第4話

「おい、こいつはもうダメだな。捨ててしまおうぜ」


「だな……可哀想に。どこかの令嬢だったと思うんだけどな」


「仕方ないさ。俺達は見て見ぬふりをするしかないんだからよ」


「…………だな」


 そう話す兵士二人は目の前にある令嬢の死体を担いで、王城から離れの森の中に投げ捨てた。


 そして、もう二つほど、同じ死体が入った袋を森に投げ捨てる。


 この森には魔物が住んでいるので、いずれ魔物の餌となるだろう。


 兵士二人はただ自分達に与えられた仕事を全うして、王城に戻って行った。




 ◇




(ん…………身体がだるい……身体も上手く動かない…………でもどうしてだろう……意識はしっかり持てる…………)


 彼女は懸命に身体を動かす。


 何やら袋に入れられているようで、動かない身体を必死に動かし続ける。


 どれくらい時間が経ったのだろう。


 奇跡的にロープが緩んだのか、上部から光が降り注ぐ。


 光を求め、外に出て行くが、朦朧とした気分に倒れ込む。


(エリシア……駄目よ、こんなところで眠っちゃ。まだやらなければならない事があるわ…………マリーも心配になるし……マシュー殿下の事も…………)


 朦朧としながらも、意識は何とか保てていた。


(たしか…………死薬を飲んだんだった……まず熱を下げないと………………ここは……森? 王城から近くの森なら……あれがあるかも…………)


 立ち上がれる力もなく、エリシアは必死に這いつくばって進む。


 どれくらい進んだのだろう。


 気が付けば、大きな木の根元に到達した。


 たった一つの奇跡を信じ、エリシアはさらに前へ進む。


 あるかも分からないそれ・・を探すために、ちゃんと見えない視界のまま進む。


 だが、目的のモノがそう簡単に見つかるはずもなく…………。




 その時。


 エリシアの鼻に掛かる香りがあった。


(この香り…………間違いない……アメル草の香り…………)


 エリシアは香りのする方に進める。


 這いつくばって移動しているので、身体中が傷だらけになって痛みも増していく。


 でもそんな事よりも、最愛だった婚約者の変貌ぶりにより、心の痛みの方が余程大きい。


 もう涙すら枯れたんじゃないかというくらい泣いたエリシアは、ほぼ見えていない視界のまま、匂いを頼りに進んだ。


 やっとの思いで到着したエリシア。


 目は見えてないし、腕はもうボロボロだ。


 最後の望みを掛けて、感覚もないまま、目の前にあるモノにかぶりついた。

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