第二十三話 酔っ払ってしまった
野菜は見たこともない野菜もたくさんあるが、日本でも見かけるような似たような野菜もたくさんあった。味は分からないけど。
どの野菜がどんな料理に合うかが全く分からなかったため、店に人に相談しながら買って行く。
肉も同様だ。スーパーと違い、肉の塊! デカい! 何の肉だ、これ。
え、いや、これ日持ちしないじゃん! うーん、どうしようかと悩んでいると、肉を少し切り分け、バーナンダーという大きな葉で包み、涼しい場所に保管しておけば、二日~三日は大丈夫ということだった。後は燻製にするか、らしい。
とりあえず燻製にする技能は持っていないため、すでに燻製されたものを買って行った。そのままでも食べられるし、料理に使っても美味しいらしい。万能燻製!
牛乳はそのまま飲めないんじゃ手間だし、仕方がないので飲み物として飲料水代わりに飲まれているらしい、コニッツという果汁を買って行く。
卵は……、うん、びっくりしたね。まず店にそのまま鳥がいた。にわとりとは少し見た目が違うが、大きさは似たようなものかな。どちらかと言えば鳩みたい……、でっかい鳩……、奇妙だわ。
店の奥に鶏舎があり、そこから毎日新鮮な卵が並べられるそうなのだが……、その卵……、殻が緑……。いや、深緑? いやいや、それはどっちでも良いわ! 緑の卵かぁ……凄い見た目。う、うん。まあ、きっと中身は普通のはず……多分。卵で当たるとえらいことになりそうだから、控え目に購入。
一先ず必要そうなものと明日の朝食としてパンを購入し、部屋へと帰った。
買ってきたものをひとしきり整理し、引っ越した荷物も出来る限り片付けていく。やはり元から荷物もさほど多くなかったため、何とか今日中に片付いた。
「あぁ、疲れたー!!」
一日引っ越しと片付けと買い物とでぐったり。早々にお風呂に入りホッと一息。そしてコニッツと一緒に購入してきたラビニータという飲み物を飲む。
店の人の話では赤い果実から作られた甘酸っぱいジュース。
「うん、美味しい! 美味しいけど、やっぱり冷やしたいわね」
そう思うと苦笑したが、まあ仕方ない。
『お前、酒飲めるのか?』
「は?」
『え?』
ラズは向かいの椅子に座ったまま聞いて来たが……、ん? 酒?
「え? これ? お酒なの? ジュースって聞いたんだけど」
『酒だ。まあそんなに強い酒じゃないがな。弱い酒だから男はあまり飲まないから、きっとジュースみたいなもんだ、って意味で言われたんじゃないか?』
「そんないい加減な……」
ま、まあ別にお酒飲んじゃ駄目な歳でもないし、飲めない訳じゃないし、大丈夫でしょ……。あんまり飲んだことないけど……。
『お、おい、大丈夫か?』
「ん? 大丈夫、大丈夫!」
疲れていたことと、お風呂上りだったことで、まあ喉が渇くよね。そしたら飲んじゃうよね。最初は気を付けて飲んでいたけれど、自分で酔っている感覚もないし大丈夫かな、と思っていたら結構飲んでいたようで、大きなボトルに入っていたラビニータをもう半分ほどは飲んでいたようだ。
ラズが心配しているのかオロオロとしながら、招き猫のように前脚で空を掻いている。
「ブフッ、ラズ、招き猫みたーい!!」
『は? マネキネコってなんだ?』
「猫がね~、お客さんを招くの~」
招き猫の仕草をして見せた。ラズは意味が分からなかったらしく、首を傾げた。その仕草が可愛くてラズを抱き上げる。
「はぁあ、ラズって可愛くないけど可愛いわよねぇ」
『なんだそれ! 離せ!!』
むぎゅーっとラズを抱き締めたま、スリスリスリスリ。気持ち良いわぁ。
『早く寝ろ! 明日は何でも屋だろ!?』
「あー、うん、そうだねー」
そうそう、明日はお休みじゃないから早く寝ないとね。ラズを抱きつぶしたまま、そのままベッドへと潜り込む。
「新しい布団が気持ち良いぃ……」
疲れていたこととラビニータのせいであっという間に眠りについたのだった。
ラズはヒナタに抱き締められたまま、ベッドの中で溜め息を吐いた。身をよじるも中々出てこれない。それどころか……。
『む、胸が……こ、こいつ下着付けずか!!』
部屋着という薄着の上にさらにはノー下着! 普段と違う柔らかさにドギマギとラズは身悶えた。
さすがにこれはいかん、とばかりにラズは必死にもがく。
『んぎぎぎ、ぐはー!!』
ぜーぜー言いながら、何とかヒナタの腕から脱出し、げっそりと溜め息を吐く。
普段のヒナタはさすがに部屋着のときには抱き締めたりはしない。寝るときも抱き締めながら寝たりはしない。明らかに今夜は酔っていた。ゲラゲラと笑いながら、やたらと陽気になっていた。
『酔うと笑い上戸のやつか……はぁぁ、つ、疲れた』
無理矢理抜け出たせいで少し乱れていたヒナタの胸元にドキリとし、苛立つようにラズはヒナタの頬をぐにぐにと押した。
『お、ま、え、は!!』
ぐにぐにと押しているが、ヒナタは全く身動ぎもせず眠っている。
ヒナタが悪い訳ではないことはよく分かっていた。しかし苛立ちを抑えきれずに最終的にはヒナタがかぶっている布団にビシビシと猫パンチ。
『この! この! ヒナタの馬鹿や、ろ…………いや、うん……』
ラズは猫パンチをしていた前脚をそろっと下ろし、項垂れ溜め息を吐いた。
『あー、いつまでこんな生活…………、まあ、俺が悪いんだが……』
がっくりとしたラズは出窓に乗り、中央広場を眺めた。もうすっかり人気もなく、静まり返った広場の向こうには遠目に暗闇の中浮かび上がるルクナ城が薄っすらと見えたのだった。
『はぁぁ』
ラズは深い溜め息を吐いた。
『起きろ!! 何でも屋だろ!!』
「うう……」
疲れが残っているのか、それともラビニータのせいなのか、身体が重くて起きるのが辛い……。
『起きろ!!』
ラズがビシビシ猫パンチで人の頭を叩いている。爪に髪の毛が引っかかってボサボサ、おい。
「あー、ありがと! もう起きたから! 頭ボサボサじゃないのよ!」
むくりと起き上がるとぼわんと広がった髪の毛を何とか手櫛で押さえる。
『ブフッ、スゲー頭』
ラズが人の頭を笑っている。カッチーン!
「誰のせいよ、だ、れ、の!?」
ラズを羽交い絞めにし締め上げた。
『だから! お前は! その格好でしがみつくな!!』
「は?」
何のことだ、と考えるより先にラズがさらに言った。
『遅刻するぞ!!』
「あ!!」
慌ててラズを離し身支度を整える。ラズは何だかホッとしたような溜め息を吐いていた。何なのよ。
ドタバタと身支度を整え、朝食のパンを食べると急いで何でも屋に向かった。
何でも屋に到着するとすでにクラハさんは色々と支度をしているところだった。
「おはようございます!」
「あぁ、ヒナタ、おはよう。昨日は引っ越し大丈夫だった?」
「えぇ、何とか昨日一日で全て終わりました」
「それは良かった」
ニコニコとクラハさんは今日の説明をしてくれた。
どうやら私がいたことでそれなりに評判が良かったらしい。依頼がたくさん入ったようだ。
昨日もとても忙しかったようで、私のことを色々聞かれ、今日はいないと伝えるとがっかりされたらしい。
「昨日は毎回聞かれて大変だったよ」
クラハさんは笑いながら言った。有難いような、クラハさんに迷惑をかけて申し訳ないような、複雑な気分……。
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