第7話 貴族としての人生
ーー 新たな人生
指名依頼を完了した私は、することが無いまま王都の街を散策していた。
子供が路地で、地面に絵を描いたり、チャンバラごっこをしたり遊んでいる姿を見ながら。
ふと遊び道具が少ないことに気づいた。
『文明が進まななければ、遊び自体も増えないのか?』そう思いながら昔の記憶を探ると、色々な遊びや道具が思い出された。
「いくつか作って流行らせてもいいかもしれないな。」
そんな呟きをしながら、露店を廻ると。
『露店にポテトフライや唐揚げなどの揚げ物が無いな。料理に揚げる手法が無いかもしれないな。』そう言う目で見始めると、あれも無いこれも無いと思い当たることが多かった。
3日ほど一人で過ごして、ゆっくりしたところで王宮から呼び出しを受けた。
『私が宿に居ることがわかっている感じか。』見られている気がしたのが、この視線だと気づいた。
王宮に向かうと対応した女官が、第二王女の離宮に案内してくれた。
「いつまで経っても、来ないから使いをやったじゃ無いの。」
と出迎えたエルメア嬢が口を尖らせて言う。
後ろを見るとパーティーメンバーが揃っている。
「お前達はここで何をしてたんだ?」
と聞くと皆何も言わない。
エルメア嬢が代わりに
「貴方とのことを話してたのよ。分かるでしょ?」
と言われたが
「分からない。どう言うことだ、パーティーを抜けたいのなら何時でも言えば・・」
と言ったところで
「貴方本当に鈍感ね。参っちゃうわ。そのことは後で話すわ、こっちに来て。」
と手を引かれ、離宮の奥に向かう。
すると奥に妙齢の女性が一人お茶を飲んでいた。
私らに気づくと
「うふふ。仲が良いのね、皆んな。」
と微笑んでいたが、場所を考えると
「お初にお目にかかります。冒険者のカイトと申します、王妃様。」
と頭を下げると。
「確かに強い上に礼儀正しくて、頭も良いようね。娘を頼みましたよ。」
と言うとまたティーカップに口を付けた。
王妃様に軽く頭を下げつつ、濃ゆい魔力水に浄化と癒しの魔法を付与した化粧水を化粧瓶を作っておしゃれなラベルを貼ったものに入れた小瓶を10本ほど取り出すと。
「ご挨拶がわりです。夜や入浴後に化粧をする前などに顔や肌にお付けください。若返りの効果が望めます。」
とこっそり言いながらテーブルに置くと、王妃様は何事か控えの侍女に声を掛けてその場を立ち去った。
エルメアが近づいて来て
「お母様が席を立つなんて、貴方何をしたの?」
と訝しげに聞くので
「お土産をお渡しただけだよ。」
と答えたがピントは来なかったようだ。
私のパーティーメンバーは、私が国境に向かった頃からこの離宮にお世話になっていたようだが。
「気安く眠れると言う点では、自宅の寝室の方が良いし、あのベッドに勝てるものはまだ知らないわね。」
とみんなで言い合っていた。
私は
「先日褒美だとか言われて、貴族位と領地を頂戴したようだがよく分からないのだが、エルメア嬢は知っているかい?」
と尋ねると。
「ええ勿論。私たちが住むことになる領地ですもの当然よ。」
と言いながら地図を持ってこらせ、「ここよ」と指示した。
そこは、王都の北側トーラル王国にダルメス=トーラル子爵を挟んだ位置で、直ぐに隣国に対応できるとも言えた。
「公爵と侯爵に挟まれた要所と言える地理ですね。」
と感想を述べると
「その通りよ。ここは王国の食糧庫でもあるの。」
とエルメア嬢が胸を張って答えた。
そんな話をしていたところ正式な指令書が届き。明日には視察せよと言われた。
そこでエルメア嬢を筆頭にパーティーメンバーを乗せた馬車は、新しく
【カイト=ライディン伯爵家領地】
となった地へ視察に向かったのだった。
なぜこの伯爵領が私の物になったかと言うと、第一地王女の後ろ盾として隣国と通じて内乱を画策した戦犯として処分されたのと。その戦争を国境で未然に撃退した私の功績で領地替えとあいなったのだ。
王都の北門を抜けると直ぐに貰い受けた領地に至る。
「ほとんど王都みたいな感じだな。」
と呟きながら馬車を進める。
馬車の中では
「この馬車何時乗っても凄いわね。」
とエルメア嬢の声が聞こえる。
そう言えば出発前に王妃が訪れ
「昨日の化粧水を・・お願いね。」
と言って去っていったが、そのお顔はエルメア嬢のお姉さんと言っても通じるほどの若々しさだった。
エルメア嬢が思わず「誰?」と言ったのが印象的だった。
この後ミセール王国のご婦人方にこの魔法の化粧水が評判になるのに時間はかからなかった。
お陰で私は暫く魔力が枯渇するのではと思うぐらい、魔力を使って化粧水を量産したのだった。そのためか魔力量が爆上がりした気がするが、その分魔力を長時間使うので本人としてらありがた迷惑だった。
視察は問題なく進行し、領主の館のある街をこの度「ライディン」と呼ぶことになった。
そこで私は領内の首長に2年間の無税を言い渡した。
だって金は腐るほどに増え出したからだ。
領内を7日ほどかけて視察し、問題点を洗い出した。
・領民の教育程度が低い
・大きな街道以外の道が未整備
・水の便が悪い地域が多い
・病人や怪我人を治療する施設がない(高価な費用を請求する教会は別)
・薬師の数が少ない
・農具や農業技術が未熟で生産性が低い
・商人が王都が近いため数が少ないのと物価が高い
と言うのが今回感じたものだった。
私は最初に手をつけるものとして
・街道の整備
・教育施設の建設と病院の併設
・水利の整備と井戸の増設
・商売人の誘致
を目標に動くことにした。
ーー 街づくり
ライディンの街の北側を北に伸ばしそこに広い通りをつくった。
広い道の両脇には同じ規格で露天商用の屋根付きの店舗を50ずつ設置してその後ろには、宿と共同銭湯をそれぞれに建て出した。
エルメア嬢がそれについて質問して来たので
「ここをこの国の移動の中心にしようと考えたんだよ。ここをを通るとそれぞれの領地に広くて平らな街道があると分かれば、商人や旅人は利用するだろう。しかも通行税や商売の税金は無料もしくは低料金にすれば更に集まる。そうすれば食事をする所や宿泊する場所、買い物をする場所を必要とするだろ。
だから初めから必要とする物を準備して、低料金で使わせるんだよ。そうすれば直ぐに活用できるし評判が評判を呼ぶ手法さ。」
と言うと、暫く考えていたが
「よく分からないわ。」
と考えるのを放棄したようだ。
私は直ぐにアスカ商会のケニーさんに連絡をして、
「今なら好きな場所に商会を出せますよ。」
と声をかけると次の日には準備をしてやって来た。
「さすが仕事が早いですね。」
と声をかけると
「このような好機は滅多にありませんからね。伯爵の覚えが良いうちに頑張りますよ。」
とニコニコしながら場所を確認し、業者に指示をしていた。さらに
「この露店も使わせてもらえるのですか?」
との質問に
「どうぞ、一つの商品で一口という感じで貸し出します。」
と答えておいた。
その後1月で大まかな施設が完成した。
その間に私は、井戸を掘り、運河を作り、水を引いて水利を改革した。
農具については鍛冶屋にこのような農具をといくつかの設計図を渡し、作ってもらいそれを農家に無料で配布し使わせた。
「こりゃ便利だ!楽に耕作できる。刈り取りや種まきが楽だ。」
という声が聞こえ始め、農具はたちまち普及した。
各農耕地には使用者指定を施した、魔法袋を配布し農作物の保管を命じると
「保管場所が要らない上に新しいままで保管できるからこらや良いですな。」
と指名した者たちが喜んだ。
2年間は無税なので全て自分たちで消費できるのだ、蓄えと貯蓄を奨励した。
そして私は季節ごとの祭りを奨励した。
・春祭り〜雪解けと種まきを喜び
・夏祭り〜暑い夏を乗り越える息抜きに
・秋祭り〜収穫を喜び
・新年祭り〜新しい年を迎えて
の4つを基本的に決め、そのほかは地域の実情に合わせての開催を奨励した。
そして教会に対して私はこう言った
「教会が本来の目的を忘れるようなことが続けば、我が領地に居る場所がないと心得よ。」
と強く言いながら、重病者や酷い怪我人を目の前で治すのを見せた。
「この程度ができぬ者が大きな顔をすることはできないと考えよ。」
言いながらさらに薬を見せ
「これはこの領地で作られる薬だ、かなり効果がある。教会という名前の上に胡座を描く状態では、長くはないぜ。」
と更に脅した。
この結果、教会関係者が大きく様変わりして、競うように領民たちの世話をし始めた。
これを聞いた国王は、王国内全てにこの情報を流し始め、教会のこの国での在り方が変わっていった。
ーー 1年経った。
領地を拝領し開発すること1年、見事にライディン伯爵領の様相は様変わりした。
少し前までは王都の台所という感じであったのが、ライディンの街なくば王都は立ち行かぬ。
と言われるほど重要な街になり、商人がこぞって立ち寄る交易の拠点となりつつあった。
そしてこの街のライディン商会とアスカ商会の販売する商品の貴重性が、商人を引きつけて離さないとも言えた。
そして結婚と言う話だ。
伯爵として実績を上げた私にエルメア王女が降嫁しても問題ないとして、婚儀が決まったのである。
連日私はパーティーにお呼ばれする立場で、一人では体が足らないとして、元のパーティーメンバーを養子にしてみな妹としてお披露目した。
すると私と縁を結びたい貴族や豪商からの見合いの話が山のように来出した。
当然皆、エルメア嬢の指導で、貴族の娘としての教養とマナーを身につけさせられたがそれ以上に、彼女らにはスキルと言う大きなアドバンテージがある。
1番積極的なのはなんと言ってもケニーさんだろう。昔から狙っていたので是非にと商会の優秀な男性を毎週のように紹介しているようだ。
ただ我が妹たちは、誰もまだ嫁に行きそうにない。何故だ!
ーー お祭り騒ぎの結婚式とドラゴンの剥製
結婚儀が大騒ぎで終わり、屋敷を建て増しした。
そこに珍しい置物か商品を置こうと言うことになったので、私は以前から収納に死蔵していたドラゴンを思い出した。
「地竜を一体、収納しているので剥製を作ろうかと思うんだが。」
と皆に話すと
「「「地竜!」」」
と驚かれ「見たい」と言うので取り出すと、あまりの大きさに
「これで剥製を作れば、話題性は抜群ね。それ以前に竜の素材を売れば凄いお金になるわね。」
と違う方向に話が進んでいった。
アスカ商会のケニーさんに剥製の依頼を行うと共に、新鮮なので血や肉爪と鱗をいくつか剥ぎ取り王家や高位の貴族に挨拶がわりに贈った。
ケニーさんが残りの素材を競売にかけてくれたが、最終的に国家予算的な収入になった。
「また暫くは、予算の心配無いな。」
と呟きながら新たな施策を考えることにした。
そういえば我が街の露店で新しいオモチャというかゲームが売り出されていた。
・双六
・トランプ
・オセロ
・コマ
・ゴム毬とボール
等だ。考えてみれば、私がこんな物がありますとケニーさんに話をしたものばかりだ。
人の話から儲け話を直ぐに取り込むところなどできる商売人はやはり違うな。
と思っていたら、皆んなから
「あんなアイデアがあったのなら初めから教えておいてよ。」
と何故か責められるほど、王都では流行っているそうだ。
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