第11話 遠征に武闘大会に温泉

ーー  中央大森林遠征


ミセール王国の西側に南北に長く中央大森林が存在する。


この大陸で大森林と呼ばれるのは西側にある西大森林と南東隅に位置する南大森林の3つだ。


この大森林には、多くの魔物が生息し人の侵入を拒んでいる。

森林の中央付近には竜の巣があると言われ、誰も訪れて確認したものはいない。


私はこの大森林を遠征し新たな発見を期待しているのだ。

以前のスライムの様な、不思議な素材やまだ見ぬ生き物などを。


そこで遠征隊を編成することにした。

隊長は私、副隊長にアリスとイデア他は侯爵領の近衛兵の精鋭を30人ほど。

これで遠征する。


所持品は

・魔法袋〜一人が10日分の食料と水に薬各種を入れておく

・得意な剣や槍弓などの武器、サブウエポン有り

・高性能な防御服2着にブーツ手袋、ロープや鍋やテーブル椅子テント

で、迷った時は高い木の上か穴を掘って隠れることを徹底した。


日程は最大10日。

さっそく森の途中に転移魔法で移動。

驚く兵士らに

「驚くのは早い、これからが本当の未開の森だ。気を張り注意を怠るな。」

と檄を飛ばし中央に向けて進み出す。


MAPは今回も良い仕事をしている。

自分を中心に半径10kmほどを索敵できる。


兵士の訓練用に適当な魔物の巣を強襲する。

「死ぬのが嫌なら鬼になれ!」

と言いながら、殲滅作戦を行うがその間に我々は、それ以上の魔物と戦っている。

その事実を知った兵士らはその時から顔つきが変わった。


スキルの取得方法は以前から教え込んでいる、今回の遠征で取得できる者がいると信じての遠征だ。


ショートカットして、出発してるのだ。7日も進めばかなり近くまで行けそうだ。

小高い岩山が見えてきた。

目を強化して見るとワイバーンの巣の様だ。

「ワイバーンの巣を見つけた。10匹ほど狩っていくぞ。」

と声をかけ、作戦を立てる。

先ず私が餌を取りに飛び立つワイバーンの群れに雷撃を喰らわせ、空から落とす。

落ちてきたワイバーンの後方から翼を攻撃し、その後首または頭を狙う。

5人一組で6組作る。

それ以上のワイバーンは我ら3人で狩る。


ワイバーンが狩りのため次々に飛び立ち出した。最後の方の10匹に狙いをつけて、雷撃を当てる。

落下してくるワイバーンに群がる兵士。

初撃で抵抗する力を失ったワイバーンが多く、兵士らでも危なげなく首を落としてゆく。


30分ほどで、10匹のワイバーンを仕留めた。



興奮する兵士を連れて、その場を抜けて野営する場所を決める。

周囲に脅威がいないことを確認して、テントを張り飯の準備だ。

ワイバーンの匂いをいくつかの木に付けておくと、小物の魔物は近づいてこない。


夜の見張りを三交代で行い、朝には先に進む。

さらに奥に険しい山が見えてきた。強化した目で見るといた。

「山の中腹に竜が3頭見える。お前らはここで待て、3人で様子を見る。」

と言って、3人で山に登る。

3時間後、竜の巣を発見する。

風竜の様だ。緑色の鱗が美しい。

竜は個が原則で、他人の闘いには無関心だ。


先ず、イデアが3頭の竜に魔法を叩きつける。

「スター・ホール」

私より規模は小さいが、そこそこの星降りだ。


「ドドドドド。」

爆音が山を覆う。

砂埃が晴れると、瀕死の竜が3頭。アリスが剣を手に首を切り落として廻る。


3頭の風竜の討伐終了だ。



その後いくつかの山を回り、合計15ほどの竜種を討伐して遠征は終了した。

9日間だった。帰りは転移魔法で一瞬。


侯爵領に戻りアスカ商会に顔を出す。

「これはこれは、侯爵様本日の御用は?」

めざとく見つけたケニーさんが話しかける。

「竜を15ほどの狩ってきた。どの位処理できる?」

と聞くと

「そうですね。今ならうちで3、あの子らで1、王都の商会で2というとこでしょうか。」

ケニーさんの答えに頷きながら、どれが良いか確認して納品する。


その後王都に転移魔法で移動し、商会に2頭の竜を卸す。

ついでに王城に向かい、国王に

「竜はいるか」

と聞くと

「是非に」

と答えたので、それぞれに一頭ずつ渡す。


今回ミセール王国は、ドラゴン素材で大儲けする。

国王の計らいで1年の無税を布告し祭りや武術大会を奨励する。


『また暇があったら、ドラゴン狩りに行こう』と思いながら侯爵領に戻る。



ーー ミセール国王



「竜はいるか?」

突然の訪問とその一言で、私は侯爵だろうと気付き顔を上げる、隣で執務の補佐をしていた弟も同じ様子だ。

「竜?・・ドラゴンを狩ったのですか?」

と聞き返す私に侯爵は頷く。

「「・・頂きます。」」

と弟と2人同時に答えていた、最近仲がいいのだ。


「どれがいいか見て決めてくれ。」

と言いながら侯爵は中庭にドラゴンを並べ始めた、その数9頭。

私は震える足を鎮めると、真っ赤なドラゴンを指差して

「コレが良い」

と答えていた、弟は緑色のドラゴンを貰うようだ。

以前ならドラゴンといえば、災厄の象徴だったのに。

今では公爵のお土産でしかない、感慨深い事実だ。






ーー 武術大会の開催



この世界のは娯楽が非常に少ない。そこで私は季節季節の祭りをおこなっていたが、今回武術大会を行うことにした。

褒美は、士官と富だ。

アルマの武器や鎧は、国宝級になりつつあり。報償にもってこいなのだ。


王国中に大会の実施を知らせ、1月後に開催する。

上手くいけば、恒例行事にしたい。

当然会場を作る、コロッセアと名付け観客が高い場所から覗き込むよ様に観戦するのだ。

当然賭け事も有る。露店や特設の宿もできる。

大きな人の流れが出来れば、経済が動く。


アスカ商会を起点に、王国中の商人に声をかけ商売を奨励する。

農民も旅行気分で侯爵領に足を伸ばし、ついでに王都に足を伸ばす。


「これは流行りそうだと思いながら、準備を行う。」

多分宿泊所が足りないだろうが、今から建てても間に合わない上に後が使えない。

そこで簡易の長屋を作ることにした。

炊事をする場所を共同にして、寝る場所を個別に作るのだ。

大工や農民に手間賃を出して、作っていくと。意外にいいものが出来上がった。


スライムを使った防水布を大きく長い布にして大型のテントを建てると、休憩室や治療室に迷子や揉め事の相談室にする。


10日ほど前から、参加者や観光客が増え始める。

3日前には、前夜祭ではないが祭りの様な感じで、露天が賑わい出す。


宿もほぼ満室だ。これからは簡易の長屋に入ることになるが、そこも意外と評判はいい。




               ◇



大会初日。


大会の会開式を行い、盛り上げる。


大会は3日間で予選(勝ち抜き戦)を行い、決勝の50人を決める。

次に2日かけて4人に絞って、最終日に準決決勝だ。


4人には、記念の武具と金貨100枚を渡す。

優勝者と準優勝者にはさらに褒美が渡される。


約2週間のお祭り騒ぎの始まりだ。


今回は試合の詳しい話は、しないがまたいつか話すことも有るだろう。





ーー  お祭り騒ぎが終わってからの反省会。



今回初めての試みであったため、不手際や問題点が山ほど出た。これは商売人としては宝に等しい経験と嬉しい情報だ。

これらを次にどうするかと言う反省会を連日、学校卒業生に問題として検討させる。


「今回の事で学んだ事を発表しなさい。」

と私が紙を配りながら記録をさせる。


次々に良い案やダメな案が出る。それに対し皆で検討する、こんな会議を続けると皆に考える癖がつく。

次はもっと良いものができると、実感した。



侯爵家に祭りや武術大会をまとめ管理する役職を新設した。

職員は20人、責任者は法衣の準男爵として役職を与える。

その他大会で良い成績を残し、士官を希望したものを兵士として雇うが、成績いかんでは騎士爵に任じてやるとその評判が次の大会の参加者を増加する火種となる。

今回の優勝者は、アリスで準優勝は王国近衛兵隊長のケリーだった。

ケリーには特別にアルマの武器と鎧一式と金貨1000枚を与えた。


この話は他国にも評判になり、次回の大会には是非にと参加を誓う者の手がにや紹介状が山の様にきた。



賭けは胴元が儲かるのだが、今回はアリスの優勝が固かったため、盛り上がりが今ひとつだった。



ーー  観光開発もして見る。



私はこの世界のことを「娯楽の少ない世界」と常々言っているが、だからと言ってそれで満足しているわけではない。

少しでも娯楽を増やそうと考えている。今回も観光開発を行い、人々の憩いを与える施設を作ってみようと試作している。


先ず簡単なところで、温泉だ。

この世界人に厳しいはずなのに所々で、人に都合がいいようにできている。


水が欲しければ深く井戸を掘ることができさえすれば、必ず水が湧き出るし。

温泉が欲しければ更に深く掘ればいい。

そこには魔法という手段があり、エネルギーの法則はこの世界では少しばかり歪な状況にある。


もともと地震大国といわれた日本に住んでいた記憶を持つ私だが、ここに生まれて20年あまり、地震の記憶がない。

それどころか火山を見た記憶もないのだ。


気候についても不思議な安定感がある。

雨があまり降らないのに川の水が枯れることがなかったり、砂漠化が行われたという話もない。


つまり何が言いたいかといえば、この世界はイージーな世界で私みたいな存在からすると、やりたい放題に近い世界だということだ。


                  ◇


話は戻って、温泉と美容と食のテイマパークを作ろうという考えだ。


先ずは、温泉を掘ることから。

鑑定魔法を地面に対して「水脈」「お湯」という条件で発動すると、温泉の水脈を見つけることができる。

次に土魔法で穴を掘っていく、1日掛ければ大概水脈に辿り着く。

温度は70〜90度の温泉が湧き出す、湯量もたっぷりだ。


魔法で整地し基礎を打った土台を魔法で作る。上物を大工などに依頼するための設計図を書く。

建築資材は、大森林で巨木を伐採し魔法で乾燥製材する。

大森林は1年もすると元の森に復元するので、建築資材に困ることはない。


大工たちにも身体強化できる者などがいて、重機がいらない大工たちだ。

建築期間はほとんどの場合、1月以内で巨大な城や城塞都市でもなければ年単位の建物は存在しないほど、建築期間は短い。


昔の記憶をもとにスーパー銭湯的な温泉施設と女性専用のエステ施設を作り、この世界ではまだ少ないガラス板を多く使ったレストランを貴族用と平民用に分けて作った。


ガラス板は窓として使う際に「不壊」の付与をつけると、防犯的にも安全だ。


料理については、調理法から文化レベルの低いこの世界なので、蒸し料理や揚げ料理だけでも大変喜ばれるのはわかっている。

主食のパンについても殆どは黒パンと言われた硬い物で、たまの偶然に白く柔らかく焼けたものを貴族などに提供しているようだ。

イースト菌やその他の酵母菌についての知識がないようだ。

私はパンを始め酒などの酵母を魔法の力を借りて、簡単に量産する。


最後のエステについては、私の魔力を込めた魔力水をふんだんに使った。

若返りをエステと称して体験してもらう。

日常的に体験している化粧水使用者にとっては、そこまでの効果はないがそれ以外の女性には脅威に感じるほどの違いはわかるだろう。

しかしその持続期間は、2週間ほど。

リピーターになるか化粧水を手に入れるかしか、永遠に近い美は持続できないのだ。

美に囚われた女性は、一度味わえばきっと手放せなくなることは明らかだ。



この様な施設を王族クラス、貴族クラス、庶民クラスと分けて建てることでそのプライドをくすぐる。

当然料金もプライドをくすぐる設定だ。

庶民は低価格で利用できることになる。

庶民ように特別に治療院を併設する。

簡単に治療を受けられない庶民に、温泉と治療院の効果で劇的に健康を取り戻すことになるのだ。


ここで働く従業員は、リーダー的な役職には侯爵家自慢の学校卒業の者たちだ。

学校ではマニュアルの作り方から実践方法までを徹底的に教え込んでいるので、この様な画一的なサービスを提供する施設での働きには特に向いているのだ。


下働きは、農村の3男以降の畑を持てない男手と、まだ年若い娘らだ。

娘らは許容と礼儀作法を覚えることで、より良い縁談が望めるため希望者が多い職場だ。

当然給料は高見栄に設定し、憧れの職場としている。



               ◇



完成披露。


施設が完成し、従業員の教育が済んだので、完成疲労でグランドオープンを行う。

先ずは招待客からだ。事前に招待状を発送している。

王家や高位貴族の訪問を待つ。

はじめに招待されたという、特別感が貴族などにはプライドを大きくくすぐるのだ。

そのため、高位貴族に同行する貴族の数を割り当てて、選定を所属する貴族の寄親に任せればこちらの責任や問題は発生しずらい。


ここでも問題が顕になった事柄は、速やかに解決することが大切である。

マニュアルの存在がここで生きてくるのだ。


エステに関しては、事前に元王妃様にお試しと効果を体験してもらっており、今後の女性社交の一つの武器としていただくことにしている。


別枠で家族が難病に苦しむ貴族や豪商などには、私自らの治療魔法を施す準備もあるが。これは特別枠で誰にでもは実施しない。

何故かって、難病が簡単に治ってしまえば教会や治療院の存在が揺らぐからだ。

色々な効果で奇跡が起こった。それで良いじゃないかな。



次々に施設利用の観光客が侯爵領に押し寄せてくる、街は連日お祭り状態。

アスカ商会のケニーさんも、魔法袋で仕入れをしていなければ間に合わなかったと言うほどの売上のようだ。


当然特別製の下着や侯爵家で連夜行われるパーティーも、社交の一助として大いに使われている。

エルメアも張り切って、第二の元王妃の立場を作りつつある。

もうこの王国は、私の事業無くして語られないほどになりつつあるのだ。


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