主語と述語⑥ 距離と並び替え
「AはBがCだと思っている」
今回は「主語と述語に距離があると読みにくくなる」、「主語と述語の間に別の文が入ると読みにくくなる」というお話です。
実を言えば、「AはBがCだと思っている」という構文がすべて読みにくいわけではなく、むしろそう書かないと不自然な場合もあります。
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プリベット通り四番地の住人ダーズリー夫妻は、「おかげさまで、私どもはどこからどうみてもまともな人間です」と言うのが自慢だった。不思議とか神秘とかそんな非常識はまるっきり認めない人間で、まか不思議な出来事が彼らの周辺で起こるなんて、とうてい考えられなかった。
(J・K・ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』、松岡佑子訳、冒頭)
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第1文が「Aは『BはCだ』と言うのが自慢だった」という構造ですが(ちなみにこれは二重主語構文でもありますが)、たとえば「『BはCだ』と言うのが、Aの自慢だった」に並べ替えると、A(ダーズリー夫妻)を修飾する部分「プリベット通り……」が邪魔になります。
「『おかげさまで、私どもはどこからどうみてもまともな人間です』と言うのが、プリベット通り四番地の住人ダーズリー夫妻の自慢だった」
基本的に後ろや末尾の情報が重視される日本語のつらいところで、この場合、「おかげさまで……」よりも「プリベット通り四番地の住人ダーズリー夫妻」、もっと言えば「彼らがプリベット通り四番地の住人であるという事実」に、重点が置かれてしまいます。
作者と訳者の意図として、「まか不思議な出来事が彼らの周辺で起こるなんて、とうてい考えられなかった」を強調したい場面なので、現在出版されている松岡さんの
ただ、一般的に言ってB、C、あるいはその両方が長くなると読みづらくなりますし、PCで書いた文章は手書きに比べ文字数が増えがちです。
そこで、並び替えの選択肢を普段から準備しておくことをお勧めしたいと思います。
基本的には、主語と述語の距離を縮めることを意識すれば、読みやすくなります。
「BがCだとAは思っている」
これが最も素直な工夫ですが、注意していただきたいのは、B、C、あるいはその両方が長い状況で、文末に「とAは思っている」が来ると、読者が不意を突かれる場合があることです。
あたかも一般論やその世界の常識のように書いておきながら、実はそれはAという特定の個人の見解に過ぎませんでした、という話運びは、少々意地悪です。
小説内の表現として効果的なこともありますが、むやみに分かりにくくしても意味がないので、他の書き方も候補に入れるのがベターです。
「AはBをCだと思っている」
「Aが思うに、BがCだ」
「Aが見る限り、BがCだ」
「Aの考えでは、BがCだ」
これらの例では動詞が「思っている」ですが、「言う」、「気付く」、「知っている」などの場合には別のアプローチが必要です。
おそらく「気付く」もそうだと思いますが、動詞によっては並び替えの余地があまりないので、別の動詞を使ったり、動詞を使わない書き方に変えたりすることも検討しましょう。
並び替えでご注意いただきたいのは、順番を変えると、主格を表す助詞として適切なものも変わってくるということです。
これまでにも見てきたように、主語が文末まで続く場合の格助詞は「は」、続かない場合の格助詞は「が」が基本です。
「AはBがCだと思っている」
→「Aが思うに、BがCだ」
また、Aの頭の中で「B=C」という構図が出来上がっている場合、「CはBだ」に変えた方がしっくりくることがあります。
「AはBがこの事件の犯人だと思っている」
→「Aが思うに、この事件の犯人はBだ」
PCで気軽に書ける現代社会では、書き直さずに文字通り並べ替えるだけで済んでしまうので、助詞の変更を忘れてしまう危険が高まっています。
執筆した小説を見返す際には、その辺りも考慮するようにしましょう。
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