第6話 休日の朝に

 セウタの街の貧民街。浮浪者や身寄りのない子ども達、荒くれ者など、人間社会の中で弾かれてしまった者たちが集住している地区。とは言え、実情はそこまで荒んでいるわけではない。セウタの街は少しずつではあるが彼らを受け入れようとはしている。それでも、そこには金銭問題や差別意識などが深く根付いている。必ずしもそれが悪だとは限らない。街の団結力を高める方法の一つとして、仮想の敵を作り出すことは必然なのだ。

 セオドアはベッドから起き上がると、背伸びをし、外に出ていく。井戸の水を汲み上げて、顔を洗った。

 太陽の光がちょうど差し込み井戸が光り輝いてみる。貧民街の朝は早い。否、夜な夜な活動し眠らない者たちが朝方に戻ってきているだけかもしれない。

 家に戻ると、アッシュが起きていた。

 「早いな。どっか出掛けるのか?」

 「あっ、うん。ギルバルドさんのとこへ行って来ようかなって」

 「どうして?」

 「真っ向からさ、敵と対峙しなければいけない時が来ると思うんだ。今までは何となく修行紛いのことを一緒にやってきたけど、これからは」

 アッシュは全てを聞かずに大きく頷く。

 「間違いないな。おっちゃんなら腕は立つし、経験値も凄いはずだ。まだ俺たちが知らないだけで」

 「アッシュも一緒に行くかい?」

 「いや、俺はいいや。元々、セオドアほど剣術に適性がありそうじゃなかったし。それに、ラピス村の情報収集もしたいからな。お互いにいいとこを伸ばさないと」

 珍しくアッシュは真剣だった。セオドアは少し驚いて、反応が遅れた。

 「何だよ、変なこと言ったか?」

 セオドアは笑って誤魔化した。二人とも、少しばかり実戦を経て、思うところが出てきたの同じだったのだ。

 早朝からギルバルドを訪ねるは少し勇気が入ったが、セオドアはあっという間に彼の住んでいる家の前に辿り着いた。

 扉をノックしようとすると、先に扉が開いた。

 「なんだ、驚かすなよ」

 寝起きのギルバルドが出てきた。

 「何処か出掛けるところですか?」

 「あぁ、まぁ」

 煮え切らない答えが返ってくる。

 「どうした?俺に用か?」

 セオドアは正直に稽古を付けて欲しいと願い出た。ギルバルドは少し逡巡した後、家の中へ入るように促した。

 「取り敢えず、朝飯を食うところからだな。まだ食べてないんだろ?」

 セオドアは頷いた。

 「食い終わったら、自警団の訓練所に顔を出そう」

 ギルバルドはそう言った。

 「剣術の腕を持っている奴なんて、そこら中にいるんだ。それを理解することからだ」

 通りを歩く街の人々の声がちらほら聞こえ始めた。セウタの街はいつも通りの活気を帯びていく。

 

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