【完結】少年勇者はおねーちゃんの夢を見るか？

第48話 最後の賭け

巨大化したアヴァロワーズ。

その常軌を逸した巨体は、喋るだけでもビリビリと空気を震わせてしまう。

「さぁ、なんとかしてみて下さいよぉ！！勇者様方ぁ！！」

アヴァロワーズがその場で足踏みするだけで、ノヴェトらは地響きで立っていることすらできない。

シヴァデュナート・ロボらも巨大だったが、アヴァロワーズはその2倍以上だ。

とてつもなく大きな足以外、攻撃することもできない。

だが、こう動かれては、その足にすらも近寄ることは困難だった。

狼狽えるノヴェト。

「ど、どどどどうすんだ、これ！！？まっちゃん、次は！？次の奥の手は！？」

だが、女魔王を見ると、これ以上の奥の手など無いのは明白だった。

「あわわわわわっ！？どうするでござる、どうするでござる……っ！？」

「そ、そうだ！！また、ジルダちゃんとジーナちゃんに……。」

「ええ！？ノヴェト様、いやもう……、あんなの無理ですって！近寄っただけで、踏み潰されますって！……お、大き過ぎます！！」

「……だよね。」

そして、アヴァロワーズの踏みしだく足は、ノヴェトらに襲い掛かる。

地響きでまともに動けない以上、避けることもままならない。

上空に向かって大盾を構え、ノヴェトは叫んだ。

「クッソォおおおおおお！！もう俺がやるしかねぇ！！！審問スキル発動！！『怨嗟の鎖』！！！」

ノヴェトは、その場の味方全員の鎖を一身に引き受ける。

これで、すべてのダメージはノヴェトに集められる。

現在ノヴェトは、勇者の異能力『鈍感力』が発動している。

よって、全員分のダメージが無効となるはずだ。

しかし、アヴァロワーズの巨大な足は、全員をその範囲に入れてしまっている。

押し潰されてしまった場合、完全にはダメージを無効化できない可能性がある。

「クッ！？いけるのかぁ！？これ！！？」

その時、アキラも叫んだ。

「アンタばっかし、イイカッコしてんじゃないわよ！！私だって『聖騎士（パラディン）』なんだからね！！えっとぉ、でもスキルどれ使えばいいのよ！？急にレベル上がったって、何使えばいいか分かんないんだけど！？」

「あーー、えっとー！！……『騎士道』かけてから、『英雄王の凱旋』を使え！！それからえーと……、いいや！！とりあえずはそれで！！」

「分かったわ！！聖騎士スキル『騎士道』発動！！そんで、えっと……、『英雄王の凱旋』！！！」

アキラは、ノヴェトに言われた通りにスキルを発動した。

アキラの身体は黄金に輝く。

アキラが盾を掲げると、盾の周りに巨大なエフェクトが付与された。

ノヴェトとアキラは同時に、アヴァロワーズの踏み潰しを盾で受け止めた。

だが……。

「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……っ！？重ぉおおおおおっ！！！？」

「重ぉおおっ！？な、なに……、これ！？全然ダメじゃないのよぉ！！？」

どんどん体重をかけていくアヴァロワーズ。

膝をつくノヴェトとアキラ。

その場の全員、屈んでなんとか避けている。

だが、このままでは全員すり潰されてしまう。

「マズイでござるよ！ここは全員で支えるでござる！！」

そこから全員で支える。

……が、押し潰してくる足はびくともしない。

「さぁ皆さん、ここが正念場です！！」

「みんなに祈りを！！」

ジルダとカゲチヨは、全員にステータス上昇の良効果（バフ）を付与した。

「ボクも手伝うよ。……盾の骸骨召喚。」

「私のドールも出すよ！！」

ロレッタは盾の骸骨を9体召喚し、スアリはドールを召喚した。

そうして全員、一丸となって支えた。

だが、それでも少しずつ足は下がっていく。

もはや、潰されるのは時間の問題だった。

アヴァロワーズは勝利を確信し、笑みを浮かべる。

「さぁ、終わりです。みなさん、神殿でお待ちしていますよ？…………あべらぁ！！？」

なぜかその時、アヴァロワーズの踏み潰しが緩まった。

彼女はバランスを崩し、後方へ倒れそうになったのだ。

ノヴェトらの頭上にあった巨大な足は、バランスを取るために遥か向こう側に移動してしまう。

全員、空を見上げる。

「な、なんでござる！？一体何があったでござるか！？」

よく見ると、アヴァロワーズの顔面は爆炎に包まれていた。

必死でその炎を手で払っている。

だが、次々とアヴァロワーズの顔に、何かが打ち込まれていく。

「なっ！？なんなんです？……ぶはぁ！？この……、ごふぁ！！？ちょ、なんで顔ばっか……、ぐぼはっ！！？」

ノヴェトらは目を凝らす。

……少し離れた上空に、複数の人影が見えた。

それは女神兵団だった。

女神アシュノメーが、ニヤニヤとした微笑を浮かべている。

「あらぁ〜？巨大な柱だと思ったわ〜？邪魔くさいから撃っちゃった。ごめんなさいね〜？」

彼女は、黄金に光る羽を生やし空を飛んでいた。

それだけではなく、他の女神兵団らも全員空を飛んでいる。

しかも大砲20基も一緒にだ。

全員が身体から羽を生やし、神々しく光輝いていた。

そこには、メルトナ姫やミシュの姿もあった。

ただ、その姿は魔onのアバターではなく、現実の姿であった。

＊

ノヴェトらは、遥か上空で繰り広げられる空中戦を見上げていた。

「ええ……、なにあれ……？意味分からん……。」

「空……、飛んでるでござるな……。」

女神らは、まるで空中で静止するかのように滞空している。

確かに羽は生えているが、機能しているようには見えない。

あくまでも象徴的な何かなのだろう。

アキラはハイテンションで、カゲチヨをギュッと抱きしめる。

「ちょ、あ、あんなことできるの！？ねぇ私も！！私も飛びたいわ！！カゲチヨも飛びたいよね！？」

「あ、あんな高いの……、ボクは遠慮しておきます……。」

アヴァロワーズは、懸命に爆炎を手で払う。

「ゴホッ……。あ、貴方は女神アシュノメー様！？どうしてここに！？それになぜ、空を飛んでいるのです！？そんなもの、魔onには実装されていませんよ！？なぜ貴方は、システム外の力を使えるのですか！？」

その問いに、女神は手で耳を塞ぎながら応える。

「……ちょっと貴方。もう少し、小さい声で喋ってくれないかしら？頭にキンキンするのよ、貴方の声。……これは私の魔法よ？私が私の力を使えることに、なんの疑問があるのかしら？」

「ま、魔法……、ですって！？それが魔法だと言うのですか！？なぜ大砲まで空飛んでるんです！？お、おかしいでしょう！？非常識ですよ！？」

「……我が夫のために、魔法人形（オートマトン）を成敗しに来たのだけど……。どうしてこんな瓦礫の山になってるのかしら？ゲームってこういうものなの……？まぁでもたぶん、貴方を倒せばいいんでしょ。私には分かるの。きっとそうに違いないわ。面倒臭いから、そういうことにしましょう。……さぁ、砲撃再開よ！！」

ミシュは、震える声で叫ぶ。

「う、撃てぇ！！」

実はミシュ、高いところがあまり得意ではない。

そのため、メルトナ姫にしがみついているのだ。

その号令と共に、アヴァロワーズへの砲撃が再び始まった。

「うばぁ！？ごほぉあ！？こ、小癪なぁ、くはぁ！？だから、なん……、ぎふあ！？だからなんで顔ばっかり……、あばぁ！！？」

「ふはははは！！いい気味ね、その大きな顔は良い的だわ。さぁ、たーんとお食べ。……熱々の魔法弾を！！」

兵士や大砲には、ありとあらゆる良効果（バフ）が付与されていた。

ただの大砲の砲弾が、熟練魔道士の最大魔法レベルに威力が倍増されていた。

あまりにも一方的な砲撃に、女神はもう勝ちを確信していた。

「おっほっほっほ！！ここまでくるのに、どれだけ苦労したと思っているの！？ひたすら魔法で強化して強化し……、キリがないからもう、全部かけたわ！！ありとあらゆる魔法効果をすべて、全部マシマシで！！おかげであんな壁簡単にぶっ壊せたのよ！！」

「……い、いや、全然簡単じゃなかったですけど……。」

ミシュはちょっとだけ愚痴った。

女神は叫ぶ。

「さぁ、さらに私の最大火力で黒焦げにしてあげるわ！！」

「……調子にならないで下さい！！……この！！こんのぉ！！」

アヴァロワーズは片手剣を振り回す。

だが、ヒラヒラと避ける女神兵団。

「ぜーんぜん当たらないわね〜？それで終わりかしら？」

しかし、女神兵団は自動制御で勝手に動かされている。

案の定、全員酔った。

「め、女神様……。もうちょっと……、優しく……。うぷっ！」

ミシュの顔色は真っ青だった。

今にも、口から何かが発射されそうだ。

アヴァロワーズは銃の複腕を繰り出し、広範囲射撃を繰り出す。

飛び交う銃弾。

女神兵団はなんとか避けている。

だが、全員もう顔が真っ青で、どちらにせよ死にそうだ。

「ああ……、ああ……。」

ミシュは、すでに何かがはみ出ていた。

さすがの女神も、この銃弾の嵐は予想していなかった。

「ちょ！！飛び道具は卑怯じゃないの！？」

「貴方が言いますか……。さぁこれでも食らいなさい。」

アヴァロワーズの尻尾の大砲が火を吹いた。

広範囲を吹き飛ばす。

「くぅ！？こ、これはさすがに……っ！？」

女神は手を前に突き出し、瞬間的に魔力を放出させる。

魔力の壁で、なんとか巨大な砲弾を弾いたが、衝撃は殺せなかった。

女神兵団は全員、そのまま地表へと墜落していった。

ノヴェトらは、女神兵団が落ちていく場所に駆けていく。

だが、間に合いそうもない。

女魔王は奥歯を噛み締める。

「……ま、マズイでござる！！あの高さからでは……！？」

「ならスキルで、俺がダメージ肩代わりしてやるぜ！！……けど、効果範囲届くか！？ああ、クソ！！やっぱダメだ！！全然届かねぇぞ！？」

「なら……、こうでござる！！勇者氏！！今こそ『合体技』でござるよ！！」

「合体技！？え！？何の話！！？」

「勇者氏ぃ！！行っけええ！！『ドライブ……、シュート』でござるぅ！！」

「は？…………ぐはぁ！！！？」

ノヴェトの横っ腹に、思いっきり蹴りを入れる女魔王。

ノヴェトは、ものすごい勢いで吹き飛ばされる。

だが、そのおかげで一人だけ先んじて、女神兵団の落下ポイントに近付けた。

「ちょ、扱い酷っ！！くそぉ、やってやんよ！！審問スキル『怨嗟の鎖』！！」

ノヴェトはスキルを発動させた。

落下する女神兵団らから鎖が射出され、ノヴェトに撃ち込まれる。

なんとか全員の鎖を受け取った。

「うしっ！！ダメージは、俺が全部引き受けるぜ！！」

そのまま、地表に打ち付けられた女神兵団の兵士たち。

しかし、ノヴェトのスキルのおかげで無傷だった。

ミシュは身体の具合を確かめるように、首を振った。

「な！？どうして無事なんだ……？あの高さから落ちたのに……。」

「オイ、ミシュ。メルトナも。無事か？」

「お！？ノヴェトか、貴様らは無事なのか。ひ、姫様！？姫様は……？」

ミシュはメルトナを見る。

「ああ、姫様。よくぞご……、無……、事……、で…………。」

メルトナは巨乳エルフの姿になっていた。

思わずその胸に視線がいくミシュ。

「お……、おお……。って、なんだ？姿が、魔onのアバターに変わってるぞ？私も姫様も……？」

慌てるミシュ。

ノヴェトは、彼女たちが無事なのを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。

「ああ、それはたぶん、異界化の範囲に入ったからだろう。たしか上空は、異界化の範囲じゃないからな。」

女魔王も追いついていた。

あとからカゲチヨたちも続く。

「なるほど。女神殿が普通に魔法が使えたのもそのせいでござるか。でも壁を破壊してきたのでござろう？どうやって、空飛んだのでござる？壁の中に入ったら、そもそもあんな魔法は使えないと思うでござるが……。」

「それが……、壁、壊せなかったんだ、実は。それで空から……。飛んでみたら普通に中に入れてしまってな……。」

そこへぷんぷんと怒りながら、女神が駆け寄ってる。

「なんなのよあれは！！あんなの反則じゃないのよ！？」

「と、とにかく今は姿を隠すでござるよ！！」

女魔王の提案で、各々、瓦礫へと身を隠した。

＊

アヴァロワーズは、女神たちを見失ってしまっていた。

それは、自身の発射した砲弾のせいだ。

広範囲の爆風のせいで、辺りはひどく見づらい。

余程、女神の執拗な砲撃に堪えたのだろう。

両手で顔を隠して、キョロキョロと周りを警戒している。

だが、ノヴェトらも身を隠してはみたものの、すでにジリ貧だった。

「……で、どうすんのよこれ。」

「それなんでござるが……。拙者に、一つだけ妙案があるでござる。ただそれには、女神殿の協力が……。」

「馬鹿なの貴方？なんで私が、貴方に協力しないといけないのかしら？脳みそ入ってるの？馬鹿なの？死ぬの？腐って死ねば？」

「随分な言われようでござるな……。」

「まぁまぁ、女神様。ここはひとつ……。」

ミシュが女神をなだめるが、女神はツンと顔を背けて聞こうともしない。

「それでなんとかなんのか？まっちゃん？」

「分からないでござるが、やってみるしかないでござる。ただおそらく、チャンスは1回だけ……。」

「ふぅん……。ならよし、カゲチヨ。出番だぞ。」

「へ？」

「お願いするんだ。」

「お、お願い！？」

「もうなんでもいいから、ねだれ！」

「えっと……。」

「ん？なにこの子？わんちゃん？あら、可愛らしいワンワンちゃんね。……ほうら、よーしよし、良い子ね〜。」

カゲチヨの喉元をゴロゴロする女神。

「言っとくがそれ、カゲチヨだからな？ゲームの中の姿。」

「カゲ……、チヨ……、きゅん……？」

ぎゅっと抱きしめる女神。

「ええ！？こんななの！？もふもふじゃないのよ！！？ええ！？」

「むぐぅ！？……あ、あの女神様……。」

「ああ、いいわ。いいわぁ〜。もふもふ、もふもふ。」

「あの！女神様！協力お願いできますか！？」

「あああ！もっと言って！！もっとこう……、キュンとする感じで！！」

「え！？……えっとぉー……、こ、こうですか……？お願い……、します……。えっと、ちょっと難しいですぅ……。」

「はぁあああああああん！！もうなんでも聞いちゃうんだからぁ〜！！」

「チョロいな……。よし、まっちゃん、進めてくれ。」

「では、ここからは拙者と女神殿の共同作戦でござる……。女神殿……、勇者召喚機能は使えるでござるな……？あれは異世界に干渉できるオーパーツでござるから、ここでも呼び出せるんじゃないかと……。」

「なんで貴方がそんなことを知っているのよ？」

「これでも異界化するのに、色々調べたんでござるよ……。で、拙者はこれを使うでござる。」

そう言って女魔王は、拳大の黒ずんだ何かを掴む。

それは、フェアリー魔王だった。

女魔王に鷲掴みにされながら、羽を震わせる。

そして、ニコニコと不気味な笑顔を見せ、野太い声で喋る。

「お？拙者の出番でござる？」

「うお！？しゃ、喋った！？な、何よその禍々しい虫は……。」

女神は、初めて見るフェアリー魔王の姿に、はげしく動揺する。

「随分でござるな……。このフェアリーちゃんは、魔ザーコンピューターの一部にアクセスできる権限を持ってるでござる。勇者召喚機能と、異界化システムを合わせて、勇者を再召喚するのでござるよ。」

「はぁ！？勇者召喚！？この後に及んで、誰を呼ぶっていうのよ！？どうでもいいやつ呼んだって、どうしようもないわよ！？」

「……呼ぶのは決まっているでござる。……アキラちゃんでござるよ。」

「え？」

なぜ突然名前を言われたのか、理解できないアキラ。

正直、難しそうな話だったので、全然話を聞いてなかったのだ。

これには女神も困惑する。

「いや、意味が分からないわ……。」

「まず、アキラちゃんの周りだけ、フェアリーちゃんが異界化を限定解除するでござる。つまり、そこだけ異世界になるでござる。ただこれは本当に無理な操作なので、チャンスは1回だけでござる。……その上で、勇者召喚機能で魔onに勇者召喚するのでござるよ。」

「ん……？あ、うん……？」

女神もノヴェトも、アキラも同じ表情だった。

それはたぶん、何も理解してない顔だ。

だがそれでも、女魔王は作戦説明を続ける。

「さらに、召喚される際は魔onで新規ログイン扱いになるはずなので、そこでプラグインを実装し、巨大化させてあのアヴァロワーズと戦うのでござる。」

「……よく分かんねぇけど、要するに巨大なアキラになるのか？」

「え！？」

びっくりした顔でキョロキョロするアキラ。

信じられないといった表情だ。

「……って、いや待て。仮にそんなことができるんなら、アキラでなくてもいいだろ。なら、俺がやる。子供一人で、あんなデカブツと戦わせるなんて……。」

「……たぶん、無理でござる。異界化解除は、物凄く小さい範囲でしかできないでござる。アキラちゃんが丸まってギリくらいで。」

「なんか都合いいな……。ホントなの？ちゃんと試した上で……。」

「おおっと！？勇者氏、それ以上はダメでござる。色んな意味で。ほら、アキラちゃんには、勇者の異能力『相対上位』があるでござるよ。巨大化して、さらに異能力があれば、あんなデカブツだって、なんとかなるはずでござる！！」

「なるほどな。でも、しかしなぁ。……アキラ。オマエはできそうか？」

「え？いや、できるかっていうか……、話が何一つ見えないんだけど？」

「うーん、要するに、なんかすごい魔法で、お前がデカくなって、アイツぶっ倒すんだよ。」

「へぇ……。ところで、それで倒したとして……。あとで私は、元の大きさに戻れるの？」

「あ！」

女魔王は小さな声をあげた。

だが、さすがにまずいと思ったのか、すぐに手で口を塞いだ。

「……まっちゃん？……え？」

「いや、そのぅ……。終わった後のことは考えてなかったでござるなー。」

「でもほら、まっちゃん、アスターも小さくしたし……。」

「う、うん……、かなぁ……？」

首を傾げる女魔王。

ノヴェトも不安になる。

「いやもう、歯切れ悪いなぁ……。」

その時、アキラは不安そうなカゲチヨを見た。

そして、決意する。

だが、その声は少し震えていた。

「……いいわ。やってやるわよ。私、おねーちゃんだし。カゲチヨ守ためなら、何だってやってやるんだから。」

だが、カゲチヨはそれを止める。

「そんなのダメです！！戻れないかもしれないのに！！」

「いいのよ。……さぁ、時間ないんでしょ。さっさと始めなさいよ！！」

「アキラ……。」

「じゃあ行くでござるよ！効果時間は数秒でござる！アキラちゃん、すぐに飛び込むでござるよ！……では、フェアリーちゃん、『異界化逆転術式』オン！！」

「おぽぽぽぽぽぽぽぽぽ！！」

気色の悪い雄叫びをあげるフェアリー魔王。

そのすぐ前に、小さな空間が現れる。

子供が屈んでやっと入れるようなサイズだ。

「予想以上に小さいでござるな……。さぁ、アキラちゃん！！」

「分かったわ！！……えっと、ちょっと小さ過ぎるのよ……。」

「ダメなんです！！」

カゲチヨは急にアキラの前に駆け寄った。

そして、アキラを突き飛ばす。

「う、うわっ！？カゲチヨ！？ど、どうしてっ！？」

「ボ、ボクがやるんです！！」

そう言うと、カゲチヨは小さな異空間にすっぽりと収まってしまった。

「なっ！？ちょ、カゲチヨ！？ダ、ダメぇ！！！」

「くっ！？時間がないでござる！！さぁ早く勇者召喚を！！！」

「いいわ。……貴方は私の夫。さぁ、ビックになって帰ってきなさい！！」

カゲチヨの姿はかき消えた。

そして、女神自身も、自身の内側に吸い込まれるように消えていった。