第2話 記事没収 女登場で新たな展開


 転生してから3日が経った。まだわからないこともあるが、この世界には、いわゆる魔法使いや勇者など特殊能力の持ち主が偉い世界だ。過去の世界に戻ったのではなく、本当に“異世界”にきてしまったと思い知る。こっちの母親は薬師としてシングルで俺を育ててくれたらしい。現代のおかんはドラッグストアで働いていたけれど、似たようなものか。最近はもう仕事もなく、この小屋みたいな家で細々と暮らしている。


 魔法使いに呪術師、弓使いに騎士。蟲使いに獣使い。特殊な能力を持つ人間は人口の約10%といったところだろうか。能力は主に他国との戦争につかわれており、ほとんどの人間が王宮使いということになる。


 隣接する3国とは冷戦を続けているらしく、物理的な戦いはないものの、牽制しあった情勢…といったところか。特殊能力を持つ人間たちは給料が多く出るが暇を持て余し、昼からバーで飲んでいる姿も珍しくない。


 能力がある“特殊な”人間は、子供の頃から英才教育を受けることで出来上がる。シングルマザーだった我が家は、生きていくのが精一杯で過剰な教育を受けることもなく俺は市民のままというわけだ。要するに、金持ちが、金持ちを育て、金持ちになる。教育格差は異世界でも起こっている。


「おっさん、おはよ」

「おう、おはよう。昨日なんかお前変だったけど、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。でもちょっと記憶喪失っぽくて、色々きいてもいい?」

「きおくそうしつぅ?ああ、いいけど、おまえほんとに大丈夫かぁ?」


 おっさんの名前はパウル。同じく市民で、奥さんと子供とはだいぶ前に別れたらしい。今は1人で暮らしていて、俺が書くゴシップだけを楽しみにしているらしい。


「で、今日はねえのかよ」

「……あ〜〜、ります!」

「おっ!……やっぱおまえ、なんか人間変わったな。もっと暗かった気がしたけどなぁ」


 ぶつくさいうおっさんに新しいメモを渡す。


ーーー花屋のラウラ、2股発覚?!相手は王宮使えの騎士フランツか?


「今日のはでけえニュースじゃねーか!フランツってあれだろ、国民的イケメンにも選ばれてるやつだろ」

「へぇ、そんなもんがこっちにもあるんだ」


 国民的美少女、男子高校生イケメンコンテスト、ネクストイケメン……あれらはイケメンだろうがイケてなかろが数字を出してくれるいいコンテンツだった。それに選ばれてたやつが2股“されてた”なんてわかったらさぞいいニュースになるだろう。スマニューのTOPは間違いなしだな。


コメント欄には女叩きのババアが溢れて、この花屋のラウラちゃんは一線をしりぞ…って花屋に一線もクソもねぇか。ま、今はインターネットがない世界。このおっさんしか読んでくれる人はいないから閲覧ユーザー数は「1」のままだ。


「おい、お前らなにを無駄話している!!」


 目線をあげると、そこには甲冑に身を包んだスマートな女がキリっとした顔でこちらを睨んでいた。


「ティナ様!すいやせん!」

「なにをみていた、その紙を見せろ!!」


ビビったおっさんは抵抗することもなく、俺が書いたゴシップ記事を女に手渡した。別にこんなもの取りあえげられてもなんのデメリットもない。あ〜あのころは、事務所からの「今すぐ記事を下げろさもなくば訴える」の連絡、怖かったなぁ。


「……これは没収する。いいか、無駄話などせず、きちんと門番をしていろ」


 くるりとむきを変えた赤髪ロングの女は、スタスタと歩いて行った。誰もこない門番を俺たちに形式のように命令だけして。さて、今日は勤務が終わったらバーに情報収集にでもいこうか。でも金がねえんだよなぁ……。

 

****


「待って待って、フランツとライラが?!超おもしろいじゃん、コレ……!」


その日の夜、安いバーで赤髪女に再開するのは、次回のお話。

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