第4話
一人和みながらナポリタンの到着を今か今かと机から少し身を乗り出して見ていると、キッチンのカウンターに湯気が上る皿を目撃し、大人しく桂花は席に座り直した。
それからすぐに、マスクを付けた店員が蕾を持った茨を保持しながらやって来て、彼女の前にできたてのナポリタンとアイスティーを置く。
「砂糖とミルクはこれ」
すかさずガムシロップを二つとミルクピッチャーを置き、ストローも忘れずに置いてから去って行った。
あー美味しそう
白い湯気越しでも分かるケチャップの赤みとパスタの黄色が混ざり合う中に点在する白い野菜と赤い肉塊らに隠れるマッシュルームたちを見ながら桂花はもう一度深く息を吸い込む。
喫茶店"アース"名物のナポリタンは匂いだけでも彼女の空腹を幾ばくか和らげたが、すぐに目の前に現物があるなら食べてしまえという悪魔の囁きへと変貌し、桂花はそれに誘われてフォークで絡めてスプーンで挟みながら口に運ぶ。
もぐもぐと口を動かし、ごくりと飲み込んだ彼女は目に見えて嬉しそうな表情を浮かべていた。
やっぱりここのは余計なのが入ってない!
昔ながらのナポリタンは玉ねぎとマッシュルームとニンニク、そして炒めたハムらをトマトペーストで絡めただけのシンプルなものであり、ピーマンが苦手な桂花の大好きなナポリタンだった。
ベーコンじゃなくてわざわざハムを炒めてるっていうのも本当に凝ってるよね
ツルツルとしたパスタだけでなく、シャキシャキとした玉ねぎの食感、炒められたことで少し硬めのハムと噛むたびにフニャッとするマッシュルームたちは彼女を飽きさせることなく完食まで楽しませ、ふう、と桂花は満足感を漏らした。
中の氷も融合し、結露水が付着しているアイスティーへガムシロップを一個と半分注いでから桂花は混ぜてそれを飲む。
酸味やら何やらの口内に来るこの甘味がもう、本っ当に!
表現のしようがない愉悦に浸りながら昼食を食べ終えた彼女は残ったアイスティーを飲みながら大学の講義の録画を──字幕は付けられている──見てから会計をするべく、ベルを鳴らした。
「はいはーい」
店長自らがカウンターから参上し、メモ帳と胸ポケットからボールペンを取り出して桂花に「お会計?」と書いて質問する。
その通りだと頷くと店長も頷き、机の上にある伝票を見て値段を書き記して再び見せた。二品を合わせてちょうど五百円だった。
これで五百円以内なんだからちょっと怖い
財布から500円玉を取り出し、店長に手渡すと親戚のように、少し皮肉を加えると商人らしい満面の笑顔でカウンター隣のレジに桂花が渡した五百円玉を仕舞い、彼女もバッグを手に店を後にする。
その時、ダークブルーの色を従えながらこっちを見るマスクの店員を視界の片隅に捉えながら桂花は灼熱の青空の下に戻った。
「……あ、つ、い」
彼女はポツリと呟き、静かに真昼の暑い商店街を歩いていった。
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