第9話 王の崩御

ーー  王の崩御と内乱と



子供が産まれて半年後、国王が崩御した。


王国内は喪に服し、今年1年は祭りなどが自粛となるようだ。


これにより、後継者争いが激しくなると思われたが、そうはならなかった。

何故て。もう一度私に怒られたくないようだ。

是非次の国王を選定してほしいとまで言われた。


第一王子も第三王子も特に能力の差がある訳ではない。

後ろ盾の高位貴族も私に睨まれたくないと言うのが本音で、特に注文はない。

そこで私はある問題を提示した。


新しい国王として、王国民に何か一つ新しい施策を提示してほしい。


と言うものだった。

期間は半年、その実用性と効果で次の国王に選ぼうと考えた。


王国民に広く布告し評価をお願いした。


この事は、王国内に大きな波紋を及ぼすことになった。



今後の利権をモノにしようと考えた、豪商や鬱々としていた貴族らが暗躍し始めたのだ。

当然自分が推す王子が国王となるかならないかで、その後の権勢に大きな影響が現れるからだ。


王国内で小競り合いが始まり出した。以前ならそのようなことが起これば、隣国が攻めてくる事もあり得たが今は私が目を光らせている為、そのような事は目に見えて起こらない。

しかし裏では・・・。



私は王妃の女性間の情報網を使い、ある事を依頼していた。

不当な商品を高値で売りつける商人や、それを奨励する貴族や役人はいないかと言うことだ。



ーー 化粧水偽ブランドの暗躍



王国内では若返りの水、化粧水が女性の間では羨望の的だ。

販売の大元は王妃が握っており、政敵には一雫も与えられない。

そんな中、化粧水の偽ブランドが現れ始めた。


どうやらリーゼが庶民相手に販売している化粧水を手に入れた誰かが、劣化版を作ることに成功した。

しかし劣化版のため、効果は美肌程度。そこで無理やり肌を痛めて薄皮ができる過程を若返りだと宣伝して販売したのだ。

しかもライディン商会の名前で。


どうやらライディン商会が私の直営店だと知らず、ライディンの街にある一つの商会だと考えたようだ。


当然王妃を通じ、正当な顧客にはその事を通知しナンバーのない商品の購入は禁止している。

するとすぐに女性の情報網に偽商品購入の貴族らの名が上がり始めた。


私は、リーゼに偽商品の薬害対応の薬を作らせ、ライディン商会で偽ブランドの商品との交換と購入先の情報提供で、薬を無料配布を行い実態解明を行なった。



さらに偽ブランドの横行は広がり、ゴム製品を織り込んだ女性用下着などの

「ロイヤルランジェリー・シリーズ」

の偽物も出始め、これについても王妃のルートを通さず購入した貴族女性らが肌の荒れなどの障害をライディン商会に訴えてきた。


女性や子供たちの肌に直接障害の出るこれらの商品で、暴利を貪る悪徳商人たちに私の怒りが炸裂する。


特定された商人やそれに通じる貴族が特定された後、偽ブランド製造の工房や販売店が次々に失火から焼け落ちる事件が続発。

その後は、関係者の家が夜間に落雷で燃えることが数多く発生した。


落雷は神の魔法と言われ、ほぼ自然現象である。

そのため特に捜査が行われるわけではないが、今回は別だ。消火の理由で屋敷内に入り堂々と証拠を探しまくった。

偽ブランド関係の黒幕や実行者が次々に明るみになり、大きな賠償を払うことになる。

当然被害に遭った購入者と名前を使われたライディン商会に賠償が支払われ。

ライディン侯爵領及び王都での商売の禁止が伝えられた。


この為悪徳商会の後ろ盾を得て暗躍していた貴族もかなりの損失を被り、その後重税に苦しみ出した領民が四散し始め急速に力を失うことになる。



ーー王子の施策



・第一王子〜教会とタイアップして月一で無料の医療行為を教会単位で行い、王国民の健康増進を図った。

・第三王子〜商人別に取り扱い品目及び量を決め、関税の緩和を行い低価格の商品流通を促した。


これらのお施策は、目に見える効果で言えば第三王子の施策が目立った。

第一王子の施策は、地方の薬師や医師の少ない農村部で評価が高かった。


半年後。

施策の判断が行われる日。


私は二人の王子をその後ろ盾の貴族と共に集め、施策のメリット及びデメリットを説明しながら今後の方針を尋ねた。


「第一王子よ。王子の施策のメリットは、医師などの少ない地方の王国民にとってとても大きな施策であるが王都や大きな街での効果は非常に小さいと言える、今後の方針はいかがかな。」

と問えば

「確かに私の施策に大きな実効性は無いかもしれないが、王国民が等しく平穏を望むために少しでもその役に立てばと思い決めたものだ。今後も可能な限り続けていきたいと思っておる。」

と答えた。


「第三王子よ。大きな効果を発揮されているようだが、今後大きな権力を持った商人をどう管理して行くのかその方法を教えてほしい。」

と問えば、誇らしげな顔で

「我の方針に誤りはない。商人は王族である我と高位貴族の管理があれば問題なく管理できると考えておる。問題ない。」

と言い切った。


そこで私は、もう一度こう提案した。

「それぞれの施策を本格的に実行してください。半年後再度効果を確認しましょう。」

と言ってその場の判断を避けた。



               ◇



3ヶ月後。


流行病が隣国から流行の兆しが見えた頃、第一王子の施策で月一の治療行為をしていた教会から報告が上がってきた。

「流行病の流行が確認されました、早期の対応をお願いします。」

と。

私はリーゼとカンヌを現地に派遣し。

病気の見極めと効果的な薬の開発を指示した。

お陰で早期に対応ができ、王国内に広がる前に封圧することが出来た。



商品の価格が急に値上がりし始めた。

第三王子の施策で大きな権益を持った大商会が、利益を上げるために商品の値を吊り上げ始めたのだ。

これは初めから予想できる商法だった。そのための防衛手段は既にとっていたがあえて。

第三王子に管理の徹底を指示した。

第三王子は、庶民の物価の流れを把握しておらず、商人の言うがままの理由を信じ。

「品薄のため、価格が高くなっているが品数は確保されていて他国よりは、マシなそうだ。」

と報告してきた。


私は商会が多くの商品を買い占め、値を吊り上げているのを見定めて。

対応手段に打って出た。

魔法の収納袋に収納している、膨大な食糧をはじめとした商品を低価格で販売し始めたのだ。

大きな利益を考えていた商人達はその事実に大いに激昂し、王子に訴えた。

「許可を受けていない商人がルールを破っている、取り締まりをしてくれ。」

と。

第三王子はその求めに従い、アスカ商会に兵を向わせた。

そこに居たのは私だ。

そのまま王城に向かい王子に

「アスカ商会は、前国王の依頼で王国の食料を保管している。物価が高騰したり飢饉の際は定期的に放出して安定した食糧供給を行うためにだ。このような時にこそ王子は商人にアスカ商会と同じように低価格で安定した供給を申し込むことが務めではないのか。」

と。

買い占めと売り渋りをしていた大商会が、王子の求めを拒否した。

「商売人は物を安く仕入れて高く売るのが基本。儲けをみすみす見逃すような事はできない。」

と言う理由だ。

王子は困った。管理してるはずが、一旦食糧不足に陥れば商人の言うことを聞くしかない自分の制度の不備に初めて気付いたのだ。


私は潤沢な資金に物を言わせて、大商会の取り扱う商品のほとんどを多く保有していた。

そしてアスカ商会通じて通常の値段で販売を続けた。

初めはそんな価格での商売が長く続くとは、思っていなかった大商会も次第に焦り出した。


安く新鮮な品物が出回る中、大紹介の商品は高い上に低位品質なのだ。

在庫を抱え、次第に資金が回らなくなる大商会が音を上げるのに、2月とかからなかった。



                ◇



半年後の判断の日。


再度王子二人を集めた私は、それぞれに施策の問題点と効果を言わせた。

そこで第三王子が

「今回のことで、我に勉強不足のことが多くあることがわかった。これよりは新国王の兄上の補佐として勉強をし直したいと思う。」

と敗北宣言をしたのだ。


私は、第一王子を見ながら

「王子の施策も完全ではないが今回大きな成果を上げるに至ったのは、王国が下々の生活を見ていると言う事実が身を結んだ物だ。今後は兄弟でより良い王国を作ることを望みます。」

と第一王子の継承を認めた。



ーー ある悪徳商会


「上手く第三王子を騙せましたな。」

酒を注ぎながら男は主人にそう告げる。

「まあ、商売もしたこともない王子相手の取引、騙すまでもなかろうよ。」

と言いながら酒を煽る商人。

この2人は今回第三王子から特別な許可をもらって商売をしている商人の代表だ。

うまい具合にこの国では凶作が起こり、食糧不足が予想でき始めた。

そこで商人らは共同で大量の食料を安く買い付け、売り渋りを始めていたのだった。

「王子から再三食料の安定今日今日のお話が来て入ります。」

商会の者から連絡を受けた照会長は

「コレまでと同じ返事をしておきなさい。」

と言いつつ、商品を少量ずつ高値で販売していた。


「商会長!またアスカ商会で安売りが行われております。」

と言う情報が入り始めた、初めは相手にしていなかった。

「どうせ長続きはしないさ。」

と余裕を持っていたがいつまで経っても、アスカ商会では安売りをやめない。

「商会長、商品が全く売れません。どう致しましょう。」

と言う話になり、あの手この手でアスカ商会に妨害を入れますが上手くいきません。

「このままでは、商品が売れず大赤字になります。」

と言う話から王子への協力依頼やアスカ商会への買い取りを依頼するが全て断られた。

しまいには金が回らなくなり、店を畳むしかなくなった。

そして街をさる前日に夜にあの男が現れた。

「我はライディン。お前のような商人は我が王国には不要だ、次この国で見かければお前も雷を受けると心得よ。」

と言うと庭に落雷が落ちた。

私は生きた心地がしないまま、逃げるようにこの王国を後にしたのだった。





ーー  新国王と隣国の交易



1年の喪が明け新国王の擁立が内外に広く伝えられた。


式典には多くの外国の王家や高位貴族が姿を見せた。

同じく今後の交易や不可侵や友好国の条約締結も行われた。


新国王は他国に舐められないようにと緊張していたが、私が側で

「国王は王国の顔である、どっしりと構え最後の時まで沈黙を守りなさい。」

と、言うと他国との折衝は私が全面で対応し、国王の承認で纏めた。


他国の王家や代表は、新国王並び代表となる貴族が年若いことから舐めてきていたが

「私がライディン侯爵である。今一度提案の条件をお聞かせ願う。神の雷に誓って。」

と言うと、どこの国も

「暫くお待ちを。他国用のものを誤ってお見せしたようです。明日もう一度提案させてほしい。」

と言うと見事なほどの逃げ足で部屋を出る他国の代表を見て新国王は

「未だ我には、国王としての実力も信頼もない。今暫く力を貸してほしいライディン侯爵。」

と頭を下げた。


その後は問題なく交易の締結や友好国の条約締結を行い、内外に

[ミセール王国の新国王はライディン侯爵の庇護にある。]

との情報が流れた。


この効果はてきめんで、ミセール王国の商人が他国に商売に行く際にも大きな恩恵があると言う。



ーー 2年の月日が流れた。



ライディン侯爵領は、その後も着実に発展を遂げ。最近では学校と言う施設の子供らが卒業を迎え始めて、次々に領内の要職に就き始めた。


優秀な子供らは、ライディン商会やアスカ商会の関係商会にも就職を始め。

大きな変革の波がライディン侯爵領から王国内に波及し始めた。


国王が就任時に始めた、教会を通じた王国民の健康管理の考えは定着し、少なくはない効果を上げるようになっていった。


ライディン商会とアスカ商会の特産品である

・簡易版化粧水

・女子用下着「レディース・シリーズ」

・ドレス

・井戸用ポンプ

は、売れ行きの安定した商品で新たな市場を狙った新製品の開発が盛んに行われている。



元王妃を中心とする、社交界の華と言われる女性らもその若々しさを保ったまま強い権勢を誇っていた。


女性にとって、いつまでも若々しいと言うことは、何者にも代え難い魅力である。

私の作る化粧水が不老の効果がある事はこの数年の結果でわかっているが、体自体が若返っているわけではないので、寿命が伸びたわけではないようだ。


よってミセール王国の貴族女性は、全て元王妃の元で結束しているので有る。


アリスとイデアが最近特命で、元王妃と妻である侯爵夫人エルメアの警護をすることが多くなってきた。


どうも、他国に狙われていると言う情報が寄せられたようだ。


どこの国でも世界でも、女性は美や若さに貪欲だ。

いつまでも若々しい姿で社交界を牛耳る元王妃の存在は、化粧水の存在と共に狙われることが多い。

今回その相手が元王妃を攫ってでも、秘密を知ろうとしているとの情報を得て。

私は捜査に乗り出した。



ーー  アリス、イデア=ライディン  サイド



私たちも今年で23歳になったが、お兄様のお陰で15・6歳の様な若々しさを保っている。

今回特別に元王妃様とエルメアへの誘拐計画があるとの情報を得て、警護に就くことになった。


どうしてこの世の者は、兄であるライディン侯爵の恐ろしさをすぐ忘れるのであろう。

兄の雷撃は避けることもできぬ、神の様な攻撃力。

その兄の身内に手を出すと言う事は、国すら滅ぼしかねない事なのに。


でもこの仕事は楽でいいわ。

毎日毎夜、パーティーに参加する護衛対象と共に、パーティーに参加し美味しい食事をするだけのお仕事なのだ。


会場周辺には、人を見張ることに特化した配下が数十人と配置され、対象者の動きは常時監視されているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る