第61話 感謝状②

 土曜日、警視庁に行く当日になった。

親父は朝から身だしなみを整えている。


「親父、これでいいかー?」


 俺は久しぶりにちゃんとスリーピースのスーツを着ていた。


「いいじゃないか。俺も変じゃないか?」

「ああ、変じゃないよ」


 親父もスリーピースのスーツに髪型もバッチリセットされていた。


「じゃあ、行くか」

「あいよ」

「2人とも行ってらっしゃい!」


 玄関で柚月が見送ってくれる。


「行ってきます」

「行ってくる」


 マンションの地下駐車場に親父の車が停車している。

親父の運転する車で警視庁がある霞ヶ関へと向かう。


「着いたぞ」


 警視庁の駐車場に車を停車させて親父は言った。


「ありがとう」


 親父の後を付いて警視庁に入って行く。

何も悪いことはしていないのに、警察署に入るのはなんだか緊張してしまう。


「これ、諒の入庁証な。見える所に付けとけ」

「分かった」


 俺は親父から受け取った入庁証を胸の位置に付けた。


「あ、課長お疲れ様です」

「一課長お疲れさまです!」


 通り過ぎる人が皆、挨拶をしていく。


「お疲れさま」


 親父がそれだけ慕われていて、なおかつ警察組織の上に立つ人間なのであることを、あらためて実感する。


「親父って凄いんだな」

「まあな」


 エレベーターに乗って4階で降りる。

そこの大会議室が今回の会場となっていた。


「お待たせしました。息子を連れて参りいました」

「ご苦労。では、始めようとするか」


 その部屋には刑事部長、捜査一課長、副警視総監、捜査一課の管理官たちが並んでいる。

なかなかに凄い面々だと言えるだろう。


「高森諒さん、こちらへ」

「はい」


 俺は指示に従って、副総監の前に立つ。


「感謝状、高森諒殿。あなたは新宿区にて発生したストーカー被疑事件において、多大な貢献をされました。よってここに敬意と感謝の意を表します。警視総監、森誠吉」

「ありがとうございます」

「こちらこそありがとう」


 俺は感謝状を副総監から受け取った。

周りからは拍手が送られてきている。


 表彰が終わると副総監から声をかけられる。


「さすがは捜一の魔物の息子さんだな。ナイフを持った犯人を取り押さえるとは大したもんだ」

「いえ、あの時は必死でしたから」


 俺は苦笑いを浮かべながら言った。


「それでも、犯人を前にして怯まなかったその心が凄い。ぜひ、うちに欲しい人材だったな」

「すみません……」

「今からでも警察官を目指さないか? 私が面倒見てやるぞ」


 副総監がグイグイ迫ってくる。


「副総監、お気持ちは嬉しいですが、息子はもう他の事で成功してるんですよ」

「eスポーツ大会の優勝者だったか。凄いんだな」

「ありがとうございます」

「まあ、君が警察官にならないなら、お父さんにもっと頑張ってもらうとしよう」


 副総監はニヤリとした笑みを浮かべて言った。


「私をこれ以上働かせるつもりですかね……」

「高森、お前には期待してるんだ。警察功績証を授与したいって警察庁長官がおしゃっていたそうだぞ」

「え!?」


 警察功績章は、特に顕著な功労があると認められる警察職員に対して警察庁長官から授与されるものだ。

警察表彰の中では第3位の表彰である。


「だから、これからも精進してくれよ。高森義英捜査一課長」

「はい!」


 こうして、俺の表彰式は終了した。

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