第7話 戦士の心得

 セウタ自警団の訓練所は街の西門近くにある。訓練所とは言っても、ただ小屋があり、多少の武具が置いてあるだけだ。

 小屋の傍の広場で団員らしき男達が竹刀を振りかぶっている。ギルバルドは小屋の中に声を掛けた。

 「おはようございます、ギルバルドさん。あっ、野盗の件はありがとうございました。自警団もどうにも人手不足で」

 快活に話をしているのが、自警団団長のコンラッドだ。彼はギルバルドと同い歳である。セオドアの印象では、冷静沈着なタイプに映った。

 「いやいや、いい稼ぎなったよ。傭兵稼業に鞍替えしたらどうだい?コンラッドの腕なら引く手数多だろ」

 「私には傭兵稼業は向いてないですよ。家族もいますし。今の生活で満足していますよ。ギルバルドさんこそ、自警団に加わってくださいよ。給金は大して払えないですけど、それなりの待遇だし、そこまで危険な任務も少ない」

 「そうだなぁ、そういうのも悪くはないな」

 二人はしばらく世間話を続けていた。同世代ということもあるのか、話が弾む。セオドアは取り敢えず、会話を聞いているしかできない。

 ギルバルドはふとセオドアを振り返り、コンラッドに向き直る。

 「ところで、セオドアの剣術訓練をしたくてね。誰か相手になってくれないかな、って思って」

 「あぁ、なるほど。そこの若いのと、取り敢えず試合でも」

 コンラッドは大きな声で、若者を呼ぶ。金髪の青年はクライブと名乗った。大人びた感じだが、まだ十九歳らしい。自警団に所属しつつ、冒険者ギルドの仕事も請け負ったりしている。

 冒険者ギルドというのは仕事の仲介業者の組合みたいなもので、セウタの街ではアンガスが切り盛りしている酒場が冒険者ギルドの役割を果たしている。

 「さて、取り敢えず、試合してみな」

 ギルバルドはセオドアにそう言った。

 クライブとセオドアは広場で対面し、竹刀を構える。

 「竹刀を落としたら負けだ。ただ、あまり手荒な攻め方はするなよ」

 ギルバルドが審判をするようだ。

 「始め」

 セオドアは両手でしっかり竹刀を握っている。一方のクライブは片手で竹刀を持ち、間合いを図るように横に動いている。

 風が吹き抜け、砂埃が舞う。

 一歩、踏み込んだ。

 セオドアは前傾姿勢から突きを放つ。

 クライブは軽やかに躱し、竹刀を振り下ろす。

 セオドアは体を反転させ、その一撃を受け止めた。押し返そうと、力を込めて前に進もうとすると、姿勢を崩された。手元に一撃を浴びせられ、竹刀を落とし、クライブの竹刀が喉元に突き立てられる。

 「そこまで」

 膝を着いたセオドアにクライブは手を伸ばした。その手を掴み、立ち上がる。完敗だった。

 「まぁ、こんなもんだろうな」

 「実戦経験がないのなら」

 コンラッドも同意した。

 「まずは、クライブに本気を出させないとな。陽が沈むまでには。クライブ、酒奢るから、頼むよ」

 太陽は真上に昇っていた。

 セオドアの猛特訓は、クライブを相手に続けられ、その後はギルバルドが直々に相手になった。何度も立ち上がり、挑戦するが、一度も竹刀を落とすことはできない。

 文字通り、陽が沈むまで、延々と繰り返された。

 

 

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