第十二話 城で噂されていた
見るとその店は可愛らしい外観をしたカフェのようだった。
「ここ?」
『ここ!』
何か意外……、めちゃくちゃ女の子が好きそうな店なんだけど……。
「誰か女の子と来たことあるの?」
『は!? そんなのない!! た、ただ来てみたかっただけだ……』
「ふーん?」
『なんだよ』
「別に?」
来てみたかっただけねぇ、こんな可愛らしい店にねぇ。
ま、いっか。私には関係ないし。
店の中に入ると可愛らしい外観と同様に店内もこれでもかってくらい可愛かった。
カラフルな色合いの店内でお客さんも女の子が多かった。たまに恥ずかしながら座る男の子もいるが……恐らく彼女に無理矢理連れて来られた感じかしら。
フフッ、こういうところは日本と一緒だねぇ。
店員さんに席に案内され窓際の席に座る。席に向かうまでの間、ラズは店内の女の子たちのアイドルと化していた。
キャー、可愛いー! とか言われたまんざらでもない感じのラズに笑える。すまし顔の猫のお通りよ。
メニューを見ても読めない……、日本語じゃないよね……、そりゃそうか。
「ねえ、何て書いてるの?」
『ん、あー……』
ラズは丁寧に料理の名前と書いてある料理の説明とを読み上げてくれた。
こういうところは素直で律儀なのよね。
料理の名前を聞いてもよく分からず、仕方がないのでラズが食べたいものを注文。
しばらくすると料理が運ばれて来たが…………、
「ラズ……、これが食べたかったの?」
『う、あ、いや、その……』
運ばれて来た料理は控えめに言っても、物凄く可愛らしい女の子らしいというか、色とりどりの飾り付けにワンプレートに少しずつ色々な種類の料理が乗り、しかもハート……。ハートがいっぱいだわ。
野菜と思わしきものがハートにカットされ散りばめられている。凄いわね。
「へー、ラズ、これが食べたかったんだぁ」
ニヤニヤしながらラズを見ると、明らかに動揺しておる。きっとラズ自身も予想外だったんだろうね。
それが分かったが、ラズがこれを食べたいと言って、しかも持って来られてから固まるという一連のことが笑わずにはいられなかった。
「ブフッ。アハハ! 可愛らしいのが好みなの~?」
『ち、違う!! 笑うな!!』
ラズは膝の上でくるりとこちらを向くと、ビシッと猫パンチ。いや、それすらも可愛いだけだし。
「まあまあ、良いじゃない、恥ずかしがらなくても」
どうにもニヤニヤしてしまう。
ラズは完全に拗ねた。ムッとしてしまった。からかい過ぎたか。
「ごめんって! 誰かと来たくて調べたとかでしょ?」
こんな可愛らしい店にラズが来たがるなんて、女子が絡んでる以外ないでしょ!
自分の恋愛は最近全くだったけど、私だってそれくらいは分かりますよ。まあ人間の話だけど。
ラズをもしゃもしゃと撫で回した。
ラズ無言……。うーん、やっぱりめんどくさい性格だな。
「とりあえず食べようよ。食べないなら、ラズの分も食べちゃうよ?」
『食う!』
ラズはぐりんとテーブルに向かうとがっつこうとして固まった。
「? どうしたの?」
『あ、いや、何かがっついて良いのかな、と。店の雰囲気的に……』
「………………、ブブッ」
吹き出してしまった。いや、だってがっついて良いのか心配するって。猫なのに、がっつく以外どうやって食べるんだ。
「じゃあ食べさせてあげようか?」
『うぐっ、…………、やっぱり良い……』
そういうとラズはやはりがっついて食べ出したが、ちょっと悩んだわね。あーん、てされることを悩むなんて、と可笑しくなり吹き出しそうになりむせた。
「んぐぐ、あー、じゃあ私もいただきまーす」
見た目の可愛らしい料理に、正直味はあまり期待していなかったが、とても美味しかった。
卵料理のような? 見た目的にはキッシュのような何かの刻まれた野菜が細かく入り、卵のような黄色生地で焼き上げられた料理。
生野菜のサラダ。何かよく分からない野菜がたくさんあるわね。見た目はほうれん草みたいな葉だけど、生で食べられ甘かった。トマトかと思って食べた赤い野菜は、めちゃくちゃ酸っぱくてびっくりしたけど。
小さなハンバーグのようなものは、肉のようなそうでないような。肉臭さは全くなく、何だろう、豆腐ハンバーグのような? あっさりとした味に甘辛いタレが絡んでいた。
しんなりした野菜が和え物のようにあったが、それは甘酸っぱいピクルスのような味だった。
ほほう、基本的に野菜中心のヘルシー料理ってことかしら。女子に人気があるのも頷ける。日本にしろ異世界にしろ女子はカロリーが気になるのね、と少し笑った。
「ラズは足りた? 少なかったんじゃない?」
量的に明らかに女子向けな気がした。
『あー、まあ大丈夫だ、ねこ……』
「ねこ?」
『な、何でもない! …………俺は、俺は……』
何やらブツブツ言ってるなぁ。
猫だからサイズ的に大丈夫って言おうとして、自分自身に苛立った感じ? まあ確かに猫サイズなら量もちょうどかもね。苛立つ理由は…………、あー、もう、無視、無視よ。気にしたら負けだ。関わらない!
「はいはい、とりあえずコタロウさんが紹介してくれた人に会いに行くよ〜」
まだブツブツ言っているラズを床に下ろしたがまだブツブツ言ってるし。しつこいな。
会計を済ませ店を出ると、ようやく落ち着いたラズと道を確認しながら紹介してもらった人を目指した。
「お兄様! お兄様! ご存知!?」
ヒナタがラズをからかいながらランチを堪能しているとき、とある場所の一角で鈴を転がすような可愛らしい声が響き渡っていた。
黒髪の一人の少女が兄と呼んだ青年に声を掛ける。
「ん? どうしたの?」
「また日本人の方が流されて来られたようですわね」
「え!! 本当に!?」
「あら、お兄様ご存知なかったのですか?」
少女は知らないことが意外だという顔、青年は驚愕といった顔だった。
とある一角、それはルクナの王城にある研究所内だった。
お兄様と呼ばれていたのはこの国の王子、アルティス・カイ・ルクナ。少しふわふわとしたブルーグレーの髪。少しばかり垂れ下がった目元が優しげな印象の菫色の瞳。菫色の瞳は王家の伝統の色だ。
アルティスは幼い頃より研究が大好きで、よく城にあるこの研究所に入り浸っているのだった。
鈴を転がすような声で兄を呼んでいたのは、この国の王女、エルフィーネ・サニ・ルクナ。腰まで伸びた艶のある黒髪に兄と同じ菫色の瞳。大きな瞳に艷やかなピンク色の唇。きめ細かく透けるような白さの肌。
華やかで可憐な淡いピンク色のドレスを身に纏い、艶やかな黒髪がさらさらと揺れている。
アルティスはエルフィーネに慌てながら詰め寄ったのだった。
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