第四十七話 ラズの正体!?

 静まり返る部屋の中、気持ちの良い温かさを感じすり寄る。


 あぁ、あったかい。気持ち良いわぁ。ラズが側に来てくれたのかしら〜、とか寝惚けた頭でぼんやり考えながらスリスリと。


 気持ち良い気分のまま、再び深い眠りに落ちそうになったとき、何かが背中をグッと抑えた。


 ?? なんだろうか、背中に何かあったっけ? と不思議に思い、身じろぎしようとすると、さらにグググッと。


 温かいものに顔を埋める感じになり、少し息苦しい。なに? ラズにしてはでっかいような……。


 重たい目を必死に開けつつ、目の前にあるであろう温かいものをさわさわ。


「ん」


 あちこちさわさわしていると、ラズらしき声が聞こえた。なんだ、やっぱりラズか。でもなんかやたらでっかいような……、しかももふもふがない……。


「んん!?」


 必死に目を開けると、目の前にはでっかい黒い塊が……。


「!?」


 寝惚け眼で頭が働かない。


「え?」


 ようやく寝惚けた目が開くと、おでこにキスされるのではという距離で見知らぬ男がいた! その男になぜか抱き締められ、同じベッドで寝ている!!



「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」



 叫んだ! そりゃ叫ぶよね! いや、逆に声が出て良かった! いきなり見知らぬ男!! 頭の中に氷の切り出しへ行ったときのことがよぎる。


「な、何だ!! どうした!?」


 男は飛び起き、辺りをキョロキョロと見回す。


 ひぃぃぃい!! 誰か!! ラズは!? ラズはどこ!?


 咄嗟に枕を引っ張り殴る! しかし枕なんか何の役にも立たない! それは分かる! でも今手元になにもないのよ!

 ひたすら殴り続けるしかない!


 枕をひたすら振り回し殴り続けているおかげか、男はプチパニック中のようだ。


「な、なんだよ! なんで殴るんだ! いや! ちょっと話を聞け!」


 腕を上げ頭を庇う男が必死になにかを言っているが、こっちはそれどころではない!


 そのとき扉をノックする音が聞こえた。外から男性の声がした。


「ヒナタ殿、どうかされました? 大丈夫ですか?」


 おそらく悲鳴を聞き付け駆け付けてくれたのだろう、騎士らしき人の声がした。


 咄嗟にベッドから飛び降り、扉へ走ろうとした瞬間、男に腕を掴まれた。


 やだ! やだ! やだ! 怖い! なんなのよ!


 腕を掴まれ、後ろに引っ張られる。男が目の前に。頭から血の気が引くとはこのことか。

 おそらく真っ青な顔なんだろうな、とか考えてしまう。


 男はハッとした表情になり、自分の掌を見詰め、そして窓に振り返った。

 窓から月明かりが差し込み、部屋の半分ほどを明るく照らしている。


 男はガックリと項垂れたかと思うと顔を上げ、腕を掴んだままじっと見詰めて来た。


「ラズだ」


「は?」


「俺はラズだよ」


「…………」


 言っている意味が全く分からない。


 ラズ? なんでラズ? そういえばラズは?


 辺りをキョロキョロと見回してもラズの姿はない。


「だから俺がラズなんだよ」


 そう言うと男は腕を掴んだまま部屋の奥、月明かりのないところに移動した。


 するとゆるゆると男の姿が…………


「ラズ!! な! なに!? どういうこと!?」


『今まで黙っててすまん』


 ラズは項垂れた。


「ヒナタ殿? 大丈夫ですか!?」


 扉の外にはいまだに騎士が。

 慌てて小さく扉を開け、顔だけを出す。


「あ、すいません! 大丈夫です! 怖い夢でも見たようで、アハハ……」

「そうでしたか、何事もなかったのなら良かったです。ではおやすみなさい」

「はい、わざわざすいません、お騒がせしました。おやすみなさい」


 そう言葉を交わすとそっと扉を閉め、後ろに振り向く。

 そこにはちょこんとお座りしたラズが。


「ど、どういうことよ!! さっきの男は!?」

『だから俺なんだよ』


 ラズはそう言うと再び月明かりが差し込み明るくなった場所まで移動した。

 すると再びゆるゆるとラズは人間の男に……。


「はぁ!? 意味分からない!! 何よそれ!!」


 ラズに詰め寄り、身体を、顔をペタペタと触り確かめる。本当に人間の男だ…………、いやいや、何よそれ、人間臭いラズだから、もしかして、とか考えたことはあったけど、まさか本当にそんなラノベ的なことあるなんて思わないじゃない!


 呆然としていると、顔を触っていた手をラズに掴まれ、真正面からじっと見詰められた。


 ラズは私よりも頭一つ分ほど背が高くスラッとしている。綺麗な黒髪にいつもの綺麗なスカイブルーの瞳。

 そして…………、何か腹立つ!


 ラズのくせに! ラズのくせにイケメンじゃないのよぉぉぉぉ!!


 しかも何て言うか…………めちゃタイプ…………今まで見た異世界イケメンの中で一番のタイプ……。

 くそぅ!! な、何か悔しいぃ!! 何か腹立つ!!


 手を掴まれ見詰められるとドキドキしてしまう! ラズのくせに!


 そしてふとあることに気付いた。


「ラズって元々猫なの? 人間なの?」


「え、あ、あの……人間、です……」


「!!」


 人間!! 元々は人間!! てことは、意識は人間!! いや、何回「人間」て連呼してんのよ、と思うけど、それ重要でしょ!!


 元々人間てことは心は人間、元々猫が人間になるのとは訳が違う!!

 何が違うって!? そりゃあんた!! だって!! 心は人間の男を、猫とはいえ抱き締めたり、スリスリしたり、はたまた裸を見られたり!! そういえばお風呂!!


 カッと顔が熱くなった。


 し、しかも最近はやたら舐められ…………、チラリとラズの顔を見ると、どうしよう、みたいなオドオドした顔。


 くそぅ、タイプのイケメン顔でそんな顔されたら可愛いとしか思えないじゃないのよ!!


「あ、す、すまん、あの、その……、そう! 裸見たりはワザとじゃない!!」


 手を掴んだまま、オドオドと目が泳いでいたラズはバッとこちらを見たかと思うと、顔をグイッと近付け言わなくても良いことを声高らかに弁明した。


「それは言わんで良いわぁぁぁぁぁ!!」


「ぐふっ……」


 思い切り見事なボディブローが決まった…………あ、しまった。


 あまりの恥ずかしさに思わず手が……。


 ラズは私の手を離し、腹を押さえうずくまった。

 ハ、ハハ……


「ご、ごめん、つい」


 悶るラズの顔を覗き込んだ。

 綺麗なスカイブルーの瞳が潤んでいる。めちゃ決まったみたいね……本当にゴメンナサイ……。


 ま、まあでも余計なことは思い出させないで欲しい。忘れたい……恥ずかし過ぎる。


 ん? ちょっと待てよ……見たりはワザとじゃない……ということは、最近ペロペロペロペロ舐めて来てたのは……。


「ラズ」


 めちゃくちゃ低い声が出た。


「は、はい」


「最近やたら舐めて来てたのは一体どういうつもりだい?」


 何やら怒りやら恥ずかしさやらが混ざり合い、何だか変な口調になった。


「あ、あー、えっと、それは、えー、特に意味はないというか、無意識というか、したかっ……いや! いやいや! あ! えーっと……」


 物凄いしどろもどろで言い訳を繰り広げるラズ。

 メラメラと怒りの炎が上がります。


「ふざけんな!! このー!! 何が無意識よ!! 散々あちこちペロペロペロペロ舐め回したくせに!!」


 叫びながら再びボディブローをかまそうとすると、両手を抑えつけられジタバタと格闘するが、自分で叫んだ言葉に猛烈に恥ずかしくなりプシューッと力が抜けてしまった。


 ぜぃぜぃ肩で息をしながら、チラッとラズを見るとラズまで真っ赤になっていた。

 おい! 自分がやっていたくせに今さら恥ずかしがるとかありえないし! しかも照れてる顔が可愛いとか思っちゃう自分に腹が立つ!! きぃー!!


 ぜぃぜぃ言っている呼吸を整え、冷静に……冷静に……、深く深呼吸。


「と、とりあえずどういうことか説明してくれませんかね?」


「…………は、はい」


 ベッドに腰掛け腕を組み、脚を組む。


 ラズはベッドの前で正座をした。

 な、何か女王様みたいね……。


 ラズは正座した膝に両手を起き、なぜ猫の姿になるはめになったかを話し出した。

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