アルティスの一日
その後編です。
・ヒナタとラズの一日
・クラハの一日
・アルティスの一日
・ジークの一日
どれも一話完結の単話です。
話も繋がっていないので、順番関係なくお読みいただけます。
ジークの話だけ明日土曜日の投稿に繋がります。
****************
あの晩、ヒナタたちと別れたアルティスはリュウノスケと共に城へと帰った。
そして次の日には再び街へ赴き、そして役所へと向かった。
日本へと帰ってしまったキミカの後処理をするためだ。
ルクナで日本人は役所で居場所や仕事を管理されている。この国から出ないように役所で居場所を管理し、定期的な連絡が取れなくなった場合、国をあげて捜索される。
だから日本人は自由に行動は出来ないのだ。
それを手厚い待遇で迎え、気付かないように仕向けている。
アルティスはそれを変えたいと何年も前から思っていた。
今回のキミカの帰還はその第一歩でもあった。
「ようやく一歩を踏み出せた」
アルティスはグッと握り拳に力を込めた。
役所へ着いたアルティスは役人の一人に声をかけ、日本人の書類を見せてもらうことにした。本来ならば役所の人間のみが閲覧出来る日本人の基本情報。それらを王子という特権を利用し閲覧を強要した。
「殿下、あまり長くは……少しだけですからね……」
「うん、分かっているよ、ありがとう」
アルティスは大量にある書類の中からキミカの名を探した。ひたすらもくもくとキミカの名を探し、そしてその名を発見すると、ほっとした表情を浮かべ、胸元から一つの魔石を取り出した。
その魔石をキミカの名、キミカの情報が載ったページに置く。そしてアルティスが小さく呟くと、その魔石はほのかに光り出し、そしてゆるゆると文字を吸い取って行く。
まるで文字が生きているかのようにゆるゆると動き、魔石を目指して集まったかと思うと、それらの文字たちは魔石の中へと吸収されて行った。
そしてキミカのページなど最初からなかったかのように、最後にはページすらも魔石の中へと吸い込まれて行った。
「ふう、完了」
キミカに関する情報は全て魔石の中へと吸い込まれ、跡形もなくなった。
「申し訳ないけれど、キミカさんの情報はなかったことにさせてもらったよ」
誰に告げるでもなく、綴じられていた書類に手を置くと、アルティスはそっと呟いた。
そして役所の人間にも魔術でほんの少し記憶の改ざんを行った。先程魔石に吸収させたキミカに関する情報、そして今日アルティスが来た、ということを記憶から消したのだ。
今後増えていくのではないかと思われる日本人の帰還。そのたびに今回のような処置をしているのではキリがない。今後どうしていくかは課題として残る。
アルティスは城に帰る道中でも今後のことを色々と考えながら、頭を抱えたが、しかしそれよりも一歩前進したということが嬉しく、今は目先の問題点については考えないようにしたのだった。
そうしてリュウノスケにも報告をしようかと研究所へ向かう途中、ある人物を目撃し盛大に吹き出した。
「ブフッ、ククッ、な、なにやってんの? 二人とも」
目の前にはヒナタにびったりとくっついて歩く、ラズの姿があった。
声を掛けられ驚き振り向いたヒナタは、ハッとした顔になり、しがみつくラズの顎めがけてアッパーカットが炸裂した。
「!!」
声にならない悲鳴を上げたラズは顎を押さえながら蹲った。
「あ、ごめん、つい」
ヒナタは少し申し訳なさげにラズの顔を覗き込んだ。
「アッハッハッハ!!」
アルティスは笑いが止まらなくなった。目には涙まで浮かぶ。
あのラズがヒナタにデレデレ、さらにヒナタには強烈な反撃を食らっている。笑わずにはいられなかった。
「くっそー、アル! 笑うな!」
「い、いや、だってさ、ブフフッ」
腹を抱えて笑うアルティスを睨むラズ。こちらはこちらで痛みで涙が滲む。
「ご、ごめんてば」
ヒナタはラズの顎をなでなでとすると、ラズは頬を赤らめ大人しくなった。
「やっぱり猫……」
「ん?」
「い、いや! なんでもない!!」
ラズが痛みから復活すると、再び立ち上がりやはりヒナタにくっついた。腰に手を回されがっちりとホールドされている。ヒナタは若干顔を引き攣らせ、乾いた笑みを浮かべていた。
「あー、笑った笑った……、で、どうしたの? 二人とも」
アルティスは指で涙を拭いながら聞く。
「あー、今後のことを相談しに……」
ラズはアルティスの従者のことを、ヒナタはリュウノスケと今後の相談を、ということだった。
「なるほど、そういうことか。うーん、じゃあ、ちょうど今からリュウノスケ殿のところへ行こうと思っていたので、皆で行きましょう」
アルティスがそう促し、三人で研究所まで向かう。
研究所の中では相変わらず皆が忙しそうに働いていた。
「リュウノスケ殿」
アルティスがそう声を掛けるとリュウノスケ以外にも全員がこちらを振り向いた。
しかし皆慣れたもので、アルティスの姿を確認すると、小さくお辞儀をし、そのまま作業に戻る。
本来ならば王子が訪問してきたのならば、それなりな出迎えになるのだが、アルティスの研究所への訪問は毎日の恒例行事になっていた。それゆえもう慣れたものでお互い軽い挨拶程度で済ますようになってしまっていたのだった。
「おや、殿下、それにヒナタとラズヒルガまで。どうされました……ということもないですね。これからのことを話しに来られたのでしょう?」
「ハハ、さすがリュウノスケ殿、話が早い」
アルティス、ヒナタ、ラズの三人はリュウノスケに促され、研究員から少し離れた応接椅子へと移動した。
「さて、今後の話ですか?」
「ですね、とりあえずラズをまずどうするか」
「どう、とは?」
アルティスがラズに視線を向けると、リュウノスケもそれに釣られてラズを見た。
ラズは少したじろぎながらぼそぼそと話し出す。
「あー、あのさ、俺……アルの従者を辞めようかと……」
「え……」
四人の中でリュウノスケだけが驚きの声を上げた。
アルティスはラズが言い出すことを最初から分かっていたようだった。小さく溜め息を吐くとラズの言葉に続いた。
「僕の従者を辞めてどうするの? どこかで働くの? そもそも従者になるときに父上に許可を得ているんだよ。だからそんな簡単に辞められない。辞めるならば父上の許可を再びいただかないと。そうなるとなぜ辞めたいのか、といった話にもなるよね。そこでどう説明するの? ヒナタ殿とのことを言うつもり?」
ヒナタはアルティスの言葉に驚き青ざめた。
まさか陛下に自分のことを話されるとは思っていなかったのだろう。それはラズも同じだった。ラズまでもが驚いた顔をしている。
「そ、それは……」
「無理だよね。ヒナタ殿とのことは言わないほうが良い。となると、このまま従者を続けるしかないよね」
「いや、でも……それだとヒナタと一緒にいられない……」
何を甘っちょろいことを言っているのだろう、とアルティスは呆れたが、しかしようやく想いを通じ合わせ、今は絶頂に楽しいときなのだろう、常に一緒にいたいという気持ちも分からなくもない。しかしだからといって仕事は仕事だ。
「ヒナタ殿とずっと一緒にいたいのは分かるけど、仕事はちゃんとしないとね。今まで通り僕の従者でいれば良いじゃないか。これほど融通の利く仕事もないと思うよ?」
「え!?」
「日中は一緒にいられなくても、夜にはヒナタ殿の家に帰りたいんでしょ? なら、ここでの業務を早くあがれば良いよ」
「アル!!」
ラズは満面の笑みで喜んでいたが、ヒナタはなぜか顔を赤らめ俯いてしまった。
ハハ、なんとなく予想はつくけどね。
「で、今後のことはまたなるべく密に連絡を取り合いましょう」
そう言ってアルティスたちは普段から王城で会ったり、街で会ったりと、頻繁に会い日本研究を続けて行ったのだった。
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