第11話 英才教育はある意味虐待じゃね?
坐禅とは、姿勢を正して坐り、その状態で精神統一を行う禅の基本的な修行法の事である。
この亜空間に来てから十二時間は経とうとしている現在、坐禅の真っ最中であった。
次の工程は禅による精神統一で、魔力を感じ意識する事を目的としている。
日本人のヲタクにとってはイメージし易い工程で、あっさりと顕現させる事が出来た今、その魔力をコントロールし血液のように循環させるイメージをもって取り組むところまでやってきた。
「そうじゃ、なかなか筋が良いのう。そうやって魔力の塊を自在に操る事が魔闘術の基礎となる」
右手から始まりそのまま頭まで動かし左手に流す。そして左足、右足と至り右手に戻ってくる。それに慣れたら次は血液をイメージし内臓を経由させる。人体の仕組みを知っているからこそイメージしやすかったが、生物学が発展していない世界ではなかなかに困難な修行になりそうだ。
「魔力量こそまだまだ少ないが毎日精神統一を続け、更に魔力を消費する事で徐々にじゃが今後増えていくじゃろう」
魔力量には器の大きさによる最大値があり、その最大値を超える事はないらしい。俺の場合は三人分の器があり、今はそれが一つとなっている関係で将来的にはランクS以上に至るだろうとのこと。因みに俺の今のランクを聞くと正確にはわからないがE程度だろうと言っていた。
「次は魔力で身体全体を包むように覆うのじゃ。その状態を維持せよ」
中々のスパルタだ。魔力が枯渇すると倒れ、エリクサーによる強制覚醒。倒れるたびに魔力の総量は増え、魔力の放出量をコントロールできるようになってからは倒れる回数も減った。最初は数分で枯渇していた魔力も今は三十分は維持出来るようになっていた。因みにスーはこれを三日は続ける事が出来るらしい。
「できる限り薄く! そして密度の濃い膜を意識するのじゃ!」
大きすぎる膜は魔力の流れが視える相手だと戦闘において不利になるらしい。
スーは一体何本のエリクサーを所持しているのだろうか? これまでにかなりの本数を使った記憶があるがなくなる気配すらない。後で請求されないか不安だ。
「(綺麗な魔力の奔流だのう……禍々しくも美しい黒の魔力。少し我の魔力が混ざってしもうたが精神への影響は軽微で済むじゃろうて)」
十二時間後
「よしっ! 坐禅終了じゃ」
「ふう〜やっとか」
坐禅を組む事により魔力を知る。今まで闇雲にやっていた修行がいかに無駄だったか痛感する。
「これは毎日、そうじゃなぁ……最低でも一時間はするように習慣付けよ」
「わかった! なあ? 今更の疑問なんだが」
「なんじゃ?」
「スーは俺と同じ年齢だと思うんだが、因みに俺は五歳な?」
改めて考えるとお互いの事を知らな過ぎる。スーの名前が長い事、魔族である事、ここに居た理由、そして異常な強さしか分かっていない。
「我も五歳じゃ! 一緒じゃの///」
あと、なぜか照れる。
「スーはなぜそこまで知識があるんだ? 住んでいる環境も影響するだろうけど、魔族だからっていうのを加味しても異常に思える」
例え師が居たにしても二年でここまで差が付くとは考えられない。
「言ったじゃろ? 三つの時から英才教育を、受けてきたと」
「いやいやいや! 自分で言うのもなんだけど普通に英才教育の範疇を超えている」
「よく考えてみるのじゃ? 今お主はどこいる?」
「亜空間だよ」
「そう亜空間じゃ、十日間ここへ籠り、一日外で過ごす、そしてまた十日間ここへ籠る毎日を今まで二年間ありとあらゆる戦闘術、読み書きからさまざまな分野の基礎を学び、古い文献を読み漁る。そんな毎日を過ごして来たのじゃから至極当然じゃろ?」
なるほど! しかし……これは虐待ではないのか? 思考と行動がアンバランスな理由がよくわかった。
「勇者を視察するという大義名分で家を飛び出してきたというのもあるが、外の世界を見たかったというのが本音じゃ。そこでクーと出会えたのは偶然じゃが、我は生まれて一番嬉しいと感じたまさに運命よのう」
運命に翻弄される魔族と人族の友情物語ここにあり! 勇者ではなく魔族と出会った事にどんな意味があるか、それはまだ分からない。だがしかし! 一つだけ言える事はある!
この奇跡に乾杯だ。
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