第60話 感謝状①
莉央のストーカーが逮捕されてから、莉央は笑顔が増えた。
ずっとストレスだったものが解決したのだからそれもそうだろう。
「本当、ありがとうね。私、諒と出会えてよかった」
スタジオでの生配信を終えて、俺たちは帰路に就いていた。
「当然のことだよ。莉央に何かあったら、俺は悲しいし」
「そういうこと、サラッと言えちゃうとこなんだよなぁ」
莉央は苦笑いを浮かべている。
「今日はここまでで大丈夫だよ」
「家まで送るよ」
「大丈夫! もうストーカーもいないしね」
「そっか、分かった。気をつけてな」
俺は改札で莉央の背中を見送った。
「さて、俺も帰ろ」
莉央の後ろ姿が見えなくなると、俺も自分の家に向かって歩き始める。
「ただいまー」
家に帰ると、玄関に親父の靴が置かれていた。
どうやら、今日は帰って来ているらしい。
「おう、おかえり」
リビングのソファーで座っていた親父が俺に顔を向けて言った。
「珍しいね。この時間に帰ってこれるなんて」
「事件が一個片付いたからな」
時刻は20時を少し過ぎたくらい。
この時間はまだ親父は職場にいることが多かった。
「莉央さん、あれからどうだ?」
「もう、大丈夫みたいだよ。随分と笑顔も増えたし」
「そうか、それならよかった。でもまだ、一応莉央さんの自宅付近のパトロールは強化するように伝えてある」
「ありがとう」
いつまた、この前のようなことがあってもおかしくはない。
莉央は顔出しもしているし、熱狂的なファンが数多くいるのだ。
ストーカーが1人であるという保証も無い。
「お前が気にすることじゃないさ。息子の大切な人は俺の大切な人でもあるんだからな」
そう言って、親父は缶ビールを流し込んでいる。
今日はもう、飲んでいい日らしい。
「そうだ。うちの刑事部長がお前に感謝状を出したいって言ってるんだけど、どうする?」
「え? なんで俺に?」
刑事部長といえば親父の上司であり、警視庁刑事部のトップである。
「そりゃ、お前が莉央さんのストーカー事件解決に大きく貢献したからだろ。俺も刑事部長と副総監に褒められちゃったもんね」
親父は嬉しそうだった。
刑事部長だけでなく、副総監にも褒められたのは相当嬉しいのだろう。
副警視総監は警視庁のNo.2の偉い人なのだ。
「それって、断れないの?」
「なんで断るんだよ! 俺の顔を立てると思って頼むよ!」
「分かったよ。受けるよ」
「ありがとう。じゃあ、今度の土曜日に一緒に警視庁に行くぞ」
俺は親父の顔を立てるという意味でもこの表彰を受けることにした。
「お兄、すごいじゃん!」
「いや、俺はただ莉央のことをだな……」
「それでも、誰にでもできることじゃ無いと思うよ」
柚月まで嬉しそうな表情を浮かべている。
「ありがとうな」
「うん! やっぱりお兄はかっこいいよ!」
こうして、俺は警視庁から表彰されることが決定した。
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