第三話 住民になってしまった
異世界人が流れ着く!? どういうこと!?
『この国にはなぜか異世界へと繋がる空間の歪み? のようなものがよく現れるらしい。そこから異世界人が流れ着く。数年に一人や二人や流れて来るようだぞ』
「な、何それ!! じゃあ私もそのせいでこの世界に流れて来ちゃったってこと!?」
『多分な。さっきまでいた森、あの石畳があった場所、あの辺りを中心によく空間の歪みが付近に現れるらしくてな』
「…………」
何だか頭が混乱し言葉が出なかった。
要するに私は仕事から帰る途中に、こちらの世界との空間の歪みに飲み込まれ、ルクナに流れ着いたという訳だ。
それにしても……
「ラズってやたら詳しいんだね。人間の事情に」
『え!? あ、いや、まあ、な……、色々人間と暮らしてたから……ハハ……』
明らかに怪しい。
疑わしい目で見ている内にどうやらルクナードに着いたようだ。
「うわぁ……」
森を抜け開けた場所に出たかと思うとルクナードが現れた。
街の入口には兵らしき人が立っているが、特に咎められることもなく街へと入ることが出来た。
夕方に差し掛かっていたためか、街にちらほらと灯りが見える。赤やオレンジの色合いの灯りも見え、何だか暖かそうな色合いに、可愛らしい雰囲気だ。
建物は木造? 何だか懐かしい風景のような……、昔の日本家屋のような……、灯りの彩りから花街のようにも見えるが……、何だろう異世界なのに落ち着く。
低い家屋や店が並び、道路にはガス灯? ランプ? が街灯として並んでいた。
しかし木造だけではなくなぜか所々に石造りの建物も見え、そこは西洋っぽいというか……、何だか和洋折衷のような街だな。
街の人たちの出で立ちも何だか着物のような……、そうでないような服を着ている。
男性は洋装が多い感じだが、たまに着物のようなものを着ている人もいる。女性は何だか不思議。腰から上は着物のよう、しかし下はスカートだ。袴でもない。スカートなのよ。
着物のように色とりどりの柄が描かれ鮮やかな色彩の服。変わってるなぁ、と思いつつもとても可愛い服だ。
髪色は異世界らしく? たまに黒髪もいるにはいるが、色とりどりの色合いが目立つ。
『まずは役所へ行け』
「え? 役所?」
『そうだ。この街は流れ者が多いから役所で管理している。色々説明してくれるだろうよ』
「へぇえ!! そうなんだ!!」
異世界、至れり尽くせりだね!
「で、役所ってどこ?」
『あそこだ』
ラズは一つの建物を差して言った。
街へ入ってすぐのそれなりに大きな建物。他の店や家屋らしき建物と比べても、この建物だけが三階建てでとても大きい。この建物は石造りでかなり目立つ。異世界人がすぐ分かるように建ててあるのかしら。
ラズに教えられたその建物に恐る恐る入ってみると、一階は開けた場所でエントランスのようだった。正面には二階へと繋がる階段が見え、その両脇にはカウンターのようなものがある。
どちらに声を掛けたら良いのか分からず、適当に左側のカウンターへと向かった。
カウンターにはやはり着物のようなそうでないような服を着た女性が座っている。女性は私の姿に気付くとにこりと微笑んだ。
「☆%#*$@;+#&」
「え!?」
何て言っているか分からない! 何で!? ラズは分かったのに!?
「あ、あの……」
ど、どうしたら……。言葉が通じず急に怖くなりラズを見た。ラズはちょこんと私の足元におりこうさんにお座りをしている。可愛いわぁ。……じゃなくて!!
「ラ、ラズ……」
助けを求めるように声を掛けると、ラズは首をくいっと動かした。
何??
「あぁ、ニホンの方ですか?」
「え!?」
再び驚いた。ニホンの方!? ニホンの方って言った!? 驚き女性を凝視する。
「ニホンから流れて来られた方ですね?」
はっきりと言っていることが分かった。日本語だ。
「は、はい」
恐る恐る返事をすると、女性は再びにこりとし、説明をしてくれた。
「ここはルクナ国の王都ルクナードです。ようこそいらっしゃいました。不安でいらっしゃるでしょうが大丈夫です。この街ではニホンの方が暮らしやすいように援助をしております」
「はぁ……」
ようこそ、と言われても、来たくて来たわけではないのですが……と思ったが、そこは言う必要はないだろう。しかし援助!? 援助してくれるの!?
「この街にはニホンの方が何人も暮らしていらっしゃいます。ですからニホン語を話せる方もたくさんいます。言葉に不自由することはないでしょう。当面の生活費として二ヶ月程の証明タグが支給されます。二階でその申請が出来ますので、どうぞ二階へお進みください」
「あ、はい」
その女性に頭を下げ、言われるがままに二階へと進んだ。
二階では一列に机が並べられ、一つの席に一人ずつ女性が座っていた。一階にいた女性から連絡があったのか、一人の女性が近付いて来ると、一つの机へと誘導してくれた。
「ようこそルクナードへ。住民手続きでよろしいですか?」
「え、あ、はい」
いきなり言われても……、住民か……、まあ今のところ帰る方法が分からない以上、ここに住むしかないんだもんね。仕方ない。
「ではこちらへ署名をお願いします。住民手続きの書類になります。これを作成しますと証明タグが発行され、そのタグで二ヶ月間の生活費も支給されます」
手続きの書類は全て日本語で書かれていた。凄いな、異世界。
その書類には二ヶ月の間に仕事を見付けるように、と書いてあった。仕事が見付かろうが見付からなかろうが、二ヶ月経てば生活費の支給は終了するようだ。
まあそれはそうよね。いつまでも生活費が支給されるようじゃ、働かない人もきっと出て来る。というか、働かないだろう。
「このタグを支払いの際に提示していただければ使用出来ます。肌身離さずお持ちください。再発行は出来ませんので。支給は二ヶ月で終わります。それまでに住むところと仕事を決めてください。当面はここの三階でお泊りいただけます。何か質問はございますか?」
一気に色々説明されても、何を質問したら良いのかが分からない。色々疑問だらけだ。
「えっと、はい……」
結局、咄嗟に思い付かず何も聞けない。
「また何か分からないことがありましたら、一階の受付で何でもお気軽にご相談ください」
そう言うとその女性はにこりと微笑んだ。
「はい、ありがとうございます」
発行されたタグを受け取り、貸してくれるという三階の部屋へと案内された。
「こちらの部屋をお使いください。えっと……、その猫ちゃんは……」
「え!!」
足元を見るとラズが付いて来ていた。そうだった、ラズがいるのよね。何でか。
「猫も一緒に大丈夫ですか?」
「はい、問題ございません」
にこりと笑った女性は、部屋の鍵を渡すと去って行った。
「ラズ……、私と一緒にいるの?」
『あぁ』
うーん、何でだ。色々教えてくれたのは有難いけど、何で私と行動を共にするのか意味が分からない。
まあいいか、と扉の鍵を開け、部屋の中へと入る。
部屋の中は思っていたよりずっと広かった。入ってすぐの部屋にクローゼットらしきものとベッド、それに机と椅子もある。
そしてもう一つ扉があった。
もう一つの扉を開けると、そこは浴室とトイレと洗面だった。
「お風呂!! 嬉しい!! お風呂あるんだ!!」
意味はないが何となくお風呂は諦めていた。何でだろう、とクスッと笑う。
「やったー!! 服もこけたせいで汚れてるしお風呂入りたーい! あ!!」
『な、何だ!?』
突然叫んだせいで、ラズがビクッとした。
「服の替えがない……」
ラズを見て呟くと、何だそんなことか、とラズは項垂れた。
『買いに行けば良いだろうが。晩飯も何か食わしてくれ』
「さっきお弁当分けてあげたじゃない」
『あんなんで足りるか!』
「…………、ラズ……、食べ物が目的か!」
『はぁ!? ち、違う!』
「じゃあ、何で私とずっといるのよ」
『そ、それは……、な、何でも良いだろ! とりあえず服を買いに出るぞ!』
やっぱり何か怪しいんだよなぁ……。
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