主語と述語③ 対応関係


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 アレクセイ・フョードロウィチ・カラマーゾフは、今からちょうど十三年前、悲劇的な謎の死をとげて当時たいそう有名になった(いや、今でもまだ人々の口にのぼる)この郡の地主、フョードル・パーヴロウィチ・カラマーゾフの三男であった。

(ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』、原卓也訳、冒頭)

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 回りくどいですね。

 ドイツ語やロシア語から翻訳された文章は、このように1文が長く、日本語話者の読者を戸惑わせるものが多いように思います。


 この日本語の分かりにくさの原因は、主語と述語の対応関係が分かりにくいことです。

 一般的に、我々は主語の後に用言(動詞、形容詞、形容動詞)が来ると、そこに主語と述語の対応関係を期待してしまいます。

 そのため、初めて読むと「有名になった」が述語だと思ってしまうのですが、実はこれは父フョードルを説明する部分であり、真の述語は「三男であった」です。

 アレクセイは三男。

 フョードルはその父親で、「謎の死をとげて当時たいそう有名に」なりました。


 当然ながら、『カラマーゾフの兄弟』を読破しようと意気込む読者がこれくらいでへこたれることはないでしょうが、Web小説で同じことをするのは非常に危険だと思います。

 分かりやすい形に修正することが必要です。


 ニュアンスが少々変わるのですが、主語と述語の形を崩し、情報を出す順番をすっきりさせると、少しは読みやすい文章にできます。


「今からちょうど十三年前、悲劇的な謎の死をとげて当時たいそう有名になった(いや、今でもまだ人々の口にのぼる)この郡の地主、フョードル・パーヴロウィチ・カラマーゾフには、アレクセイ・フョードロウィチ・カラマーゾフという三男がいた」


 ご自身で小説をチェックする際には、主語と述語の対応関係が分かりやすいかということにも、注意してみてください。




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※追記

 コメントでご指摘いただいた通り、文章を分かりやすくするときの基本は、文章を短く区切ることです。今回の記事では、1文のまま分かりやすくする手法を考えましたが、1文にする必要性がない場面であれば、2つ、3つの文に分けることも視野に入れるべきでしょう。

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