第5話

(ん…………私……生きているの?)


 微かに匂う土の匂い。


 そして、口の中に広がるとてつもない苦味・・


(この苦味…………間違いなく、アメル草の味だ)


 解熱剤で最も多く使われているのがアメル草である。


 そのままではあまりにも強力な苦さに、普段は水にエキスを絞って薄めたモノを使うのが普通の使い方だ。


 けれど、アメル草本体・・かじった事により、死薬による高熱が奇跡的に回復したのだ。


(そうか……私、生き残ったんだね…………お母様に教わった薬師の知識が役に立ったわ……)


 その時。


 近くでウォーウルフの鳴き声が聞こえてくる。


(ウォーウルフ!? やっぱり、ここって王都の隣の魔女の森なのね)


 王都のすぐ隣に面した森は通称『魔女の森』と言われ、複数の魔物が住み着いており、冒険者達の狩場として有名な森だ。


(まずいわ…………ん? アメル草はまだまだあるのね? よし!)


 アメル草を引き抜いたエリシアは、少し覚束ないながらも立ち上がり、歩き進める。


 地面を見ると、自分が全身を引きずった跡が残っており、その跡をたどりながら戻って行く。


 すると中身がない袋が一つ、中身が入っている袋が二つ視線の先に見えていた。


 その袋を囲うかのように、ウォーウルフが数匹囲っている。


(あの袋ってもしかして!? 急がないと!)


 エリシアは全力で走ろうとするが、まだ体力が戻った訳ではなく、足を引きずりながらも着実にウォーウルフ達に進んで行った。



 目の前に現れたエリシアを警戒するウォーウルフ達。


 しかし、次の瞬間、エリシアから投げられた草に過剰反応するウォーウルフ達であった。


(はぁはぁ…………ウォーウルフは鼻が良いから、アメル草には近づかないよね……お願いだから早く去って!)


 暫くエリシアと投げられたアメル草を睨んだウォーウルフ達は、せっかくの餌だが、アメル草の匂いに耐えられず、逃げて行った。


(良かった…………でも急がないと……! 袋を……)


 エリシアは袋の中身を確認する。


 一つは間違いなく自分の物だろう。


 つまり、二つの中身も人である可能性があるのだ。


 もしかしたら助けられるかも知れない。


 そう判断したエリシアは急いで袋を開けた。


「っ!? マリー!」


 一つ目の袋の中から現れたのは、自分を庇ってくれたメイドのマリーだった。


 しかし、彼女を袋から出そうとした時に見えた彼女の全身には、鞭で打たれた跡が残っており、あまりの悲惨さにエリシアは思わず涙を流してしまう。


(なんて酷いの……! 何度打たれたか分からないわ…………酷すぎる……)


 だが悲しむ暇はない。


 気を失っている全身傷だらけのマリーを袋から出さず、そのままアメル草が沢山あった木の根元まで運んだ。


(そう言えば、袋はもう一つあったわね。マリーも大切だけど、あの人も助けられるかも知れないわ)


 急いで、もう一つの袋を運ぶエリシア。


 すでに満身創痍のエリシアだったが、火事場の馬鹿力で運び終える事が出来た。


 急いでもう一つの袋を開けると、意外にも男性が一人入っていた。


(これは…………この人は死薬の症状だわ)


 それから周囲の薬草を集め、マリーの全身に薬草を塗った。


 次に男にアメル草を飲ませようとするが、このままではとてもじゃないけど、飲み込めないだろう。


 エリシアはアメル草を齧り、口の中で噛み砕く


 そして、倒れている男にアメル草を口移した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る