第五十二話 異国の王子様とお姫様は麗しかった
「リディア様このたびはわざわざご足労ありがとうございました」
「いえ、毎回来るのを楽しみにしているんですよ」
フフ、とお姫様は笑う。
間近で見るとこれまた圧倒されるわね。なんというか美しさだけでもなく、持っている雰囲気というか、やはりお姫様ってのは違うのね~なんて呑気なことを考えていたら、いきなり視線が合いドキッとした。し、心臓に悪い……。
「あら、こちらの方は?」
うわぁ、真正面から見ると綺麗! 可愛い! なんか良い匂いする! エルフィーネ様も相当美しいけれど、このお姫様も半端ないわぁ。あまりの衝撃に固まってしまう。
「あー、彼女は最近流されてきた日本人です」
リュウノスケさんが説明をすると、お姫様は驚き顔を輝かせた。
「日本人!! 最近日本から来たのね!! きゃー!! 女の子!!」
いきなり手を掴まれ顔を近付けられた。あわわ、これ、どうしたら良いの!
「リディ、落ち着け、相手が固まっている」
先程寄り添っていた超絶美しい殿方!! いや、王子様! 銀髪の王子様!! 背後からそっとお姫様の肩を抱き、静止させてくれている。
それは有難いのですが、この王子様のアップもこれまた緊張する!
うわぁ、何よこの美しい方々に囲まれる図。無理!
「あ、ごめんなさい! あまりに嬉しくてつい!」
「私はコルナドアのリディアと申します」
リディア様は手を離すと丁寧に挨拶をしてくれた。それでもまだ固まったままの私はラズをやたらと抱き締めていたらしく、ラズが微妙に変な声を出していた。
「こちらはコルナドア王国のシェスレイト殿下、あちらはダナンタス王国のイルグスト殿下です」
アルティス殿下が王子様たちを紹介してくれた。おおう、見事にみんな王子様だった。
あわわ、私……、こんなところにいて良いのだろうか……。若干顔が引き攣るのが自分で分かった。
「すいません、リディア様の前世の話を少しだけ彼女にしてしまいました」
リュウノスケさんが苦笑しながら言うが、これって聞いて大丈夫だったのかしら……、物凄い機密事項なんじゃ……、そう思い顔は引き攣り蒼褪め、まあ大変。
「あぁ! そうなのですね! なら話は早いわ! 仲良くしてくださいね!」
そう言うとまたリディア様は手を握った。お、おぉ……やたらフレンドリーなお姫様だな。
「あ、ありがとうございます。ヒナタと申します」
やっとの思いで声が出た。
「フフ、ヒナタさんね、よろしくね。私たちはもう帰らないといけないけれど、またお会い出来たら嬉しいわ」
「は、はい」
「しばらく来られないのが難点ねぇ。リュウノスケさんにも冷蔵庫開発を任せっきりになってしまうから申し訳ないわ」
リディア様は私の手を握りながらリュウノスケさんを見て言った。
「しばらく来られないのですか?」
「えぇ、シェスの戴冠式があり、とうとう陛下になっちゃうの。そしたら私も王妃だし、気軽に出歩けないでしょ? 困ったわ」
本当に「どうしよう」みたいな顔をしているリディア様。それがなんだか可笑しかった。
そ、それにしても陛下……、とんでもない身分の高い王子様だった! いや、アルティス殿下もそうだしな。やっぱりここのメンバーの中に自分がいるということに無理がある!
「あぁ、とうとう戴冠式ですか。おめでとうございます」
リュウノスケさん、それにアルティス殿下もエルフィーネ様もシェスレイト殿下に頭を下げた。
おぅ! これ私も!? あわわ、慌てて同じく頭を下げる。
「ありがとう。頭を上げてください」
シェスレイト殿下はリディア様の肩を抱き、少しだけ微笑んだ。
「ですからね、しばらくこちらには来られないかと思うのです。残念だわ」
「リディなら一人で行きそうだよね」
イルグスト殿下が笑いながら言う。それを聞いたシェスレイト殿下が眉間に皺を寄せ溜め息を吐いた。
「それが困る。それだけは絶対駄目だ」
「わ、分かってますよ、さすがに一人で勝手には行きませんよ。行くなら言ってから行きます」
「いや、そうじゃなく……」
イルグスト殿下がブフッと吹き出した。さらにはシェスレイト殿下以外のみんなが笑い出す。
「そもそもが駄目だから……」
シェスレイト殿下ががっくりしながらリディア様を諭している。ハハ、なんか面白いお姫様ね、リディア様って。先程までの緊張が少し緩んできて、この麗しい方々のやり取りが楽しかった。
「さて、そろそろ行かないとな」
「あぁ、もうちょっといたかったわ」
リディア様が残念そうにしている。私ももう少しお話してみたかったなぁ。残念。
「あ! イルグスト様! 少しお話が……」
二人と同じように帰る仕草をし出したイルグスト殿下を止めるようにエルフィーネ様が慌てて声を掛けた。
「どうしたんですか?」
「あ、あの、イルグスト様のお母様の……」
「母上? 母上がなに?」
少し怪訝な顔のイルグスト殿下。それに少したじろぐエルフィーネ様。どうしたのかしら、イルグスト殿下のお母様?
「あぁ、イルのお母様はルクナの方よね。あなたたちは従兄弟同士ですものね。お母様のことで何かイルに伝えたいことがあるのね?」
リディア様がエルフィーネ様の意図を汲んで話を進めた。イルグスト殿下はアルティス殿下やエルフィーネ様と従兄弟なんだ。なるほど、それで黒髪なのね。
「え、えぇ、そうなんです」
「なら、イルはもう少し残ったら? 私たちは戴冠式準備で戻らないといけないけれど、イルはまだ大丈夫でしょう?」
「うーん、どうしようかなぁ。どんな話?」
リディア様とイルグスト殿下の関係がよく分からないけど、イルグスト殿下はリディア様をとても信頼している感じね。
「ユティナ様の遺品がこちらにまだ残っているようで、イルグスト様にお渡ししたいと思いまして」
ユティナ様とやらがイルグスト殿下のお母様ってことね。遺品ということは、すでに亡くなられている……。
「うーん、じゃあ少しだけ確認しようかな」
「はい!」
おぉ!? なんだかエルフィーネ様満面の笑み。ん? うん、うーん。
「じゃあ私たちは先に国に帰るわね」
「うん、気を付けて」
イルグスト殿下だけ残り、リディア様とシェスレイト殿下はお帰りになるのね。
リディア様とシェスレイト殿下はドラゴンに近付き、慣れた様子でドラゴンを撫でると、黒いドラゴンはリディア様に顔を寄せていた。
それを見ていたシェスレイト殿下は何やら嫌そうな顔だけど……、何なのかしら。
二人とも颯爽とドラゴンに跨ると、こちらを向き手を振った。
「では、いずれまたお会い出来ることを楽しみにしてますね」
「世話になった」
そう言うと二人はドラゴンに合図をし、二匹のドラゴンは翼を大きく広げその場で翼を羽ばたかせた。
激しい風が巻き起こり、エルフィーネ様や私は髪や服を押さえる。
そして少しドラゴンの身体が浮いたかと思うと、一気に遥か上空まで浮かび上がった。
「うわぁ、凄い……」
空を見上げるとすでに小さくしか見えない位置で、ホバリング状態で浮いている。そして挨拶をするようにその場で何度か旋回すると、そのまま飛んで行った。
はぁぁ、ドラゴン、かっこいい……、乗ってみたいなぁ。凄いわぁ。
初めて目の前で見たドラゴン。さらには騎乗した姿があまりにかっこよくて見惚れてしまい呆然とした。
「さて、で、母上の品というのは?」
余韻に浸っていたのにイルグスト殿下がすぐに話に戻る。どれだけ早く帰りたいんだ。
****************
※補足
作中出てきましたシェスレイトはコルナドア王国の第一王子、戴冠式を控えた25歳、
リディアはその妃23歳、
イルグストはダナンタス王国第三王子21歳で、過去にコルナドアに留学し、リディアたちと親しくなっています。
母親がルクナ現王の妹でアルティス、エルフィーネとは従兄弟にあたります。
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