ジークの一日
その後編です。
・ヒナタとラズの一日
・クラハの一日
・アルティスの一日
・ジークの一日
どれも一話完結の単話です。
話も繋がっていないので、順番関係なくお読みいただけます。
ジークの話だけ明日土曜日の投稿に繋がります。
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ヒナタに告白をしたその後、ジークは盛大な溜め息を吐いた。
「はぁぁあ、振られたか……まあ分かってたのは本当なんだが……」
自分でも思った以上にショックを受けていることに驚いた。
ヒナタのことを好きになったのは、やはりあの氷の切り出しのときの事件がきっかけだろう。
小さな女の子だと思っていたら、れっきとした成人女性で、しかも男に混ざって力仕事をするくらい男勝りのところがある。しかしあの事件のときはただただ守ってやりたいと思った。
声を殺して泣くヒナタを抱き締めてやりたいと思った。
しかしそんなことを出来るはずもなく、頭を撫でることしか出来ない自分が歯痒かった。
ラズが人間の男だと知ったときから、ヒナタが好きな男はラズなんだろう、となんとなくは気付いていた。
しかしだからといって自分の気持ちをなかったことには出来ないし、なかったことにもしたくない。
だからヒナタがニホンへ帰るかもしれない、と聞いたとき、我慢できずに告白してしまった。ヒナタを困らせるだけなのは分かっていたのに。情けない。
「ハハ、結構本気だったんだなぁ……、久しぶりに本気で好きになったんだけどなぁ……」
空を見上げた。緩やかに流れる雲を眺めながら呟く。
「ま、仕方ないよな。ヒナタが幸せならそれで良い」
「だからそんな引っ付かないで! って言ってるでしょ!」
「なんでだよ! 今までヒナタだって俺を抱っこしてずっとスリスリしてただろうが!」
「そ、それはあんたが猫だったからでしょー!!」
「…………」
ヒナタとラズが街中でイチャイチャしてやがる。ん? ヒナタはニホンへ帰ったんじゃないのか? しかもラズの態度からして……お互い想いが通じ合った、といったところか?
ギャーギャーと言い合っている二人を見ると、まあ二人らしいのだが、やはりそれは自分ではヒナタとそんな関係にはなれないのかと、少し切なくなり、ラズに腹立たしくもなり、そして……自分でもガキじゃあるまいし、とは思ったのだが……、ヒナタとラズの間に割り込んだ。
「ヒナタ! ニホンへ帰ったんじゃなかったんだな!」
そう言ってヒナタを思い切り抱き締めた。抱き締めたヒナタはとても小さく華奢で、折れてしまうのではないかと心配になった。
ジークは自分の腕の中にすっぽりと収まったヒナタの姿が愛おしくなり、やはりまだ好きなのだと実感した。
「「!!」」
ヒナタもラズも声にならない悲鳴を上げているようだった。
「お、お、お、お前!! ヒナタから離れろー!!」
ラズが肩を掴みヒナタから引き剥がそうとするが、そこはジークのほうが体格が良いため、そう簡単にはいかない。
「なんだよ、再会を喜ぶくらい良いだろうが」
「よ、良くないわ!!」
「ジ、ジーク、苦しい」
ヒナタは顔を赤くしながら腕の中で見上げていた。
「!!」
ジークは勢いよくヒナタから視線を逸らし上を向いた。
今なお好きな女を抱き締めているという行為。それ自体は今までも経験はまあそれなりにある……しかし、なんだこの猛烈な恥ずかしさは。
自分から抱き締めておいてやたらと恥ずかしくなってしまい、どうしたら良いのか分からなくなったジークは、抱き締めたまま固まった。
「ジーク?」
上目遣いで聞いてくるヒナタがやたらと可愛く見える。なんなんだ、なぜ今まで以上に可愛く見えるのか。ジークは混乱した。
好きだと告白をし、それを意識してくれているヒナタだからなのか、少し困ったような、申し訳ないような、そんな複雑な表情。そしてすでに人のものだという背徳感。それらのせいで余計にヒナタをさらに好きになってしまったのだろうか。
次に会ったときには友達だ、とか格好つけて言ったくせに、いまだ諦めきれていないどころか、さらに好きになってしまうなんてどうかしている。
ジークは自分自身に苦笑した。
「情けないな……」
小さく呟いた言葉はヒナタに聞かれていたらしく、ヒナタはどうしたのかと心配そうな顔をする。
「ジーク? どうかした?」
そんなヒナタがたまらなく好きだ。これはもうどうしようもないな、と自身に呆れるように小さく溜め息を吐くと、ヒナタから身体を離した。
「大丈夫だ、またヒナタに会えて嬉しいよ」
そう言うとヒナタは顔を赤らめた。そしてラズが勢いよくヒナタを背後から抱き締め引き剥がす。
動物の威嚇のように睨みを利かすラズだが、ジークは意にも介さない。
「ヒナタ、結局ニホンには帰れなかったのか?」
「う、うん、ちょっと色々あって……」
なんだか微妙な雰囲気のヒナタとラズ。あえてそれには気付かないフリをした。
「そっか、ならまだこの国にいるんだな!」
「そうだね、とりあえずは……」
「なら、俺の故郷に遊びに来ないか?」
「え?」
ヒナタもラズも意味が分からず呆然としている。ジークはヒナタを真っ直ぐに見詰めニコリと笑った。
「俺の故郷の街でもうすぐ祭りがあるんだ。『花祭り』って言って街中花だらけになるんだよ。めちゃくちゃ綺麗だぞ。見に来ないか?」
「花祭り!? なにそれ!! 見たい!!」
ヒナタは勢い良く返事をしジークに詰め寄った。ジークはその姿を嬉しそうに見詰め、ラズは不機嫌な顔。
「お、おい、ヒナタ、他の街なんて行ったら駄目じゃないのか!?」
「え? 駄目なのって他国にでしょ? 同じ国内なら他の街にも日本人がいるって言ってたじゃない」
「う……」
「行きたい!」
「ハハ、じゃあ一緒に行こう。この時期仕事を休んで必ず街に帰るんだ」
「へー、そうなんだ、ジークの街ってここから遠いの?」
「うーん、まあまあ遠いかな。乗合馬車で丸一日はかかるな」
「遠すぎだろ!!」
「なら、お前は来るなよ」
「お、おい! 行くに決まってるだろ!!」
ジークはやれやれといった顔でラズを見ると、ヒナタに視線を戻し話を続けた。
「花祭りの前日に帰って、次の日朝から夜までずっと一日祭りが行われるんだ。それを一日過ごしてから次の日に王都に帰ってくる、って感じなら三日間くらいの日程だな」
「ジークはそのまましばらく街で過ごすの?」
「いや、ヒナタが帰るなら俺も帰るよ。何もないと思うがやっぱり心配だしな」
「そ、そんな心配してくれなくても大丈夫だよ? せっかくの里帰りじゃないの?」
「ん? いや、まあ毎年祭りには帰ってるから、そんな久しぶりでもないしな。長くいても色々手伝わされるだけだし」
そう言いながらジークは笑う。それよりもヒナタと一緒のほうが良い。そう思うジークだった。
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※明日土曜日の19時台に今話で出てきた「花祭り」のお話を更新予定です。
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