主語と述語② 主格の「は」と「が」


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 アヴォンリー街道かいどうをだらだらと下って行くと小さな窪地くぼちに出る。レイチェル・リンド夫人はここに住んでいた。まわりには、はんの木がしげり、ずっと奥のほうのクスバート家の森から流れてくる小川がよこぎっていた。

(モンゴメリ『赤毛のアン』、村岡花子訳、冒頭)

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 美しい文章です。

 第1文には主語が存在しないと考えて良いと思いますが、分かりづらい印象はなく、とてもすっきりしています。


(※注)「下って行く」の「行く」は補助動詞なので、現在ではひらがなにして「下っていく」と書くのが一般的ですが(紙の辞書をご確認ください)、補助動詞を漢字にするのは古い本や訳文だとよくあります。


 ところで、これがもし「レイチェル・リンド夫人ここに住んでいた」だとしたら、どうでしょう。

 間違いとは言い切れないまでも、文のニュアンスが変わった印象にならないでしょうか。


 主格の助詞「は」と「が」の使い分け、それによるニュアンスの違いなどは意外と難しく、日本語ネイティブのかたでも普段はあまり意識していないと思います。

 ですが、当然ながらどちらでもよいわけではなく、用法を間違えると多くの人に違和感を与えてしまいます。

 たとえば、先に引用した文章には「まわりには、榛の木茂り、ずっと奥のほうのクスバート家の森から流れてくる小川よこぎっていた」とありますが、傍点部分の「が」を「は」に変えてしまうと、文章としていびつになります。


 主格の助詞「は」と「が」の使い分けを解説したネット記事のURLを、このページの末尾に貼りますので、詳しくはそちらを確認したり、ご自分で他の記事も調べたりしていただきたいと思います。

 ともかく、使い分けの主なポイントは以下の5つだそうです。


(1)新情報か旧情報か。

(2)現象文か判断文か。

(3)主格がどこまで係る(=つながる)のか、文末まで係るのか、節の中だけにしか係らないのか。

(4)主格が対比の意味を表すか、排他の意味を表すか。

(5)指定文か措定文か。


 厳密に考えていくなら、この記事の議論だけでは済まないでしょう。

 また、「レイチェル・リンド夫人はここに住んでいた」における主格の助詞がなぜ「は」なのかという点は、ここで私が理屈づけを試みても、微妙な話にしかならない気がします。

 私は別に文学部出身ではありませんし、半端な知識でべらべら語っても間違いがありそうなので、無責任ではありますが、今回は注意喚起に留めさせていただきたいと思います。


 ともかく、文豪やプロの作品から勉強したり、ご自身で小説を書いたりする際には、主格の「は」と「が」の使い分けとその効果にも目を向けていただくと、文章力によりみがきをかけられるかもしれません。




アークアカデミー日本語教師養成講座「『は』と『が』の使い分け」:

https://yousei.arc-academy.net/manbow/index.php/term/detail/1031#:~:text=%E4%B8%BB%E6%A0%BC%E3%81%8C%E3%80%81%E3%81%9D%E3%81%AE%E6%96%87%E3%81%AE,%E5%9F%BA%E6%BA%96%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E4%BD%BF%E3%81%84%E5%88%86%E3%81%91%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82&text=%EF%BC%885%EF%BC%89%E6%8C%87%E5%AE%9A%E6%96%87%E3%81%8B%E6%8E%AA%E5%AE%9A%E6%96%87%E3%81%8B%E3%81%A7%E4%BD%BF%E3%81%84%E5%88%86%E3%81%91%E3%82%8B%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%80%82

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