報を得ていただけで……、その後さらにその可能性が高まった為出来るだけ彼女との距離を縮めようとしていたのだが」
「解せないね。可能性があると知っていながら何故最初酷く痛めつけるような真似を?そのせいであとからどんなに君たちが距離を縮めようとしたところで効果はあがっていないように見えるが?」
「そ、それは」
王太子という立場にあれど、血筋も元を辿れば王族であり、一つ年上という事を除いてもあらゆる点で先をいかれているアルフォンスにはアッシュバルトはいつも強く出られない。
さらに今は生半可な回答は許されない気迫が上乗せされている。
言葉に詰まったアッシュバルトに溜息をつきながら、
「君たちがそんなだから、『在学中は君たちと彼女の関係性をそれとなく見張り、且つ彼女に危険があるようならば守れ』なんて密命を私は受ける羽目になったんだよ?ただでさえ生徒会長という
「っ?!」
生徒会にねじ込む、の件は知っていたが守る云々は初耳だった彼等は一様に目を剥く。
「っ、それは、母う、いや王妃殿下から?」
いち早く立ち直ったのはアルフレッドだった。
「惜しい、国王陛下だよ。直々に下命されてしまえば流石に何も言えないからね我が家も。国王陛下に直訴したのは王妃様だろうとは思うが」
余裕綽々に茶のカップを持つ手は優雅で、笑みさえ浮かべている。
一方で国王からそんな命令が為されている事など知らされていなかったこっちはショックで落ち込むどころではない。
(参ったな……)
そう心中で呟いた双子の片割れは、「ぐずぐずしてられないな」と呟き部屋を出ていった。
最初の報告より二時間ほど経った頃、“東の空に聖竜らしき影あり“との報告を受け城の中でもとりわけ広い、あの聖竜が着地しても余裕がありそうな庭園で一行は待ち受ける。
必ずここに降りてくれる保証はないが、聖竜は言葉も通じるし何よりここはセイラ妃殿下の住んでいた宮である。
破壊する事はないだろうと判断した。
因みに普段の面子+アルフォンスのみである。
悪戯に先程より人数を増やして怒らせたら不味い、との判断で国王夫妻は許可がおりたら挨拶に出てくる予定でスタンバっている。
やがて、バサッ……!という体の大きさに対して意外にも僅かな音と共に聖竜が予定通りの場所に降り立ち、その手の中からアリスティアも降りる。
それと共に待っていた一堂が一斉に臣下の礼をとった。
それをみたアリスティアは立ち竦む。
(……何コレ?)
あ〝 、聖竜に敬意評してるのか。
私は背後の彼を見上げる。
「……私も
と小さく呟くと、
『やらんでいい。話しづらい。普通にやれ、普通に』
聖竜がぶっきらぼうに言い、今度は一堂、直立不動で綺麗に並んだ。
(訓練された一兵卒みたいだな……)
失礼なアリスティアの感想に、別に心話をしているわけではないのだが聖竜が賛同してくれる。
『普通にしろ といっておるだろうが……全く』
聖竜が溜め息をつく。
なんだかその仕草が人間ぽい。
私は先程の事といい、妙に彼 (ドラゴンだけど)に親近感を覚えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます