第六話 絶対帰ってやる!と決意した
「あぁ! そんな顔しないで! 流されて来たときは不安だったし、怖かったし、大変だったけど、この世界、というかこの国の人たちはみんな良い人たちばかりだから、すぐに馴染んだのよ。だから大丈夫」
悲痛な顔でもしていたのか、キミカさんは慌てて言葉を付け足した。
「そう……なんですね……」
「そうそう! 大丈夫よ! この街なんかは大きいから何人も日本人がいるのよ。いつか訪ねてみると良いわ。きっと色々助けてくれるから」
ニコリと笑いながキミカさんは言った。そして色々と教えてくれる。
この王都はやはり大きいため、流れて来た日本人はまず皆この街でしばらく暮らすらしい。それから人によっては違う街へ移動したりもするらしいが、ほぼ皆この街にいる。
中には城で召し抱えられている人もいるようだ。どうやら日本人の知識をもって色々な開発に携わっているらしい。
「城の研究所で色々開発しているらしいわよ。私はよく分からないから、声を掛けられても断ったんだけどね」
そう言いながらキミカさんは苦笑し、その後いたずらっぽい目をして言った。
「ヒナタちゃんも多分城に一度は呼ばれるわよ」
「えっ!?」
城!? 城って……日本の城じゃないわよね。いやいや、そりゃ違うでしょ。いやでも、この街並みだしな……日本の城でもありうる!? それともシン○レラ城みたいな!?
いや! 違うでしょ! 今、城の外観なんてどうでも良いじゃない! 問題はそこじゃない!
「城に呼ばれるって何でですか?」
少しビビりながら聞いた。問題はそこよ! 何で城なんかに行かないといけないの!?
「あー、えっとそれはね……」
キミカさんは苦笑しながら話しづらそうに口にした。
「うーん、はっきりとした理由を聞いた訳ではないんだけど、まあ、とりあえず王様に会わされるわ」
「えぇ!? 王様!?」
「そう、王様」
「何で!? 何で王様に会うんですか!?」
「不便はないか、とか困っていることはないか、とか聞かれるだけだよ」
思わずキミカさんに詰め寄り声を上げると、キミカさんはたじろぎ苦笑しながら答えた。
「何だ、そんなことを聞かれるだけですか? ならまあ……」
緊張はするが、一度は会わなければならないなら我慢する。
「それだけが理由ではないと思うんだけどね……ハハ……」
ボソッとキミカさんが呟いた言葉に反応したが、キミカさんは何でもない、と答えただけだった。うーん、意味深。
「ま、とにかく、何かあるときは役所から連絡が来るから、そのときに対応したら良いわよ」
「おーい、キミちゃん!」
キミちゃん……、店の奥のテーブルに座るお客さんが声を掛けている。常連さんかな。
「はーい! ごめんね、ヒナタちゃん! 休憩終わりだから行くわね! また聞きたいことがあれば朝なら時間があるからまた来てね」
そう言いながらキミカさんはいそいそと食器を片付け、呼ばれたお客さんの元へと行った。
聞きたいことか……、いっぱいあるよね……、まだ分からないことだらけだもんね。うん、お言葉に甘えて明日また聞きにこよう。
そう思い店を出ようと立ち上がると、ラズがビクッと顔を上げた。どうやら椅子の上で丸まって寝ていたようだ。テーブルに隠れ全く見えず、存在を忘れてたよ。
「お前……、俺のこと忘れてただろ……」
「ん? ううん、忘れてないよ? そんな訳ないじゃない」
ウフフ~、と笑って誤魔化し顔を背けた。何事もなかったかのように荷物を持ち、会計をしに行く。ラズはじとっとした眼で見詰め、椅子からするりと降りると後ろから付いて来た。
会計にはキミカさんと同じ年頃そうな女性がいた。服屋と同じように証明タグを見せるとあっという間に会計が終わる。便利だわ~。凄い道具よねぇ。
店内に目をやるとキミカさんは忙しそうにしていたが、こちらに気付くと小さく手を振ってくれた。それが嬉しくて私も手を振り返し店を出た。
「さて、じゃあとりあえず今日はもう帰ろうか」
足元をちょこまかと歩くラズに向かって言った。
『あぁ、こんな山盛りの荷物じゃ歩き回れないしな』
「アハハ……、ね」
もっと街を散策してみたかったけど、この荷物じゃね……。部屋へ持って帰るのも一苦労だわ。これ。
大量の荷物を持ちぜーぜー言いながら、やっとの思いで役所までたどり着き階段を上る。
「三階……、きっつい……」
『だ、大丈夫か?』
二階で一度荷物を下ろし休憩していると、ラズが心配そうに見上げている。いつも生意気なくせに可愛いじゃない……。後でもふもふさせてもらお~っと。
そう思うとあとひと踏ん張り気合いを入れた。
やっとの思いで部屋に到着。ベッドの横にがさっと荷物を置き、ベッドに項垂れ掛かった。
「あー……、疲れた……」
落ち着くと今日のことを色々と思い出す。
数時間前までは日本にいたのに。あの神社の鳥居からいきなりこんな世界に来ちゃって……。今頃ならお弁当食べ終わって、お菓子食べながらラノベの続きを読んでるはずが……。
「あぁ!!」
ラノベを思い出し思わず大声を上げてしまい、ラズがビクッとした。
『な、何だ!? どうした!?』
「え、あ、ごめん、何でもない」
あぁ、大好きなラノベだったのに……、主人公とイケメン王子がどうなるかってところだったのに……、あぁ、どうなったんだろ! 気になる!! 気になりすぎる!! きー!!
モヤモヤモヤモヤし、ブツブツ言っていたらしく、ラズが引いていた。
『お、おい、大丈夫か?』
「ラズ……」
若干涙目になりながらラズを見ると、ラズはぎょっとしたような表情になりオロオロし出した。
まあ猫だから表情はそんなには分からないけど、そんな風に見えるのよね。ちょっとそれが面白い。
オロオロするラズはどうしたら良いのかとばかりにキョロキョロ周りを見回したり、前脚をまるでお手をするかのように空を搔いていた。
「ブッ」
あ、まずい、また笑っちゃった。ラズが不機嫌になるわ。慌ててラズを抱っこしむぎゅっと抱き締め誤魔化した。
『うぐっ、は、離せ!』
「やだ」
『やだ、って……』
言い切ったらラズが呆気に取られているわ。フフ、勝った。
「今日色々ありすぎて疲れたから癒しをちょうだい」
そう言いながらスリスリもふもふをたっぷり堪能。ラズは……、無駄な抵抗はやめたようでぐったりしている。
あぁ、癒されるわぁ……。ラノベが読めない鬱憤を……あ! ……やっぱり思い出しちゃった……。ムムムッ。
「こうなったら絶対帰る方法を探し出してやる!」
『ぐえっ』
ラズにスリスリしていた顔を勢い良く上げ、力いっぱい気合いを入れ叫ぶと、どうやらラズを力いっぱい締め上げていたようだ。
ラズは締め上げられ苦悶の表情を浮かべていた。
『いい加減に離せ!!』
ラズがキレた。
「ごめんごめん」
『俺を殺す気か!』
「そんな訳ないじゃない、ラズったら大袈裟な」
あらやだ、奥さん、みたいに手をヒラヒラさせるとラズは私の膝を猫パンチした。何度も何度もビシビシと猫パンチ。いかん、また笑いそうだ。
ずっとビシビシやっている姿が可愛いのよね。ハハ、ラズって自分で分かってるのかしらねぇ、自分が可愛い仕草をしてるって。分かってないんだろうなぁ。
ラズの首元に手をやり、ビクッとしたラズを無視し首をなでなで。ハハ、やっぱり気持ち良さそうな顔。でも笑うとまた怒るからここは我慢。
また怒り出す前にささっと撫でるのを止め、立ち上がった。
「さてと、とりあえず疲れたからお風呂でも入るか。汚れた服でいつまでもいるのも嫌だし。ラズも洗ってあげようか?」
『!! いらん!!』
ラズに振り返るとじりじりと警戒するように後退り、思い切り拒否した。まあ、そう言うと思ってたよ。猫って確か水嫌いだもんね。
とか、考えつつ素知らぬ顔で勢い良くラズに向かって手を伸ばしひっ捕まえた。
ニャー、とも、ギャーとも言えないような鋭い鳴き声を上げたラズは暴れまくるが、がっしりと小脇に抱え風呂場に連行。
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