第二十二話 夜の噴水は美しかった
再び荷車を引きながら歩き回るのも恥ずかしいので、とりあえずは役所に先に返却へ。
無事返却を終えると商業区へ向かう。
「とりあえずベッドと、テーブル、椅子は絶対いるよね。後はなんだろう」
運んで来た荷物を思い出しながら必要なものを色々思い描く。
まずは大型のものを先に、と家具屋で一式揃える。とにかく最低限で丈夫そうなもので選んで行く。この際デザインはどうでも良い! なんせデザインで選ぼうとすると、絵本で出て来そうなド派手な装飾の付いたデザインばかりなんだもの。
それを部屋の場所を店の人に伝え配達をお願いした。荷馬車で運んでくれるらしいが、当日に配達してくれるって凄いわねぇ。そんなに人手があるのかしら。
家具が終わると他にも食器や調理器具やカーテンなど、今まで役所で泊まっていたときには必要がなかったものなどを買い揃えていく。
結局また大荷物……。
「荷車、まだ借りとけば良かった……」
大量の荷物を持ちぐったりしながら部屋へと戻る。
戻って早々に先程買った家具が運ばれて来た。開け放した窓から荷馬車が見え、慌てて下へと降りる。
荷馬車から男性一人でベッドやらテーブルやらを運んでくれるが……、重たくないのかしら……。
マジマジと見詰めていると運んでいる男性がたじろいだ。
「なんだい?」
「え、あ、すいません。よく一人でそんな重たいもの持てるな~と思って」
「あぁ」
男性は少し笑って、今運んでいるテーブルを指差した。
「あそこに石を付けてるでしょ? あれ魔石なんだ」
「魔石……」
テーブルの脚に小さく光る石が取り付けられていた。
「あの魔石は重さを軽減してくれるものでね。大体四分の一程の重さになるんだ」
「へぇぇえ!!」
凄いわね! 魔石! それで一人でも大丈夫な訳だ。納得。
一人で感心していると、男性は手際よく家具をあっという間に運び終え、帰って行った。
「やったー!! ベッドとテーブル!! 嬉しい~!」
『腹減った』
せっかく喜びを満喫しようかと思ったのに、またしてもラズの食い気に遮られた。
思わず頭を叩きそうになったわよ。
しかし確かにもう外も真っ暗。すっかり夜だ。窓から中央広場を覗くと、街灯に灯りが灯されている。
そして遠目に噴水が……。ぼんやりとしか見えないが、水が張っているであろう場所がぼんやりと色とりどりの色で輝いている。
クラハさんが言っていた魔石の光だな! 見たい!
「んじゃ、今日はとりあえず食べに出ようか」
調理器具は買ったがまだ食材を買っていないため料理は出来ない。これからは自炊もしていかないとね。でも今日はまだ仕方ない! 決して作りたくなかった訳じゃない!
『き、今日は……』
ラズが出窓に飛び乗り、外の様子を伺った。
? なんだ? 何してるんだ?
ラズはしきりに空を見上げて空をキョロキョロと見回していた。
「なにやってんの?」
『え、いや、何でもない!!』
明らかな挙動不審。
『行ける! 今日は行けるから行くぞ!』
「今日は行ける? どういう意味?」
『何でもないから気にするな!』
そう言うとラズはそそくさと階段を降りて行った。
この前も変な発言だったよねぇ……、うーん。腕を組み考え込んだが「ぐぅぅう」という物凄いお腹の音がし、考えることを放棄。まずは晩ご飯よね。うん。
「ちょっとした寄り道だけだし、噴水を先に見に行きたい!」
『えぇ、腹減った……』
「ん!?」
『あ、いや、なんでもないです』
思い切り睨むとラズは諦めたように項垂れた。ふふん、勝った。
そもそもラズはお金持ってないしね! いや、私も証明タグがなければ持ってないんだけどさ。でも私のおかげでご飯を食べられている訳だしね! 私の意見優先です!
商業区は噴水のある中央からでも通っていける。少しだけ回り道になるだけ。買い物に出たときに少しは道を覚えたからそれくらいは分かる。
夜の少し人気がなくなった中央広場を歩く。中央広場の中央、ちょうど真ん中に位置する噴水。そこへ近付くにつれて、ぼんやり光って見えていた色とりどりの光がはっきりと見えて来た。
噴水側に街灯はないのに、その噴水の周りだけがぼんやり明るい。近付き水面を覗き込むと、一体何十個魔石があるのだろうか、底に敷き詰められた魔石が色とりどりの輝きを放ち、水の揺らめきに反射し、さらに一層輝き煌めいていた。
昼間の太陽の光を反射し煌めいていたのも綺麗だったが、夜の魔石は周りが暗い分さらに際立ち、とてつもない美しさだ。
夜の静けさの中、噴水の水音だけが響き、そして魔石の輝きが辺りを照らす。
なんて綺麗なんだろう。
「凄い……、綺麗……」
自分の語彙力のなさが悔やまれる。凄い、としか言葉が出なかった。
『まあこの噴水は王都の目玉でもあるな』
少し自慢気に言うラズが可笑しかったが、これは確かに目玉になるわよね。そう思いチラリとラズを見るとキラキラと煌めいている魔石の光がラズを照らし、ラズの綺麗なスカイブルーの瞳に様々な色が映り込みとても綺麗だった。
「ラズの瞳も綺麗だねぇ、魔石の色が映り込んで凄い神秘的な輝きになってるわよ」
『ん? それならヒナタだって……』
そう言うラズが私の目をじっと見詰めたかと思うとぐりんっと視線を逸らした。
「私だって何よ、何で目を逸らすのよ」
ラズの顔を見ようとしたが、そのたびに逸らされ、結局見れない。
『お前の目も綺麗だよ!!』
プイッと噴水の縁から飛び降りたラズはスタスタと歩き出した。
「ちょ、ちょっと!」
慌てて後に続いたが、ラズは全く振り向かず歩き続ける。うーん、照れてるのかしら? せっかく褒めてくれるのなら、こっちを見て褒めて欲しいわよねぇ、全くもう。
そう思ったが、ぷりぷりとしたお尻で尻尾を左右に振りながら歩く姿に癒されつつ、まさかラズがそんな台詞を口にするとは思わなかったため、ちょっと恥ずかしかった、なんてことは内緒。
キミカさんのお店で夕食をいただき、自炊について少しばかりご教示いただいた。
まあほぼ海外での生活とかと同じかしらね。生水は飲まない。バルブルという牛? どうやら牛乳みたいなものらしいけれど、その牛乳もそのままでは飲まないほうが良いらしい。生卵や生肉は食べないこと。生野菜は大丈夫だが、料理は全てにおいて火を通すほうが良い。そして冷蔵庫がないため、日持ちしないものは買い溜めないほうが良い。こんな感じかしら。
キミカさんからどこで何が売っているかも大体教えてもらい、帰りに食材を買って帰ることにした。
「何を買って帰ろうかしら。冷蔵庫がないってのが不便よねぇ」
『レイゾウコってそんな便利なのか?』
「うん、だってあまり日持ちしないものでも、冷蔵庫で冷やしたり凍らせたりしていれば、長持ちするしね」
『へー、まあ城で研究してるからもしかしたらすぐに出てくるかもしれないがな』
「それだと有難いけどね~」
そんなことを話しながら、市場のような食材通りを目指し、野菜や肉を買って行った。
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