第四十六話 ラズとアルティス

 ラズはアルティスの頭をガッチリとホールド。


「あ、アハハ、良いですよ、僕がしばらくこの猫ちゃんと遊んでますから、ヒナタ殿はリュウノスケ殿とたくさんお話してください」

「え、あ、はぁ」


 ヒナタとリュウノスケが離れて行くのを確認し、アルティスはラズを自分の頭から離した。


「ラズ、ラズだよね?」


 脇を持たれぷらーんとなったままのラズはぶすっとした表情でアルティスを睨んだ。


「何やってんのさ!」


 と、口にしたが周りにまだ他の人間がいることに気付き、そっと研究所の隅のほうへと移動する。そして小声で再び聞いた。


「ラズ、今までどうしてたの? もう見付かった……って、あ!!」


 思わず大声を上げてしまったアルティスは慌てて黙った。そして再び小声。


「ねぇ! その色!! 見付けたのかい!?」


 アルティスが首輪を指差し嬉々として聞く。首輪には赤い石が付いている。元々は金色だったが赤く色が変わった石。ラズは溜め息を吐きながらようやく口を開いた。


『違う』

「え? 違うってどういうこと? その色は……そうだよね?」

『そうなんだけど、違うんだよ』


 ラズは溜め息を吐きながら、今まであったこと、この城を出てからのこと、ヒナタに出会い、行動を共にしていたことを全て話した。


「え、えっと……、ちょっと待って、それって……、うん、でもさ、えーっ!?」


 アルティスは混乱していた。


「ど、どうするのさ、ラズ」


『…………、どうするも何も、ない』


「え! だってそれじゃ人間に戻れないじゃないか!」


『…………』


「ねぇ! どうするのさ! このまま猫でいる気かい!?」


『仕方ないだろ!! こうなっちまったんだから!! もうどうでも良いんだよ!! 猫のままで一生過ごすよ!!』


「えぇ……ラズ、諦めるのはよくないよ……、望みはないのかい?」


『ないよ。だって俺は……俺は……』


 ラズはチラリとヒナタを見た。ヒナタはリュウノスケと楽しそうに話している。


『…………ヒナタを巻き込む訳にはいかないし…………』


「ラズ……」


 ラズがそう呟くとハッとした顔になり、何事かとアルティスはラズの視線の先を見た。

 そこにはヒナタとリュウノスケ。楽しそうに談笑していたかと思うと、リュウノスケがヒナタに少し近付いた。


 ラズに振り向くとすでにラズは走り出そうとしている。


「ラズ!」


 アルティスは慌ててラズを掴み抱き上げる。


『離せ!!』

「落ち着け! どうしたんだよ!!」

『ヒナタが!!』

「?」


 アルティスは不思議そうにヒナタとラズを交互に見た。

 ヒナタとリュウノスケの距離が近付くたびにラズが腕から飛び出そうとする。その様子にアルティスはフフッと笑うのだった。


『なんだよ!!』


 アルティスが笑ったことに対し苛立ちを感じたのか、ラズは怒りをあらわにする。


「ラズさぁ……」

『だからなんだよ!!』

「…………、まあ良いか」


 クスッと笑いながらアルティスはヒナタたちのほうへ歩を進める。ラズはそんなアルティスの態度が気に入らず不貞腐れているが……。


 話の内容が聞こえそうな距離まで近付くと、リュウノスケがおもむろにヒナタに耳打ちをした。


『!!』


 ラズがリュウノスケに飛び掛かろうとグッと力を込めたことに気付いたアルティスが、グッと抑え込む。さすがにヒナタではない男の力に抑え込まれると身動き出来ないラズは、アルティスに抱かれたままヒナタたちの側に行ったのだった。






「たくさんお話は出来ましたか?」


 ラズを抱っこしたまま現れたアルティス殿下。


「はい」

「そうですか! では次は僕の番ですね!」

「はい?」


 嬉々とした表情でアルティス殿下が近付く。少したじろぎながらチラリとリュウノスケさんを見ると苦笑していた。うーん、やたらテンションが高いのは日本人が好きなのかしら。興味津々な感じなのね。だからあまりのテンションに皆が苦笑しているのか。なるほど。


 先程からの周りの反応を見て、この王子様の日本人に対する執着が凄いことが何となく分かった。


「あぁ、猫ちゃんをお返ししますね」


 そう言うとアルティス殿下はラズを私に渡す。ラズをチラリと見るとぶすっとしたまま……リュウノスケさんを睨んでる?


 殿下と何をしていたのか気になったが、アルティス殿下からの質問攻めがこの後続いたため、そのときラズには何も聞けなかった。


 ひたすらアルティス殿下に質問され続けぐったりとし、徐々に周りの人たちも遠巻きに見るように離れて行き、リュウノスケさんすら仕事に戻り、私は一体どうしたら良いの!? と心の中でひぃぃとなっていると、ニアナが助け船を出してくれた。


「あ、あの殿下……、そろそろもう夜に……」


 恐る恐る口を挟んでくれたニアナ。気安く話せる相手じゃないって言ってたのにごめんね! ありがとう! めちゃくちゃ助かる!! この王子様いつまで経っても解放してくれないんだもの!


「あぁ、これは失礼しました。もうそんな時間なのですね。まだまだお話したいことはたくさんありますが、今日はこの辺で」


 まだあるのか!! とうんざりしたが、とりあえず解放されたのでホッと一息。

 この後部屋まで送ると言われたが、丁重にお断りした。これ以上話すのは辛い!! 殿下は少し残念そうな顔をしたが、ここは罪悪感を無視して一人で帰らせていただきます!


「ではまた明日研究所に来られますか!?」

「え、あー、そうですね。他の場所も見学させてもらうかもしれませんが、一度こちらにもお邪魔します」


 リュウノスケさんの話も気になるしね。


「分かりました! では私も明日こちらに参ります!」

「あ、は、はい……」


 こ、来られなくても結構ですが……、と、ちょっと失礼なことを考えてしまう。



 そうやってようやく解放された私はリュウノスケさんたちにも挨拶をし、ぐったりしながら部屋へと帰った。


「お疲れ様でした、夕食を準備致しますね」


 ニアナが苦笑しながら夕食の準備をしてくれる。

 今晩の夕食もフルコース! 豪華な食事が少しだけ疲れを癒してくれた。


 かなりのぐったり感だったため、ニアナは「早めにお休みください」と早々に片付けてくれ部屋から出て行った。


 お風呂に入り、今日一日を思い出すと、謁見して王様に会い、研究所に行き王子様と会い質問攻め、そら疲れるわ! と内心突っ込んだ。

 お風呂で寝てしまいそうな危険を感じ慌てて出る。


「そういえば今日アルティス殿下と何してたの?」


 そういえば聞いていなかったことを思い出し、ラズに聞いた。しかしラズは案の定というか何というか、しどろもどろではっきりしない。


『い、いや、特になにも……』

「ふーん?」


 怪しい……。

 明らかに殿下はラズを知ってそうな雰囲気だった。


「もしかしてラズってアルティス殿下の飼い猫だったの?」

『はぁ!? 飼い猫!? そんなんじゃ!!』


 そこまで言って止まった。何か口を滑らすかと思ったけど、騙されないか。


『疲れたんだろ! 寝るぞ!』

「…………、はいはい」


 もうこれはあれだ、頑なに何も言わないやつだな。仕方ないから諦めるか……。

 疲れたのは本当だしね、無駄にラズと言い争うのも疲れるし。


 そしてベッドに潜り込むとすっかりと晴れた夜空が窓から見え、星がとても綺麗に輝き、ホッと癒されながら眠りに付いたのだった。

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