クラハの一日

その後編です。


・ヒナタとラズの一日

・クラハの一日

・アルティスの一日

・ジークの一日


どれも一話完結の単話です。

話も繋がっていないので、順番関係なくお読みいただけます。


ジークの話だけ明日土曜日の投稿に繋がります。


****************


「あぁぁぁあ、どうしよう……」


 盛大な溜め息と共に項垂れながら言葉を吐いたクラハ。


 先日ヒナタから「日本に帰ることが出来るかもしれない、もし帰ることが出来たら、何でも屋はもう働くことが出来ない」と告げられた。


「ヒナタの人生だしね、君が帰りたいと思うなら止めることは出来ないよ」


 本心だった……止めることが出来ないことは事実だし、元々この世界の人ではないのだ。来たくて来た訳でもない。それを帰りたいと言われて引き留められる訳がない。


 そう、だから本心だったんだよ。


「で、でもさぁぁあ!!」


 ちゃぶ台に突っ伏しながらグダグダといつまでも言っている自分が情けなく思うが、それでもやはり溜め息が漏れてしまう。


 ヒナタが来てからはというもの、客からの評判も良く、仕事の依頼も膨大に増えた。ヒナタの仕事は丁寧で早い。さらに客とも仲良くなるのだから、それは評判も良くなるというものだ。


 そうやってヒナタのおかげで増えた依頼を、これから一人でどうするか。


 それが頭の痛いところだった。依頼の件数を減らすのは仕方ないにしても、今までヒナタの仕事の丁寧さで人気を得ていた依頼を、自分一人でこなすことが出来るのか、それだけがどうしたら良いのか結論が出なかった。


 いや、まあ俺が丁寧にやれば良いだけなんだけどさ、でも人間得意不得意ってあるじゃないか、俺にはどうやっても上手く出来ないこともあるんだよ。


 それを思うと頭が痛い……。


「はぁぁあ、どうしよ……、あんな格好つけるじゃなかった……」




 そんなことを悩む日々を送っていると、一週間後、ヒナタが帰ったかもしれないと思われる日の翌日にヒナタが現れた。



「えぇ!?」



 まあ驚くよね。もう二度と会えないと思っていたヒナタに、しかも後ろには誰なんだかイケメンさんがヒナタにびったりとくっついている……。誰だあれ。


「ちょっとラズ、そんなにくっつかないでよ」

「良いだろ、これくらい」

「もう! 動きにくい!」


「んんん!?」


 ラ、ラズ!? ラズとか言ったか? 今。え? ん? んん?


「クラハさん……、すいません、またここで働かせていただけませんか?」


「え? いや、ちょっと待って、え? ヒナタ? なんで? 日本に帰ったんじゃ」

「あー、帰れそうだったんですよ……帰れそうだったんですけどね……」


 ヒナタは後ろにビタッとくっつく男を振り向き見上げ、じろりと睨んだ。


「い、いや、だって……それは……、それは謝ったじゃないか!」


 男はもごもごと言い訳をしている。


「す、すまん、状況が分からん。ヒナタは日本には帰れなかった、ということか?」

「そうですね、残念ながら」

「で、その男は誰なんだ?」

「あ……」


 ヒナタは驚いたような顔をし、後ろの男はニッと笑みを浮かべ、ヒナタの腰に手を回したまま引き寄せた。


「ちょ、ちょっといい加減に……」

「いやだ」


「…………」


「あ、その! この人は、えっと……ラズです……」


「は?」


 ヒナタは苦笑した。


「今まで私の側にいた黒猫のラズなんです。その……呪いにかかっていて黒猫の姿だったんです。で、その呪いが解けて人間の姿に戻ったんですよ」


「…………、えぇ!? 人間!? 人間だったの!?」


 あの黒猫のラズが人間……、しかも男……、しかもヒナタにべったり……。


「えっと……、その……、ラズっていうのは驚いたけど分かった……、それでその……、二人は付き合ってるということか?」


 まあこのべったり具合を見ると明らかだが、そこは一応確認するか。


「い、いえ!」

「そうだ!」


 二人して真逆の返答……。


「「えぇ!?」」


 お互いが驚いてるし……なんだこれ。


「おい! なんでだよ! 俺らもう恋人同士だろ!?」

「ちょ、ちょっと恋人同士とか大声で言わないでよ!」

「あんなキスした仲……むぐっ」


 ラズの口を思い切り押さえたヒナタ……、いや、うん、聞こえたけどね……ハハ。


「な、な、なに言ってくれちゃってんのよ! こんなところでそんなこと言わないでよ!」

「ヒナタが付き合ってないとか言うからだろ!!」

「そ、それは!!」


 ギャーギャーと二人で言い合っている。なんだこれ、惚気か?


「ちょっと二人とも……、痴話喧嘩ならよそでやってくれる?」

「痴話喧嘩って!」


 ヒナタが真っ赤な顔をしてこちらに振り向いた。ラズと言われた男はニヤニヤしてるし……。


「うーん、まあ二人が恋人同士かはもうこの際どっちでも良いや」

「おい!」

「それよりもヒナタはじゃあまたここで働いてくれるんだね!? 俺にとってそれが一番重要だから!」


 ヒナタに詰め寄り肩をガッと掴むと、ヒナタはたじろぎ、ラズが思い切りヒナタを俺から引き剥がした。


「はい、またお願いしても良いですか? 急に辞めたりまた戻って来たり……本当に申し訳なく思うのですが……」

「いやぁあ! 助かるよ!! ヒナタがいなくなってどうしようかと思ってたんだ!」

「あー、ハハ、本当にすいませんでした……でも、クラハさん、これからは私がいなくてもなんとかなるように考えましょう」

「あ、はい……」


 こうして戻って来たヒナタと、ついでにラズも? と再び何でも屋を出来る日々が戻ったのだった。


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