第12話 魔闘術はお好きですか?

 魔闘術それは魔族における拳闘、剣術、魔術の基礎であり上級魔族なら誰でも使えるようにならなければいけない必須事項である。


「魔力の扱いは日々精進するとしてじゃ、残り二日は魔闘術を徹底的に叩き込むので覚悟するのじゃ」


「うっす!」


 いよいよ魔族の秘技である魔闘術を学ぶ事になる。人族としての高みを目指すつもりが、まさか魔族の術を会得できるとは運が良い。正直、ワクワクが止まらない。


「まあ魔力の扱いが出来ていればもう会得したようなものじゃがのう」


「そうなのか?」


「ふむ、簡単に言ってしまえば魔力を纏ったまま闘うだけじゃから、戦闘スタイルを確立してしまえば後はそれを極めるのみじゃ」


 ちょっと拍子抜けだ。もっと特別な何かがあるものだと普通は思うだろう。言ってしまえばそれは……


「それってさ? 戦闘中に強化魔法をかけるのと何が違うんだ?」


「良い質問じゃ! 強化魔法は全ての者が使えるわけではない。魔族は少数民族であり支援職を抱える程の余裕はない! じゃから自らを強化し個で闘う。それにのう……」


「それに?」


「強化魔法は時間制限がある。魔闘術は魔力がある限り切れない。そして、魔闘術を極めると周囲の魔素を吸収しながら闘う事も可能になるのじゃ! 我はまだその高みにまでは到達しておらんがの」


「なにそれ! 自動MP回復とか!」


「MP?とは何じゃ?」


「ああ、気にしないでくれ。そうか……それは是非極めたいな」


「さて、色々と言ったがクーの戦闘スタイルはなんじゃ?」


「俺は……そうだなぁ基本的には剣術がメインで扱えるようになりたいけど、まだ自分に合ったスタイルが何なのかはわからないな」


「そうじゃのう……人族は魔族のように先天的なモノが備わっているわけじゃないようだからのう」


 人族以外は万能型、人族は特化型が多いそうで。万能型の人族は英雄になる者が多いが先天的に備わってる力によるところが大きい。勇者などは特化型と思われがちだが、スーに言わせれば万能型の完成系なのだそうだ。


 人族の特化型とは近接攻撃特化(剣士、格闘)、遠距離攻撃特化(アーチャー)、防御特化(タンク)、魔法特化(支援職、攻撃魔法職、回復魔法職)、斥候特化(諜報、情報収集)とそれぞれに役割があり、個による戦闘ではなくパーティーもしくは隊などの連携による戦闘が前提となる。攻撃魔法職は遠距離攻撃も可能なので重宝されている。

 勇者は単独で各個撃破出来るほど力を持つため万能型なのだそうだ。

 適正職は生まれた時から運命づけられており、先天的に取得しているスキルはその職業に適したモノを持つ者が多い。


 因みに勇者は職業ではなく運命つけられた称号である。称号の持つ力は人生を左右させるほどの影響力を有し、後天的に獲得できるスキルもそれに適したモノになる。

 英雄になる者は称号を持ち、万能型に至った者の事を指すようだ。


 要約すると

 個の力で殲滅力を持つ=万能型

 集の力で殲滅力を持つ=特化型となる。


「今は基礎を作りたいし、応用のきく素手の近接戦闘がいいかなぁ」


「ふむ、身体が出来た時に考えるのも一考かのう。変な癖が付いて選択肢を狭めるのも良くないじゃろうしな」


「いつか師と仰げる人物に出会えた時に一から学ぶ事にするよ」


「何を言っておる! クーの師匠は我じゃ!」


「魔闘術のな」


「なっ!」


「俺の最初の師匠はスーだよ」


「最初の/// ふんっ! まあいいじゃろう!」


(ちょろいぜスーよ)


「では修行のテーマも決まったようじゃし、始めるとするかのう! 細かい事は説明せん! 見て覚え、身体に刻め込めよ! これが魔闘術じゃ!」


「えっ? いきなり? ちょっ待って!」


 殺気と共にスーが襲い掛かる。避ける暇もなく手加減されたであろう右拳が左頬に炸裂した。


「ぐえっ!」


 戦闘修行開始一秒後、小さな川の向こう側で手を振るこの世界の母の姿が見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る