その後編

ヒナタとラズの一日

その後編です。


・ヒナタとラズの一日

・クラハの一日

・アルティスの一日

・ジークの一日


どれも一話完結の単話です。

話も繋がっていないので、順番関係なくお読みいただけます。


ジークの話だけ明日土曜日の投稿に繋がります。


******************


 あの後部屋に帰ってから朝食を食べた。

 人間になったラズと面と向かってテーブルに着くのは初めてだったので、なんだかちょっと緊張。


「な、何か変な感じだね」

「ん? なにが?」

「え? だって人間のラズと向かい合って椅子に座ってるっていうのが……」


 なんだか恥ずかしい……。


「そうか?」


 ラズはなんだか余裕そうにニッと笑う。なんか腹立つなぁ。


「あ、えーっと、とりあえず帰れなくなっちゃったから、クラハさんにまた働かせてもらえないかお願いしに行こうと思ってるんだけど、ラズはどうするの?」

「ん? 俺も一緒に行くけど」

「いや、そうじゃなく……」

「ん?」

「だってラズってアルティス殿下の従者でしょ? お城に戻らなくて良いの?」

「あ、あー……、そう、だな……」


 忘れてたんかい。


 ラズは少し考えてから話し出す。


「うーん、とりあえず一度は戻らないとな……、その後どうするかだが……」

「どうするか、って従者をやめるの?」

「うーん」

「それは駄目でしょ! アルティス殿下にあんなにお世話になっておいて人間に戻れた途端に従者やめるとか!」

「だって……」

「だって?」


 ラズはじとっと私を見た。なんなんだ。


「俺が従者に戻ったらずっと城だぞ?」

「ん? うん?」

「良いのか? それで」

「え? なにが?」


 むきーっという猫パンチが見えそうだな、と笑いそうになっていると、ムッとしたラズがおもむろに立ち上がり、側に来たかと思うと急に抱き上げ私を膝に乗せて座った。


「ちょ、ちょっと!! なにしてんのよ!!」


 ラズの膝に横座りに乗せられ、耳元すぐ側にラズの吐息を感じ緊張する。


「俺が側にいなくても良いの?」


 耳元で囁かれゾクッとした。


「え、だって! それは仕方ないじゃない!」


 そもそも城で働いていたんだからずっと城になるのは当たり前で……。


「夜も俺がいなくて良いの? 城で働き出したら、こっちには帰って来られないかもしれないぞ?」

「え……」


 そこまで考えが至っておらず、驚きラズに振り向いた。

 綺麗なスカイブルーの瞳と視線が合うと、ちゅっと軽く唇を合わせられた。


「ラ、ラズ!!」

「ん? ヒナタがこっち向いたから」


 しれっとしているラズが腹立つー!


「で、どうなんだよ。俺がいなくても良いの?」


「え、あ、それは……その……」


 今さらこの部屋で一人で過ごすことは想像出来ない。やっぱりラズには側にいてもらいたい。そう思ってしまう。


「…………、一緒にいて欲しい……」


 恥ずかしさと情けなさとでなんだか居たたまれない気分になり、顔を伏せた。


 ラズはぎゅーっと力強く抱き締めた。そして私の首元に顔を埋めたかと思うと「好きだ」と嬉しそうな声で囁いた。


 うぅ、なんだこれ、恥ずかしい……、ふわふわする!


「うん、だからさ、ちょっと考えないとな、と思ってな。とりあえず一度は城に行くつもりだが……、その後はアルと相談だな……」

「うん……」

「ヒナタも一緒に行くぞ」

「え!? どこに!?」

「城に」

「え!? やだよ!!」

「なんでだよ! いつも側にいるって約束しただろ!!」

「えぇ……」


 な、なんだろ……ラズって束縛系?


「いやまあ、それもあるが、それよりも今後どうするかはヒナタも一緒に聞くほうが良いかと思うし」

「うーん、まあ……確かに……」


 なんだか口車に乗せられている気もするけど、知らないところで自分にも関わることを決められているのは嫌かな……、そう思うことにした。


 そうやってなんだかんだ話しながら朝食を食べ終えると眠気がやってきたため仮眠することにした……となったときにぎくりと身体が固まった。


「え、えっと……、ど、どうやって寝ようか……」


 ベッドは一人分しかない。

 今まではラズが猫だったから小脇に丸まって眠るだけで充分だった。でも今は違う……。


 一人の男……しかも図体デカし。さあ、どうするヒナタ!

 そんなことが頭を巡り、固まっていると、ラズはなんでもないことのようにベッドに入った。


「え、ちょ、ちょっと!」

「ん? なんか問題でもあるか?」

「問題ありまくりでしょ! 狭いし! いや、狭いのは問題じゃない……いや、違う、狭いのも問題ある……じゃなくて、色々ちょっと……その……」


 プチパニックになった。


「ブフッ。なにそんな慌ててんだよ、なんもしないし」


 ほれ、と布団を開き、中に促すラズの余裕に腹が立つ。


「ほ、ほんとに何もしないでしょうね」


 じとっとラズを見詰めながら、おずおずと布団に潜り込む。

 さすがに向かい合って眠るのは無理だ。

 ラズに背中を向け、反対側を向くと背中にラズの体温を感じ緊張する。


 なんだかラズがクスッと笑った気配を感じると、腰に気配を感じビクッとした。

 ラズの手が腰に伸び、ラズの腕の中へと引き寄せられた。


「ちょ、ちょっと!」

「だからなんもしないから、ひっついて寝るだけ」


 自分の背後がぴったりとラズの身体に沿いくっついている。髪にはラズの吐息が当たり、緊張と恥ずかしさとで身体が硬直し、ラズの少しの動作にすらビクッとなる。


 ね、眠れないわ!!


 緊張し過ぎて目が冴え、眠るに眠れない。くっそー、と思っていると、ラズの手や脚やらがそろそろと動き出す…………。



 この後、恥ずかしさと緊張と……甘々と……、色々と……激怒したのは言うまでもない…………

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