第五十三話 何でも屋の仕事をするとは思わなかった

「ユティナ様のお部屋がまだそのままになっておりますので、そちらに……あぁ、ヒナタ様、一緒にいらしてくださいませんか?」

「えっ!! な、なぜですか!?」


 いきなり話を振られ意味が分からない。ラズも固まっているし……。


「いえ、ユティナ様のお部屋にはまだたくさんの品が残されておりますので、色々探したりまとめたり、と人手があると助かりますので……、確か、ヒナタ様は便利屋さんをされているのですよね?」

「えっ、えぇ、なぜそれを……」


 何でエルフィーネ様がそんなことを知ってるのよ。な、何か嫌な予感が……。


「便利屋さんとしてお仕事としてお願いします! 私が依頼させていただきますので、お手伝いしていただけませんか?」

「え、あ、あの……」


 い、いや、いくら便利屋だからって、お姫様の部屋を家探しって! エルフィーネ様たちの従兄弟ということはイルグスト殿下のお母様はこのルクナの王様の姉か妹ってことでしょ!? そんな人の部屋を私みたいな一般人が入って良いものなの!? えぇ、これってどうしたら良いのよ!


 泣きそうな面持ちでリュウノスケさんを見るが、リュウノスケさんもどうにもならないとばかりに苦笑するのみ……。ちょっとぉ、助けてくださいよ……。アルティス殿下に至ってはニコニコしているし……。


「エルだけなんてズルい! 僕はヒナタ殿から色々まだ聞きたいことがあるのですよ! エルのほうの用事が終わったら次は僕ですからね!」


 い、いやいや、ちょっと何行く前提で話を進めてるんですか! 誰も行くなんて言ってないです!


「お兄様ったら、日本の研究ばかりですわね。ちょっとは遠慮なさったらどうですか?」


 エルフィーネ様がアルティス殿下に呆れるように言うが……、いや、どっちもどっちです……。


 ん、でもアルティス殿下は日本の研究をしているのよね……。てことは、日本に帰る方法とかも研究してくれるかも? ふむ。


 そう考えているとリュウノスケさんが側により、こっそりと耳打ちをした。


「また夜に少し話そう。出て来られるか?」


 昨日言ってたことね、一体どういった話だろう。


「分かりました。研究所まで来たら良いですか?」


 同じように小声で返すとリュウノスケさんは頷いて見せ、チラリとアルティス殿下たちを見た。


「じゃあまた夜に」


 小声で耳打ちすると、リュウノスケさんはアルティス殿下たちに研究所へ戻ることを伝え去って行った。あぁ、この場からは助けてくれないのね~! リュウノスケさーん!


『おい』


 ラズもまた小声で声を掛けて来た。まあラズはあれよね……


『夜なんか何の話だ、危ないだろうが! 何約束してんだよ!』


 やっぱりね……。言われると思った。


「リュウノスケさんは大丈夫だよ。それにラズも一緒に行ってくれるでしょ?」

『それはもちろんだが! 大丈夫なんて簡単に信じすぎだ!』


 ラズは心配してくれているが、リュウノスケさんの話は聞いておかないといけない気がする。どうでも良い話ならあの場ですぐ言えば良い話なんだし。


「とにかくヒナタ様、お手伝いお願いします」


 急に話を振られギクッとした。同じくラズまでギクリと固まる。どうやらいつの間にやらアルティス殿下とエルフィーネ様の問答は終わっていたようだ。


「え、あ、はい」


 あぁぁ、「はい」って言っちゃった! はぁぁあ、溜め息を吐きながらも諦めるしかないと覚悟を決めた。


「あの、私は確かに便利屋をやっていますが、私が仕事を受けたりする訳ではないのです。なので、勝手に仕事を引き受ける訳にはいかないので、今回はただのお手伝いということで」

「まあ、よろしいのですか? ちゃんと依頼としてお支払いしようと思っていましたのに」

「あー、はは、大丈夫です……」


 いや、かなり勿体ない気はするが……、でもねぇ、私は依頼を受注したことないしねぇ。それはやはりクラハさんを通さないといけないだろうし……。クラハさんなら「受ければ良かったのに」って言いそうな気もするけど……。

 帰ったらクラハさんにもう少し経営者としてしっかりしてもらおう……。


「話はまとまったの? 早くしてくれる?」

「あ、申し訳ございません! こちらです」


 イルグスト殿下、なんか冷たい! せっかくお母様の遺品があるとか教えてくれたエルフィーネ様に対して冷たくない!? なんだかなぁ。


 エルフィーネ様が先導し、イルグスト殿下と私が続く。


 エルフィーネ様に連れられた先は、王宮のだいぶ奥まった辺り。これ、一人で帰ることが出来るかしら……。若干心配になりながら道をしっかり覚えつつ付いて行った。


 王宮の奥深く、やたらと威圧感を感じる造りになって来ましたね……、これ、やっぱり私みたいな一般人には辛いところです……。



「こちらへどうぞ」


 エルフィーネ様がそう言うと、その豪華な扉を開き中へと入って行く。

 ここがユティナ様のお部屋なのかしら。


 中へと入ると、部屋の中は長く使われていないとは思えないほど綺麗な部屋だった。とても豪華な部屋ではあるが、女性らしい雰囲気のお部屋。

 私が寝泊まりさせていただいている部屋よりもさらに広く豪華だった。リビングのような主室をはじめ、寝室に浴室などの水回りの部屋。ドレスルーム、さらにお仕事でもする部屋かしら、たくさんの本棚には大量の本が並び、そして仕事をするためのような机。書斎のような部屋があった。


「こちらがユティナ様のお部屋です。イルグスト様にはご自由に見ていただけるよう許可は取ってありますので、どうぞご自由に見て回ってくださいませ」


 一緒に付いて来ていた侍女さんらしき人がお部屋のカーテンやらを全て開けていき、窓も開け放し、部屋全体がとても明るく爽やかな風が入った。


 これ……私がいなくても良かったんじゃ……。そんなことを思っているとイルグスト殿下に声を掛けられこれまた固まる。


「ヒナタ殿と言いましたか? ではお願いしても良いですか?」

「はい!?」

「え? 手伝ってくれるのでしょう?」

「え、あ、はあ……、私が色々いじっても大丈夫なんですか?」


 思わず本音が出た。いや、だってさ、私があれこれ家探しせんでも、ご自分で見て回るほうが良いんじゃ……。


「この部屋は母の部屋のようですが、故人です。さらに私は普段ここにはいないので、どこに何があるか全く分かりません。ならば、色々漁ってもらうほうが早いです」

「あ、ハハ……、漁る……、そうですか……」


 漁るって言われると何かやりにくい……。まあ仕方ないか……。はぁぁあ。

 溜め息を吐きつつ、仕方ないので家探し開始しますか! ラズを床に下ろし、気合いを入れた。


 イルグスト殿下はエルフィーネ様とドレスルームへ向かい、残されていたドレスやら宝石やらを確認していた。その間、私は一番物が多そうな書斎を徹底的に漁ります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る