第五十話 ラズはやっぱりお馬鹿だった
正座のままラズは王子や王女と幼馴染で、その王女を好きになり部屋に忍び込もうとして捕まり、その罰として猫にされた、と神妙な面持ちで話した。
それを聞いた私の第一声。
「はぁぁあ!? ばっかじゃないの!?」
「うぐっ」
いや、本当に! 馬鹿過ぎる!
「好きだから部屋に忍び込もうとした!? それで捕まった!? 馬鹿過ぎるでしょ!!」
「ご、ごもっともです……」
ラズは泣きそうな顔。いや、ちょっと泣いてるかしら。スカイブルーの瞳がウルウルしている。
ちょっとやめてよ、なんだかイケメンを苛めてる気分になるじゃないのよ!
「ゔゔん、な、なんでそんな馬鹿なこと……はぁぁ」
しかも愛されると呪いが解ける、ってどっかの絵本のお話じゃあるまいし。
しゅんとしたラズの頭には何だか猫耳がへにょんとなっているように見えるから不思議だ。人間の姿なのに。か、可愛いじゃないか……くそぅ。
「王女様が好きだったんだね……」
そう言葉にすると少しチクンと胸が痛んだ。ん? 何で胸が痛むのよ。
「いや、何というか好きなのかどうか確かめる前に猫になったから……」
そ、そうなんだ、ホッ。ん? 何よ「ホッ」って。さっきからなんかおかしいわよ、自分! どうしたってのよ!
「あ、あぁ、そっか、それで、その愛し愛される人ってのは見付かったの?」
「い、いや、その、あー、今はヒナタの面倒で手一杯だろ? そんな余裕ないな」
「私の面倒って何よ」
じろっとラズを睨むと、「しまった」といった顔であわあわし出した。その姿にプッと吹き出す。それを見たラズがホッとした表情になり、そして再び神妙な面持ちになった。
「ヒナタ」
「え、は、はい」
急に真面目な顔をされると緊張するじゃない。
「今まで黙ってて悪かった。本当にすまない」
ラズは正座のまま頭を下げた。
「うーん、確かに正体は人間です、ってかなりの衝撃だった。それはやっぱり早く言って欲しかった」
「うん」
「でもあのとき言ったように、私はラズがいてくれたおかげで、この世界でも楽しく過ごせたんだし、いないと寂しい。ラズがいてくれて良かったと本当に思ってる。ま、まあ抱き締めたり、裸……、いや! まあ! その辺りの話はね! もう終わったことだし、仕方ないから許す!」
「ヒナタ……」
「それで、これからはどうするの? その愛し愛される相手とやらを探さないといけないんでしょ? 私の側にいたら探せないんじゃ……」
でもラズがいなくなるのは寂しい……。ラズを心配しながら、まだ私の側にいてくれないかと下心があるのが情けない。
「あー、いや、今はまだ良いよ」
「人間に戻れなくても?」
「あぁ、特に不便もないしな。ヒナタにももうバレちゃったんだし、隠す必要もないしな」
「そっか……」
あからさまにホッとしていまい、それを見たラズがフッと笑った。
「心配かけてごめん。俺は大丈夫だからヒナタの側にいる」
きゃあぁぁ、な、何よそのイケメンな台詞!! しかもその笑顔!! ヤバい!! タイプ過ぎてヤバいぃ!!
うぐぐっ、これはヤバいやつでは……、だ、駄目よ、そう、駄目……、無心よ無心……、チーン……。
冷静になろうとして何やら変な顔になったらしく、ラズに爆笑された。うぅ、悔しい……。
「もう! 笑わないでよ!」
「ハハ、すまん」
良かった、これでこれからも今まで通り…………、じゃなかった!!
すっかり目が冴えてしまったけれど、とりあえず寝るか、となりギシッと固まった。
ベッドには煌々と月明かりが差し込んでいる。
こ、これどうやって寝るのよ。
「あ、あー、俺は床で寝るよ。猫だし」
うぐっ、今は人間じゃないのよ……、そう言ってくれるのは有難いんだけど、さすがに床に寝かせるのは……。う、うう……。
「う、あ、あぁ!!」
何か変な気合いを入れてしまった。ラズがビクッとする。
「良いよ!! ベッドで寝なよ! めちゃ広いし! 今まで猫の姿で一緒に寝てたんだし!」
「え、でも、いや、今、人間……」
あんた、自分が「猫だし」って言ったんじゃない……。
「ストップ!! 余計なこと言わない!! 余計なこと考える前に寝る!! はい!!」
明らかにぎこちない仕草にラズが苦笑した。
「はいはい」
ラズはベッドに潜り込み手招きする。
「ほら、来いよ」
ひぃぃ、なんか! ちょっと! そういうのやめてー!!
躊躇するともう動けない気がしたので、勢いのままベッドに潜り込んだ。
うぅ、なんでこんな緊張しないといけないのよ!!
プッ、とラズが笑った気がしたが、そちらを向くと眠れなくなりそうなので、そのままラズに背を向けたまま眠ることにした。
「おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
背中にラズの体温を感じながら、ラズはこちらを向いているのか、向こうを向いているのか、ラズが身動ぎするたびにビクッとしてしまう。
ね、眠れない……。
そう思っていたが、緊張し過ぎて意識がプッツンしちゃったようで、朝までグッスリだった。
いつの間にやら背を向けていたはずの、ラズが寝ている方を向いて目が覚めた。
そこにはスヤスヤ丸くなって眠るラズ(猫バージョン)の姿が。
すっかり猫に戻ってる……あれは夢だったんじゃないかと思うくらい、普通に猫だね。
昨晩の出来事が夢ではないのよね、と確かめるように、ラズの身体をさわさわ。肉球もぷにぷに。
はぁぁあ、癒される…………、じゃなくて!
本当に人間だったよね? しかもかなりのイケメン…………、いや、いやいや、そ、それはね、別に関係ないけどね!
『うぅん、ヒナタ?』
さわさわし過ぎたのか、ラズが目を覚ました。
「お、おはよう」
『ん、はよ』
まだ寝惚けたままのラズ。くぅぅ、か、可愛い……。
可愛さを堪能していると、寝惚けたままラズはまたおもむろに鼻先をペロッと舐めた。
そこから何のスイッチが入ったのか、またしてもあちこちペロペロペロペロ……。
「うぉぉい!! やめーい!!」
今までも大概恥ずかしかったが、人間だと知るとなおさら恥ずかしいわ!
ビクッとしたラズが飛び起きた。
『え? は? な、何だ!?』
飛び起きたラズは辺りをキョロキョロ。
完全に寝惚けてたせいで無意識だな、これは。無意識で舐め回すって……
「この、変態!」
『は!? な、何だよ! 変態って!』
「変態だから変態って言ってたのよ! ラズの馬鹿!!」
『な、何なんだよ!!』
ツーン、としながら、ささっと起きたところで、二アナが朝の準備に来てくれた。
背後ではラズが『なんだよ……』と泣きそうな声が聞こえ笑いそうになったが、そこはあえて無視を。
朝食を終え、二アナには再び研究所へ向かうことだけ伝えると、今日は一人で行かせてもらえることになった。
人間と知ってしまった手前、ラズを抱っこするのに躊躇したが、やはりもふもふには勝てなかった。
がっつり抱っこするとラズのほうがたじろいだ。
『お、お前、その、良いのか?』
「何が?」
『いや、その、俺を抱くのは……』
「!! 変な言い方するな!!」
『ぐえっ』
あまりに小っ恥ずかしい言い回しをされ、ラズを思い切り締め上げた。ラズからは変な声が漏れた。
「もふもふはやっぱりやめられません」
『そ、そうか……』
「そういえばラズっていつも早起きの割に、今日は私より遅かったよね」
『そ! それは! お前が!! …………』
「ん? 何?」
『…………、何でもない』
「何よ?」
『何でもないって言ってるだろ!』
もう! 何なのよ! いつもこうなったら何も言わなくなっちゃうんだから。
頑なに言おうとしないラズは諦めて、再び研究所へ! 若干迷いそうになったが何とか到着!
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