第62話 アジア大会に向けて

プロホプルの日本大会で優勝した俺たちにはアジア大会の出場が約束されている。

アジア大会まではまだ時間があるが、準備はしておかなければならない。

日本大会よりもさらに歴戦を制した猛者たちが集まってくるのだ。


「アジア大会、もう少しだね」


 スタジオでの撮影を終え、帰路に就いている途中で莉央が言った。


「そうだな。もう、2ヶ月切ってるのか」


 アジア大会の今回の舞台はここ、日本である。

リュアーグの本社が日本にあるので、基本的に日本になることが多いのだが、世界大会はアメリカで行われた。


「ねえ、合宿しようよ! ゲーム合宿!」

「いいじゃないか? 場所はどうするんだ?」

「私の家があるじゃん!」


 莉央は1人暮らしをしているし、高級マンションに住んでいる。


「ああ、そうだったな」


 莉央の部屋には一回だけ入ったことがあるが、めちゃくちゃ広かったという印象が残っている。


「ちょうど、今週末は連休じゃん!」

「そうだね。やろっか」


 今週末は3連休で学校も休みになる。

そのタイミングで集中してゲーム合宿とは楽しそうである。


「ゲーム環境はうちに整っているから手ぶらでいいよ」

「おう、分かった」


 最寄り駅から歩き、莉央のマンションの前に到着した。


「今日も送ってくれてありがとう」

「いい。まだ、心配だし」


 以前、莉央はストーカーの被害に遭った。

それ以来は、できるだけ俺が送ろうと決めていた。


「そうだ、これ渡してほしいって親父が」


 俺は財布の中から名刺を一枚取り出した。


「これは?」

「親父の知り合いのセキュリティ会社の社長さん。ここにホームセキュリティをお願いしたらどうだって。お節介かもだけど」

「ううん、ありがとう。調べてみるね」

「じゃあ、俺はこれで。また週末に」


 俺は莉央と別れると、自分のマンションへと帰る。


「おにい、おかえりー」

「ただいまー」


 キッチンからいい匂いが漂ってくる。


「ご飯できるから手洗ってきて」

「あいよ。いつも悪いな」

「いいんだよ。好きでやってるんだし」


 今日は匂いからしてカレーだろう。

親父は今日も帰って来れないらしい。

捜査一課長に就任してから毎日忙しそうにしている。


 食卓にカレーとサラダが並んでいる。


「今週末の連休、俺ご飯要らないからよろしくな」

「何かあるの?」

「莉央の家で合宿やることになったんだ。大会も近いし」

「へぇー」


 柚月がニヤニヤした表情を浮かべている。


「なんだよ」

「いやぁ、お兄も隅に置けないなぁと」

「ただゲームやるだけだよ」

「ふーん、ゲームってプロホプルのことだよね?」


 カレーを口に運びながら柚月が尋ねてくる。


「そりゃそうだよ。気分転換に違うゲームもやるかもだけど」

「まあ、いいんじゃない? 楽しんできなよ」

「ありがとう。1人にしてすまんな」

「それは気にしなくていいよ。週末はお父さん帰れるみたいだし」


 忙しい中、親父はちゃんと家族との時間を作ってくれている。


「それならよかった。親父には後で連絡しとくわ」

「りょーかい」

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