第五十一話 王子様とお姫様だらけだった
研究所に到着するとすでに何だか見覚えのある人物が……。
「ラズ、そういえばアルティス殿下はラズのこと知ってるのよね?」
『あ、あぁ』
「そっか、それで昨日二人で何か話してたのね?」
『あぁ』
なるほど。アルティス殿下はラズの事情を知っているから、昨日ラズの相手をするフリをして何やら密談していたわけだ。
一瞬行くのを躊躇ったがどうしようもないし、とりあえず向かうことに。
「ヒナタ殿! おはようございます! ゆっくりとおやすみになられましたか?」
アルティス殿下……朝っぱらから元気ですね……。
「あ、おはようございます。ゆっくりは……」
出来たような出来なかったような……。ラズの話を夜中に聞いていたせいで若干まだ眠い。
チラッとラズを見るとその視線に気付いたのか、アルティス殿下もチラリとラズを見た。そして何やら微笑んでいる。どうしたのかしら、猫好き?
しかし微笑んでいたかと思ったら、ハッとした表情から今度はよく分からない微妙な顔に。
「今日は妹もいるのです」
『「えっ!!」』
ラズとハモってしまった。妹というと、あれよね……ラズが片想いしているという王女様……。
うわぁ、何だろう、何か会いたくない……。何でだか分からないけど会いたくないな……。
「あー、その、私はまた後で……」
そう言おうとしたとき研究所の扉が、とんでもなく可愛らしい声と共に開かれた。
「お兄様、何をなさっていらっしゃるのですか? リュウノスケ様がお待ちですよ?」
扉を開けひょこっと顔を覗かせた人物は、明らかに王女様だと分かるほどの美しい容姿。それに菫色の瞳。艶々の黒髪に色白でほのかにピンク色の頬と艶やかな唇。豪華でしかし上品なドレスを身に纏い、小柄で華奢な守ってあげたくなるようなお姫様。
この人がラズの……。あぁ、納得。こんな人が存在するのか、と思うほど可憐で美しい少女だった。
ラズがビクッとしたのが分かり、なぜだか私の心臓までもがギュッと絞め付けられたような感じがした。
「あら? どちらさま……、あ! もしかして日本の方ですか!?」
お姫様はこちらに近付いてきた。
「あ、は、はい」
「あぁ、はしたないところをお見せしました。エルフィーネと申します。そちらのアルティスの妹ですわ」
「エルフィーネ様……」
やっぱりこの人が……。
「あら、とても可愛らしい猫ちゃんですわね」
エルフィーネ様は腰を曲げ、ラズの顔を覗き込んだ。ラズは明らかに固まっている。頭を撫でられているが、エルフィーネ様がラズに気付いている様子はない。
そっか、エルフィーネ様は知らないんだもんね……。
「この猫ちゃんを見ているとラズを思い出しますわね」
『「「!!」」』
エルフィーネ様のその言葉に私もラズも、アルティス殿下までもがギクリとした。
「このスカイブルーの瞳、私たちの幼馴染のラズヒルガとそっくりなんです」
フフ、と可愛らしく微笑んだエルフィーネ様。くぅぅ、なんて可愛らしいの。そりゃ男ならみんな惚れるよね。女の私でも惚れちゃいそうですよ。はぁぁ。
「殿下にエルフィーネ様、今日はこんなところで遊んでいては駄目なのでは?」
研究所の扉が開き、リュウノスケさんが顔を出した。
なんだろう、何かある日なのかしら。
「あー、そうなんだけど、ここからすぐ近くだし、どうせリュウノスケ殿も行くでしょう?」
「まあそうですが」
「何かあるんですか?」
さっきから話が見えずリュウノスケさんに聞いてみた。
「昨日言っていた一緒に開発しているお姫様のことを覚えているか? そのお姫様が今日自国に帰られるそうだ」
「え、そうなんですか? お会いしてみたかったなぁ」
まあ他国のお姫様なんて気軽に会えるわけないだろうけど。
「ヒナタ殿も一緒に行きますか?」
「えっ」
アルティス殿下の提案に驚き、間抜けな返事しか出来なかった。そんな簡単に行って良いものなの!?
どうなのか分からずリュウノスケさんの顔を見ると、苦笑はしているが頷いていた。
「まあ気さくな方だし、大丈夫だとは思うが……どうする?」
「そうですよ、リディア様なら日本の方をとても大事になさっておられますし、せっかくですし一緒に参りましょう」
リディア様……、そのお姫様の名前かしらね。リュウノスケさんがそう言うなら大丈夫かな。エルフィーネ様も誘ってくれているし……。ラズはエルフィーネ様と一緒にいて大丈夫かしら。辛くなったりしてないかしら。
少し心配になったがラズの表情も分からない。とりあえず頷いてみた。
「では、ご一緒しても良いのなら……」
「えぇ! 一緒にお見送りに参りましょう!」
アルティス殿下が意気揚々と言い、お見送りする場所とやらに自ら案内をしてくれた。
アルティス殿下、エルフィーネ様、リュウノスケさん、そして私とラズ。四人と一匹でその場へ向かう。
アルティス殿下が言っていた通り、お見送りの場所とやらは研究所のすぐ近くだった。
少しだけ歩くと開けた場所があり、ちょっとした中庭のような、広場のような、木々もなく広い空間。
そしてそこで目にしたものは……
「!! ド、ドラゴン!?」
えっ!! 城内にドラゴン!? えっ!? 大丈夫なの!? 一人であわあわしているとリュウノスケさんが笑った。
「あのドラゴンは大丈夫だ」
「そ、そうなんですか? ま、魔獣ってやつじゃないんですか!?」
「あのドラゴンたちはリディア様の騎獣だから」
「騎獣?」
「あぁ、人が騎乗出来るように訓練された魔獣のことだ」
「へぇぇ」
ドラゴンに乗っちゃうの!? そんなこと出来るんだ!! 凄い!!
ん? そういえば氷の切り出し依頼の道中にドラゴンを見かけたな……、あのときのドラゴン。もしかして?
目の前には漆黒のドラゴンと深紅のドラゴン、それになんだろグリフィンってやつなのかな? 詳しくないから分からないけど、あのとき見かけた三体と一緒!! のような気がする!!
あれはこの魔獣たちだったんだ! そういえば誰か乗ってそうだったな。ラズも確かそれっぽいことを言ってたような。
そのリディア様とやらが乗ってたんだ……。
三体の魔獣たちは身震いをしたりなどはしているが、暴れるでもなく吼えるでもなく大人しくしている。三人の騎士らしき人たちが手綱を持ってはいるがそれすら必要がなさそうなくらい大人しい。
凄いもんだな、と感心していると、とても可愛らしく賑やかな声が聞こえて来た。
その声のほうへと目を向けると、浅葱色のとても綺麗な髪が目に入った。
乗馬服のような姿で、浅葱色の長い髪を一つに括り、とても美しい金色の瞳のお姫様。ドレスではないがお姫様だと一目で分かる。とても上品で美しい人だった。
そしてその人がお姫様だと分かる要因にもう一つ、側にいる方々がこれまた麗しい殿方ですね!
さすが美しい人の周りには美しい人が集まるのね! と思うくらい、とんでもなく美しい男性がそのお姫様に寄り添っていた。
太陽の光を浴びキラキラと輝く銀髪に瑠璃色の瞳。その男性も乗馬服のような服だが、気品が半端ない! これまた王子様でしょ! 絶対そう! 間違いない!!
とても穏やかな表情でお姫様を見詰める王子様!! 絵になるわぁ!! 美しい!! 写真で残したい!!
その反対側にはさらに王子様がいるわね。両手に花状態じゃないの、お姫様! その王子様は黒髪ね、この国の人? でもこの国の王子はアルティス殿下だけだって聞いたから違うか。
黒髪に金色の瞳でこれまたちょっと中性的な美しさですね!
いやぁ、なんだこれ、あそこだけ何か切り取られた絵みたいだわ。あまりに現実離れした光景についマジマジと見てしまった。
「あら、リュウノスケさん! お見送りに来てくださったんですね!」
わ、お姫様が駆け寄って来る!
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