第10話 トラザール王国の女帝
ーー 女帝の王国
元王妃様を狙う黒幕が判明した。
西方の王国で最近女帝が国王となったトラザール王国だ。
女帝は自分の美しさに自信を持っていたが、就任の挨拶に訪れた元王妃の若々しさと美しさに嫉妬した様だ。
自分のプライドが、化粧水の取引の話を持ち出すことができず。
それが今回の暴挙の始まりとなる。
女帝が居るトラザール王国はミセール王国からは、馬車で30日の遠方にある王国。
間にセガール王国があり、攻め込むも抗議するにもその距離は相手にとって有利であった。
しかしそれはこの世界の常識である。
私は最近新たなスキルと魔法を習得することができた、それは
「転移魔法」と「気配完全遮断」
というもので、相手にわからない様に探るのにもってこいな魔法とスキルだった。
転移魔法は一度行った事のある場所に一瞬で移動できる魔法で、この世界では雷撃と同じで神の魔法と言われている。
◇
お仕置きをしに向かう。
ミセール王国内の密偵は既に全て片付けられ、誘拐の実行犯についても計画段階で一網打尽になった。
これを受けて私は、トラザール王国に向かうことにした。
特製の馬車に妻のエルメアに護衛のアリスとイデアを乗せて新婚旅行風で旅に出る。
「こんな旅ができるなんて、私場違いだけど嬉しいわ。」
エルメアが言うと
「「私達も」」
とアリス達が同意する。
先ず中央大森林を横切り時短を試みる。
その方法は、大森林の手前でエルメア達に待ってもらい。
私だけで中央大森林を横断するのだ。
この時不要な争いを避けるために「気配完全遮断」を使うとぶつからない限り、魔物や人に気付かれる事はない。
快速を飛ばし2日で横断完了し、転移魔法で馬車の所に戻る。
私の転移魔法は、自分から半径5mほどの物を意識している場合転移することが出来る。
一瞬で大森林の西側に移動すると皆興奮気味に
「これが・・神の魔法か。」
と言っていた。
その後も魔馬の走るに任せ、5日でセガール王国を横断しトラザール王国との国境に至った。
ここまで9日間の日程だ。
トラザール王国の王都は国境沿いの湖の近くにあるため、馬車で1日から2日のようだ。
私たちは湖のそばにある高級な旅館に泊まることにした。ここからトラザール王国の王都まで半日の距離だ。
「ここは風光明媚な観光地で、よく旅行で男女が来るそうだ。記念になってよかった。」
と私が言うと皆頷いていた。
食事もお美味しいものが多く、今回の旅は目的以外はとても良かった。
ーー トラザール王国王城へ忍び込む。
気配完全遮断を使うと本当に誰にも気づかれずに、忍び込むことができる。
物音を立てないように歩きながら、女帝が住まう離宮を見つけた。
離宮に忍び込み情報を収集する。
・女帝はメステリーア=トラザール 40歳
・子供は1人息子のセラーズ 15歳
・夫は早世し1年前から女帝として君臨している
・女帝の評判は以前は良かったが、現在は誰も信じられないが口癖である。
と言うことが判明した。
さらに離宮を散策していると、一人息子の屋敷を見つけた。
◇
セラーズ=トラザール 15歳。
私はこの国の将来の国王として毎日勉強漬けの日々だ。
国王の父上が生きていた時はここまで母上が言う事はなかったが、父上が死んでからは母の心配性がさらに強くなり・・・。
「どうすればいいのかな。もっと外の世界を見てみたい。」
と呟いていると、突然若い男が目の前に現れた。
男は口元に指を立て、静かにするよう合図する。
私はその男に興味が湧き黙って男の指示通りしていると、男が近づきこう言った。
「外に出たいのかい?出たいなら連れ出してやろうか。」
と。
私は思わず答えた
「それが可能なら・・できるの?」
男は黙って頷くと手を差し伸べてきた。
手を取れと言う事のようだ。
躊躇いがちに男の手を取ると眩暈がして・・気付くと王都の街中に立っていた。
「ええ!何故?どうして?」
戸惑う私に男は
「王都だ。どこに行きたんだ?」
と聞いてきたので。
「どこでもいいんだ、庶民の生活が見たいんだよ。」
と答えると男は「分かった。」と言って街中を進んでいった。
男は露天商と言う路地売りの店で何かを数本買い求め、私にその中から一本の串焼きを差し出した。
「これは食べ物だよね。」
私の言葉に頷く男は先に串焼きを口に入れてお旨そうに食べ始めた。
私も釣られて一口肉を口に入れると、旨味が口一杯に広がった。
「美味い」
思わず声を出した私に男は「だろう」と相槌を打った。
それから2時間ほど街中を散策して、夢のような時間を過ごした私はまた目眩と共に離宮に戻っていたが、服についた串焼きのタレが事実を物語っていた。
「どこに居たのですか?」
心配性の母上の声が聞こえてきた。
私を探していたようだ、あの男が言ったことを信じて言ってみた。
「母上、私は神の魔法を使う男に将来国王となるべく庶民の生活を見せてもらっていたのです。」
と答えると母上は
「神の魔法を使う男?どこにいるのでその男は?」
と言う母上に
「もう居ませんよ。その男はどこにでも居てまたどこにも居ないのですから。」
と答えると
「何を馬鹿なことを。」
と言いながらホッとした様子で執務室に戻っていった。
その後も毎日のように男は、私を外に連れ出してくれた。
ある時は王都、ある時は湖の近くの街、ある時は隣国セガールのとある街へと。
そんな私の様子に気付いた母上が
「セラーズ、お前は毎日どこにいっているのですか?」
と聞くので、事実を話しながらそこそこで買い求めた品物を取り出して見せた。
「これは確かに・・本当なの?その男の話は。」
と真剣に聞く母上に私は
「男はこう言いました。母上が自分の望みのままに人の迷惑を考えずに色々するならば、同じことが私の身にも降り掛かるだろうと。」
そして一本の薬瓶を取り出し
「これはある国の若返りの化粧水なるものだそうです。非を認めるならば改めて考えてやろう。
とその男は言っていましたが、それがどう言うことか私には分かりません。」
と言う息子の言葉と薬瓶に女帝は寒気を覚えた。
この離宮は厳重な警備のもとで息子を守っている場所。そこに毎日のように忍び込み息子を連れ出していると言う。
そんなことができるものなのか?
そしてこの薬瓶は、あのミセール王国の元王妃が持っていたものと同じ瓶に入ったもの。
私が配下のものに
「攫ってでもその秘薬を手に入れよ。」
と命じたものだ、するとここに来ているのは、ミセール王国の刺客。
何時でもセラーズを殺せると言う脅しなのか。
秘薬の一雫を庭の池に落としてみた。そこは手入れがされていなく濁った池で魚がいるかもわからなかった。
すると、一雫が水面に落ちた瞬間に!光が覆い一瞬で池の水が澄み切り力強く泳ぐ鯉が見えた。
「これは本物だわ。」
どう考えたらいいの。もし間違えればセラーズは居なくなる。私のたった一人の息子が。
私は直ぐに宰相を呼び出した。
「今もし我が王国がミセール王国に宣戦布告し攻め行ったら勝てると思う?」
と一緒にきた軍務卿にも質問すると直ぐに答えが返ってきた。
「あの国はおやめなさい。あの国には竜より強い男がおり、一人でトーラル王国とスミス共和国を倒しております。」
と言うのです。
信じられぬ話。するとさらに
「エデン王国で火竜が大暴れして、大山脈を超えてミセール王国に入ったことが数年前にありましたが、その男一人で火竜は無惨な死骸と成り果てました。その姿は多くの者が王都で見ており本当のことでございます。」
と言うのだ。
「もしその男が、我が王国を滅ぼそうとすればどの位で・・。」
と言うと軍務卿が
「一晩かからないでしょうな。先程言いましたスミス共和国が内戦後、隣国を併合して東に兵50万で攻め込んだ際。半刻もせぬ時間で20万からの兵が死にその後一晩で王城が瓦礫に代わっていたのです。」
と言った、しかもその場にいた兵が多く逃げ出しこの国にも移り住んでいるので、事実だと言う事は間違いないと。
私はどうすればいいのか?二人を下げると悩み出した。
すると何処からか声が聞こえた
「悩む事はない。非があれば謝罪すれば良かろう。」
と。
声がする方を見ると、若い男が立っていた。
私は直ぐに気付いたこの男だと。
「私はライディン。神の魔法を使う者。ご子息と数日過ごしましたがなかなか良い息子じゃないですか。あなたの間違いで悲しい思いをしてはいけません。謝罪は速やかに心を込めて、さすれば手助けしてくれる国が現れるでしょう。この様に一瞬で。」
と言うと姿が掻き消えた。
息子セラーズを呼びつけ、男の特徴を聞くと先ほどの男と全く同じだった。
私は今度その男が現れたら母に紹介してほしいと伝えた。
その後私はミセール王国の元王妃宛の謝罪の手紙をしたため、男の現れるのを待った。
次の日、セラーズから離宮に来るよう連絡があった。
直ぐに向かうとあの男が息子の横に立っていた。
私は深々と頭を下げて
「此度は妾の浅慮な考えでご迷惑をおかけしました。これは謝罪をしたためた書状です。」
とて渡すと男はニコリと笑い。
「こう言うものは本人に直接伝えることが良かろうと思いますがどうですか?」
と言われたがミセール王国までは簡単には行く事はできないそ思っていたら男が
「時間や距離の問題ではない。あなたにその想いがあるかどうかです。」
と言うので
「あります。そして我が王国と友好国の条約を結んでほしいと切に思っております。」
と言うと息子と私に手をかけたと思ったら、私たちは見知らぬ屋敷に立っていた。
「ええ、ここは・・何処なのじゃ。」
と言う私に息子は
「ここは何処ですか?今までとまた違う様ですね。」
とのんびりと言うのです。
すると男は
鈴を一振りしてから。私たちを伴い歩き出したのです。
すると見かけたことにある女性が優雅にお茶を飲んでいる場所に。
「貴方は・・。」
と言う私にその女性は
「女帝就任以来ですね。どうぞこちらに。」
と席を勧められ、勧められるまま座ると
「これを。」
とあの小瓶を差し出した。
「私にこれを使う事は・・・。」
と言葉を濁すと
「貴方は謝罪をされたのでしょ。ならばその話は終わりよ。彼が貴方に会って貴方が生きている事がその証明よ。彼は恐ろしい男、私の義理の息子でドラゴンより怖いのよ。」
と笑いながら話をしたがその話の中で私たち親子が生かされたことを感じた。
私は改めて謝罪をし、今後我が王国と友好国の付き合いを求めた。
その後は新国王に会い正式な書類を交わし改めて友好国としての扱いを受けた。
息子は歳が同じような新国王と馬があったようで、楽しいひと時を過ごしたと言っていた。
その日の夕刻に私たちはまた自国の離宮に戻っていた。
「やはり信じられないわ。神の魔法を使う者がいるなんて。」
と言う私の感想に男は笑うだけだった。
私は一人息子のセラーズを守ろうと気を張りすぎていたようだわ。
息子はいつの間にか成長していて、私の手から飛び立とうとしていたのを無理やり抑えてけていたようなものだった。
今回私の対応に間違いも多かったがあの男と既知を得たのは、この国にとっても大事な事だったと思うわ。
そう思うと私は神の薬を使うことにした。
次の日朝起きた私の世話をしにきた侍女が
「王様。20歳は若返った様なお顔、いやお肌。どうなされたのですか。」
と大声で驚き身体中を触って私が本人か確かめていた。
「やっぱり王様です。でも本当に・・お若い頃に戻られて羨ましいですわ。」
と言いながら部屋を出た、私は姿見に姿を写すと本当に若い頃の私がそこにいた。
私も息子に後を引き継いで、社交で息子を助けてやろうかしら。
と思いながらこれからの日々を少し楽しく考えられていた。
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