主語と述語⑦ 強調点
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私はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。(略)
私が先生と知り合いになったのは鎌倉である。
(夏目漱石『こころ』、冒頭)
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主語と述語が1組だけの文を単文と言い、これが文の最も基本的な形です。
単文と単文をつなげたものを重文、単文の中に別の主語と述語が入っている文を複文と言います。
(1)「私が先生と知り合いになったのは鎌倉である」
これは、要素を取り出すと「AがBしたのはC」となる複文です。
単文「Aが(Cで)Bした」の形にすると、
(2)「私は鎌倉で先生と知り合いになった」
となります。
注目してほしいのはどの情報が強調されているかということで、(1)では「鎌倉」が強調されています。
なぜわざわざ鎌倉を強調するのかと言えば、(1)の主語を構成する情報――先生と「私」が出会っていること――は、すでに読者も知っているからです。
言い換えれば、(2)のように書いてしまうと、ほとんど同じ情報を繰り返す、方向性の定まらない話という印象になります。
英語の授業みたいだと思われるかもしれませんが、日本語で小説を書く際にもこれはなかなか大事なことで、書き手は自分が何の目的で(どういう効果を狙って)何の情報を強調するのかを自覚していなければなりません。
というのも、文章を分かりやすくするためには段落ごとに情報を整理する必要があり、そのとき最初の1文で、その段落で何の話をするか明示しなければならないからです。
「彼女は十年間、
→平たい文ですが、強いて言えば「研究した」を強調しており、「単なる片手間ではなく熱意を傾けて研究した」という雰囲気があります。
「彼女が三葉虫の化石を研究した期間は、十年だ」
→「十年」を強調。
「彼女が十年間研究したのは、三葉虫の化石だ」
→「三葉虫の化石」を強調。
「彼女が十年間研究した化石は、三葉虫のものだ」
→「三葉虫」を強調。
「十年間三葉虫の化石を研究したのは、彼女だ」
→「彼女」を強調。
その1文で何を強調するかによって、読者が後の展開に期待する話も変わってきます。
文章がその期待から外れ続ければ、きっと読者は「話の先行きが見えない」、「だらだらと脈絡のない話が続いている」といったネガティブな感情を抱き、最悪その作品を読まなくなってしまうでしょう。
ご自身で文章をチェックする際には、自分は何を言いたいのか、どの情報を強調すべきなのかという観点も、意識してみてください。
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