第8話 護衛の仕事
不気味なほどに空は曇っていた。雨の匂いはしていないが、遅かれ早かれ降り始めそうな感じがする。
ギルバルドの一行は予定通りにセウタの街を出発した。今回同行しているのはセオドアとアッシュ、自警団員のクライブだった。
二台の荷馬車には沢山の物資が積まれている。それを囲むように持ち場につき、歩いていた。
先頭の荷馬車を指揮しているのは若き商人トーマス。セウタを中心に交易していて、その手腕はなかなか評判だった。後方の馬車は彼の従者であるレスターが指揮していた。白髪の老人ではあるが、その所作は無駄がなく、堂々としている。むしろ、こちらが主人なのではないかと思うほどだ。
ギルバルドは先頭を歩き、両脇をセオドアとアッシュ、最後尾をクライブが警護していた。
天気が崩れそうな気配だが、それ以外は取り敢えず問題はなさそうである。旅程では、セシリア教会跡地で一泊し、それからラピス村の南方にある湖の傍で一泊し、ラピス村に向かう予定である。所々で休憩は適宜挟むつもりだ。
セシリア教会跡地まで、残り半分くらいの距離で、一旦昼食にした。
木陰を探して、馬車を止めた。
手際良く、それぞれが動く。
水場は事前に調べてあり地図に記載されていて、アッシュが偵察がてら、水を汲みに行く。セオドアは火を起こした。調理はレスターが行うようだ。
「何事もなさそうで良かった」
トーマスはギルバルドに話し掛ける。
「まだまだ、これからだ。油断はいけない」
「確かに。最近は、この辺りも物騒になって、困ってるんですよね。今回はギルバルドさんに依頼できて良かった。心強い」
「いつも傭兵とか冒険者を雇うのかい?」
「はい。もちろん、積荷の量にもよりますけどね。僕もレスターも、それなりに自衛はできるのですが、まぁ、積荷を守るとなると難しくて」
「なるほどな」
レスターは手早く調理を終えて、食事が器に装われた。食欲を唆るいい香りが辺りを包んでいる。燻製肉のポトフ。それにリンゴとハーブティー。
「参ったな、豪華すぎないか」
ギルバルドは驚いてそう言った。
「美味しそうですね」
セオドアが感想を述べ、レスターの料理を褒めちぎる。
「何よりです」
レスターはにっこりと微笑むだけ。
アッシュは水汲みを終えてから、もう一度偵察に出ていた。クライブは静かに食事を楽しんでいるようだ。
ギルバルドは空を見上げる。
トーマスもそれに釣られるように見上げた。
「もう少し、天気が持ち堪えてくれると助かるんだがな」
セシリア教会跡地の方角の空は暗雲が立ち込めている。
運命に従いし者と運命に背きし者 神楽健治 @kenji_van_kagura
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