第三十一話 異世界で初めて感じた恐怖だった
皆が寝静まる中、ゆっくりと部屋の扉が開く。ラズは耳がピクッと動くが、丸まったままだ。
窓から漏れる月明かりだけを頼りに、部屋に入って来たのは男二人。音を立てずにそっと部屋の中を伺うと、部屋の一番奥の二段ベッドの上段に眠るヒナタを目にした。
二人の男はそっと近付き、二段ベッドの梯子に手を掛ける。
ギシッとした音にラズはビクッと顔を上げて驚愕した。何の音かと確認すると、ベッドの真下に見知らぬ男が二人、ここに登って来ようとしているではないか。
『ヒナタ! ヒナタ! 起きろ!!』
ラズはヒナタを揺さぶり必死に声を掛けるが、ヒナタの目は開かない。
男の一人がベッドのフレームに手を掛けた。
『!!』
ラズは思い切り男に向かって飛び掛かる。
『ヴヴー!! ニャー!!』
「うわ! なんだ、こいつ!!」
男の顔面に飛び掛かり、勢い良く引っ掻く。
「いって!! なにしやがる!!」
男に思い切り振り落とされ、ベッドの下に落とされた。
まずい!! ヒナタ!!
『ニャー!! ニャー!!』
「うるさいな! 黙れ!!」
下にいたもう一人の男に思い切り蹴り飛ばされ、ラズは隣のベッドに叩きつけられた。
駄目だ! ヒナタ!! 俺じゃ助けられない!! どうしたら…………
悔しい気持ちのまま、どうしたら良いか分からず動けないままでいると、そこにジークの顔が目に入った。隣のベッドで眠るジーク。
くそっ……
ラズは眠るジークの上に飛び乗り、顔を叩いた。
『起きろ!! 起きろ!! 起きてくれ!!』
何度もビシビシと叩き、ジークが眉間に皺を寄せながら目を開ける。
「なんだぁ……?」
寝惚けながらジークは手で目をこする。目を開けると目の前にはラズが。
「ん? ラズ? なんだ? どうした? ヒナタのところで寝てたんじゃないのか?」
『ニャー!! ニャー!!』
ラズは必死にヒナタを前脚で差す。
ジークはラズの差す方向を見ると目を見開いた。
男が二人、ヒナタのベッドに乗り上がろうとしているではないか。しかも一人はすでにベッドの上に乗り上げている。
「!! ヒナタ!!」
何だかラズの声が聞こえたような気がするけど、何だろう。
ぼんやりとするまま、夢か現実なのか分からず薄っすらと目を開けた。そのとき黒い影が目の前に見え、ゾッとする。
え、何!?
寝惚けていた目を必死に開くと、見知らぬ男が目の前に馬乗りで自分の上にいるではないか。
「ひっ」
恐怖で小さく声が上がりそうになると、男に口を手で塞がれた。なんだこれは。どういうことなの!? 何が起こったの!?
「へへ、あんた子供かと思ってたら二十二なんだろ? ジークと話してるの聞いたぞ」
「!?」
だったら何なのよ!! と言えるはずもなく、恐怖で身体は動かない。声も出せない。どうしたら良いのか。泣いてしまいそうだった。
「んー!!」
口を塞がれたままでは助けも呼べない。ラズも近くにいない。どこに行っちゃったの!?
誰か!! じわっと涙が浮かんで来てしまう。駄目だ、泣いちゃ駄目。
「!! ヒナタ!!」
そう叫ぶ声が聞こえると、ベッドの下から「ドターン!!」という音と共に、目の前の男が勢い良く横に引っ張られ消えた。そして再び「ドーン!!」という音と共に声が聞こえる。
「お前ら!!」
ジークだ。ジークの声がする。その後、ドタバタと激しい物音が聞こえ、クラハさんの声も聞こえた。
「お前ら何をした!!」
騒ぎを聞き付け、ランブルさんも扉を勢い良く開け、飛び込んでくる。
周りもざわざわとしだした。
私はというと、耳でそれらの音を聞いていたが、下を見る勇気がなく、固まったまま動けないでいた。
動悸が激しく耳にうるさい。
下ではランブルさんが怒鳴っていた。そしてベッドの階段がギシッと音を立てると恐怖で身体を縮めた。
怖い……、怖い……、誰なの?
ベッドの端に縮こまり怯える。
「ヒナタ……大丈夫か?」
そっと頭に手が触れビクッとした。そっと優しく撫でられ、先程の男たちではないことを理解する。
そっと振り向き姿を確認すると、心配そうなジークの姿だった。
「……ジーク……」
ジークは私の顔を見ると、少し安心したのか、ホッと息を吐き微笑んだ。
「大丈夫か? 何もされてないか? 怪我は?」
心底心配してくれているのが分かり、一気に安心感からか涙が溢れた。
「だ、大丈夫……口を押さえ付けられただけ……」
声を殺し、布団に顔を隠し泣いた。情けない。何もされてないじゃない。ジークが助けてくれたじゃない。自分からこんな男だらけの場所に来たんじゃない。自分の責任よ。泣くなんて卑怯だわ。
そう思っても、中々涙を止めることが出来なかった。
ジークは何も言わず、そっと頭を撫で続けてくれていた。
その優しい手に安心し、徐々に涙も止まり始めた。
そっと顔を上げると、ジークがまだ頭を撫でたまま、私の視線に気付き微笑んだ。
「落ち着いたか?」
「……うん、ごめん、ありがとう」
落ち着くと急に恥ずかしくなってきた。きっと泣き腫らした顔はとんでもないことになってるんじゃ! やだ! 恥ずかしい!
「そ、そういえばラズは?」
話を逸らすようにラズを探した。
ラズはどうしたのかしら。声が全く聞こえない。側で寝ていたのに、いないということは、あの男たちに何かされたのでは!? ラズは無事!?
心配そうにしていたのが分かったのか、ジークは下を指差し言った。
「ラズは大丈夫だよ。ヒナタを守ろうとしたんだろうな、少し怪我はしてたけど、俺を必死に起こしに来たよ」
もそもそとベッドのフレームに手をやり下を覗くと、先程の男たちがいてギクリとしたが、隅のほうにラズもいた。全く声も上げず、ただじっと男たちを睨んでいるだけだ。
「ラズ!」
ラズは私の声に気付き見上げた。そして、泣き出しそうな、辛そうな、そんな顔になった。
あぁ、ラズにも物凄く心配をかけたんだな。申し訳ない。あんな悲しそうな顔、初めて見た。
ラズはのそのそと器用にベッドの上に上がってくると、ちょこんと私の前にお座りした。
悲しそうな顔のまま。
「ラズ…………、心配かけてごめんね? 守ろうとしてくれたんだよね? ありがとう」
ラズをそっと抱き上げ、抱き締めた。しかしラズは一言も何も言わない。ジークがいるからかもしれないが、それでも全く口を開こうともしなかった。
「ヒナタ、ちょっと良いか?」
ランブルさんがベッドの下から声を掛けてきた。
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