言葉の対応関係

 ご無沙汰しております。


 本当を言うと、形容詞や副詞などの修飾語と、修飾される語の対応関係の話をしたかったのですが、日本語でそれを解説するとき、用語の選び方が面倒になるので、避けてしまっていました。

 と申しますのも、英語の場合、「形容詞は名詞を修飾し、副詞は名詞以外を修飾する」と言えば済むのですが、日本語の場合は形容詞が連用形になって副詞的な役割をすることがあるので、そういう単純な図式では語れなくなるからです。

 市立図書館にでも行って勉強するべきかもしれませんが、近所の図書館では専門的な本を期待できませんし、あったとしても精査するのが大変なので、もう大雑把に、言葉の対応関係で済ませたいと思います。


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 筋膜や筋肉の状態を改善することで、姿勢の改善、血液の循環に効果的です。ストレッチで硬くなった筋肉をほぐすことにより、柔軟性のアップが期待できます。

(とある健康器具の宣伝文より)

――――


 この健康器具はどうやら輸入品のようで、外国のかたが書いたなら仕方ないかな、といったところです。

 第1文は構図を取り出すと「Aすることで、B、Cに効果的です」となりますが、この時点で違和感がありますね。

 主語と述語の関係で、「AはB、Cに効果的です」の形にしたくなるはずです。

「筋膜や筋肉の状態を改善することは、姿勢の改善、血液の循環に効果的です」


 はい、まだ違和感が残りますね。


 最大の問題は、並列されている「姿勢の改善」と「血液の循環」が対応関係になっていないことです。

「筋膜や筋肉の状態を改善することは、姿勢と血液の循環の改善に効果的です」


 1つの文の中で「改善」という語が重複するのは、意味的には間違いではありませんが、スマートではないので、そこも直しておきましょうか。

「筋膜や筋肉の状態を改善することは、姿勢を正し、血液の循環を良くすることに効果的です」


 第2文「ストレッチで硬くなった筋肉をほぐすことにより、柔軟性のアップが期待できます」は、構図を取り出すと、

「Xすることにより、Yが期待できます」

 となります。

 文体がちょっと硬い印象なので、「Xすることで、Yが期待できます」とした方が自然な気もしますが、間違いとは言い切れないので、これはこのままにしておきましょうか。


 Xの部分「ストレッチで硬くなった筋肉をほぐすことにより」が読みにくいのは、修飾語と修飾される語の関係がおかしいからです。

 つまり、「ストレッチで」は「ほぐす」という用言に係っているのに、それらの間に「硬くなった」という別の用言が入っているせいで、ややこしくなっています。

 というわけで、「硬くなった筋肉をストレッチでほぐすことにより」に修正するのが吉です。


 以上を踏まえて、例文を書き直すと、


「筋膜や筋肉の状態を改善することは、姿勢を正し、血液の循環を良くすることに効果的です。硬くなった筋肉をストレッチでほぐすことにより、柔軟性のアップが期待できます」


 となります。

 こうしたところで「柔軟性のアップ」にどんな効用があるのか分からないので、Web小説なら情報を付け加えたり、別の言葉に置き換えたりすることを検討してもらうところですが、ひとまず文法的な修正だけをすると、このような具合になります。


 言葉の意味から攻めるのではなく、文の構造という観点から検証するだけでも、見えてくることが色々あります。

 今回は、主語と述語、並列された言葉の対比関係、言葉の対応関係が、修正のヒントになりましたね。

 皆さんも文章チェックの際には気を付けてみてください。

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