第3話 セシリア教会跡地

 教会の裏口。

 ギルバルドは短刀を構えて、ゆっくりと教会の中へと入っていく。廃墟と化した教会だが、まだ教会の意匠は残っている。セシリア教の天使の像が至る所に描かれている。清貧や平等、自由を信条とし、天使セシリアを敬うことで、死後、天国への扉が開かれる。死んだ後のことよりも今を生きることのほうが困難なのだが、人間という生き物は、ただ何かに縋りたいのだろう。

 足音を立てずに、側廊に通じる廊下を進む。蜘蛛の巣が張り巡らされ、床や壁は崩れているところも多い。

 人の気配を感じ、物陰に隠れた。

 「次の獲物は何にします、兄貴」

 「そうだな。あまり派手にやりすぎると、厄介だからな」

 「もっと大きいヤマ、俺たちならいけますって」

 その言葉に賛同するように他の野盗たちが声を上げる。

 「まぁ、早まるな」

 野盗の頭らしき男が落ちついて話す。彼は中肉中背で、他の者に比べても、迫力には欠ける。それでもリーダー格というのだから、知恵者なのかもしれない。

 油断はできないか。

 ギルバルドは野盗の数を把握した。隠れている者はいないようだが、誰かしら見張りに出ているかもしれない。

 目の前にいるのは六人だ。不意打ちなら、一気に片付けることができるだろう。手頃な石ころを掴み、礼拝堂の採光窓の下に投げ込む。

 野盗たちは瞬間的に口を閉じ、殺気を放つ。

 壊れかけた長椅子の後ろから回り込み、一人目の首にナイフを翳す。

 躊躇えば、こちらが死ぬ。

 正面にナイフを投げ付け、二人目を仕留めた。

 ギルバルドは腰に差した剣を抜き、舞うように斬りつける。

 三人目、四人目、五人目。

 残る一人はリーダ格の優男だ。

 距離を詰める。

 「お見事ですね。えっと、ギルバルドさんでしたね」

 彼は後退りながら、そう言った。

 「何故、俺の名を。何処かで会ったか?」

 「あなたは腕利きの剣士じゃないですか?この辺りでは知らない人はいないでしょう」

 「野盗に名が知れても、嬉しくはないな」

 「つれないですね」

 ギルバルドは距離を詰め、斬り掛かった。

 しかし、身軽に躱される。

 予想よりも厄介な相手なのかもしれない。ギルバルドは呼吸を正し、構える。

 「参ったな。本気ですね」

 そう言うと、優男は両手を合わせ、合唱し、何かを唱えた。

 呪文詠唱。

 魔導士なのか。

 詠唱が終わる前に、斬り掛かったが、袖に隠していたナイフで受け止める。それも片手で。

 空いたもう一方の手をギルバルドに向けた。

 「今回は挨拶だけですよ。燃え尽きろ、ファイアストーム」

 赤い閃光が放たれ、熱気を帯びた暴風が巻き起こる。

 ギルバルドは避ける間もなく、吹き飛ばされた。周りに引火するようなものはないが、床や壁に亀裂が入った。

 「何者だ、お前は」

 「名も無き魔導士ですよ。おっと、お仲間が来たようですね。いずれまた会いましょう」

 魔導士は足早に立ち去った。

 ギルバルドはようやく立ち上がると、溜息を吐く。

 「大丈夫かよ、おっちゃん」と、呑気な感じのアッシュの声。

 「怪我は?」と神妙そうなセオドアの声。

 「あぁ、平気だ。親玉は逃してしまったけどな」

 そう返事をしながら、得体の知れない相手を敵に回してしまったのかも知れないと少し後悔をしていた。

 

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